繁栄の都、命を奪う者⑪
ローブを着た男が俺の手にある両手剣を指差している。
「……ん、俺の聞き間違いか? 売ってくれ、ということだよな」
俺の返答を聞くと、後ろの二人がニヤニヤと笑う。
「いやいや、お前の命までは取らないからそれを渡せ、と提案しているのさ」
ローブの男は言って、一同の顔を見渡した。こいつがリーダー格で間違いないだろう。
「お前は命が助かる、俺たちはレアアイテムが手に入る、お互いに損な話ではないと思うぜ」
言ったのは今まで口を開かなかった盗賊風の男だった。なにが損な話しではないだ、俺が思いっきり損をしているだろうが。
「……お前らはバカか? 三人も揃って損得勘定も出来ないとは……怒りを通り越して哀れみすら感じる。お前らこそ、命を助けてやるから有り金と装備を全部置いて俺の目の前から失せろ」
最初に言っておこう、俺じゃありません。このヒヨコが犯人です! ……そんなことを言ったところで、”使い魔の発言は自分の発言と同じだろ”と言われて終わりだ。
俺の口から出た台詞に挑発されたのか、戦士風の男が手に両手斧を持ち突然叫び声を上げた。
『戦士のクラススキルで雄叫びだ、一定時間筋力が二倍になる』
すでに臨戦態勢ですか。あの大振りの両手斧から繰り出される一撃は、おそらく片手剣で受け止めたら剣が折れる。仮に折れなくても受け止めた衝撃で体の方が無事では済まないだろう。
受け止られる可能性があるのはこの両手剣だが、俺には重すぎてうまく扱えるか分からない。
『お前のクラススキルはなんだ? 筋力が足りないと思うなら補う方法は目の前にあるだろう』
……忘れていた、試すには絶好の機会というわけか。鏡写しを発動し”雄叫び!”と叫ぶ。
全身に力が溢れてくる、先ほどまで感じていた両手剣の重みが嘘のようだ。おそらくオリジナルのウォークライよりも筋力の上がり幅は小さく効果時間も短いのだろうが。
両手剣が使えるようになったからとはいえ、三対一で依然として不利な状況は変わらない。ローブを着た男が手に炎を灯すと強い光が迷宮内に走った。
薄暗い迷宮に長く滞在しているため、眩しくは感じるが目くらましには不十分だな、段々と慣れてきたぞ。
今のところ確認できているのは両手斧に火魔法か……同時攻撃されると厄介だ。あと気になるのは……ん? 盗賊が視界から消えている。
『後ろだ!』
いつのまにか後ろに回りこんでいた盗賊が、俺の首筋めがけてナイフを突き出す! ……間一髪回避するが、クロの声がなければ確実に殺られていた。
詠唱を封じるために喉を潰しに来たのか? 詠唱のない俺には関係ないが、魔法使い相手との戦闘は慣れているようだ。
安堵する間もなく何かが走ってくる音がする、不意を突いて接近してきた戦士が叫び声を上げながら斧を振り下ろしてきた。このタイミングでは回避不能だ! 両手剣で防ぐ以外に手は無い。
即座に両手剣を頭の上に構え衝撃に備える。しかし、視界の隅では魔法使いの詠唱が始まっていた、こちらに向かって何かを放とうとしている……やばい、詰んだかも。
『前に集中しろ! 魔法使いは私が対処する』
クロに言われたとおり今は前方に集中だ、歯を食いしばれ! 次の瞬間全身を突き抜ける衝撃が体を走ったが、何とか戦士の攻撃は両手剣で受け止めることができた。
両手斧の一撃が強烈だったのだろう、足元を見ると地面が少し陥没している。なんて威力だ、受け止めるのが精一杯で即時に移動もできない。
気がつけば側面から火属性の魔法、火玉らしきものが迫っていた。敵ながらすばらしい連携だと思う、最悪はダメージを受けることを覚悟していたが、次の瞬間魔法が消失する。
『火魔法と分かっていれば造作もない』
ナイスレジスト! さすがクロ先生。
火の玉が掻き消される瞬間を目の当たりにしたローブを着た男が動揺している。学園長と同じ反応だな! 魔法が消されるのはそんなに驚くことなのだろうか。
隙を見せた一瞬に捕縛月季で全身を締め上げる。さきほどのバーサーカーと違って奴の力では自力で解くことは出来まい、念のため詠唱対策として口まで巻きつけておこう。棘が刺さって痛そうだが自業自得だ。
パーティーの頭は潰した、あと二人! 戦士は魔法使いが拘束されたことに驚いて動きが止まっている。
盗賊はどこだ? ……クソ! またも見失ってしまった。
『自分の影を確認しろ!』
影!? 足元を慌てて確認すると、盗賊が影の中から這い出してくる。あまりの出来事に驚き、反射的に盗賊の顔を思い切り踏みつけてしまった。後ろから、うめき声が聞こえたので振り向くと、盗賊が元いた場所と思われるところでのびている。
『なんだあれは!?』
あれもクラススキルなのか? 影から這い出すとか、動きが気持ち悪すぎるわ!
『暗殺者のスキルで影渡りだ、半径十メートル以内の影に移動できる』
なるほど、最初に背後を取られた時におかしいと思った。視認できない速度で動いたとしても、横切る際に風の動きを感じるはずだ。それに魔法使いがわざわざ自分の火魔法を見せてきたのもおかしいと思ったよ。
『お前の後ろに影を作るためだろうな』
おかげでピンチになったのだが、火魔法を俺に見せたのは失敗だったな。レジストしてくれと言っているようなものである。
さっきから戦士が俺に両手斧を振り回してきているのだが、お前一人では相手にならない、風を送るだけなら斧ではなく団扇に持ち替えてもらいたいものだ。無駄な空振りを続けているせいか、動きもどんどん遅くなっていく。
だが、威力だけは高いようなので念のため安全策を取るか……クラススキルも雄叫びだけとは限らないし。バックステップで距離を取り、牽制も兼ねて魔法で炎の壁を作り出す。初めてにしては上手くできた。
「卑怯だぞ! 正々堂々と戦えや、クソヤロウ」
「おいおい、三対一を仕掛けてきた奴のセリフかよ、正々堂々って言葉の意味知っているか? クソヤロウ」
炎の壁の前でしゃがみ、戦士の視界から隠れる。目の前に炎がある今ならヤツの影は後ろに出来ているはずだ。さっそく使わせてもらおう……影渡りで相手の背後に回りこみ、隙だらけの後頭部を思い切り殴る。
「なっ……影渡りだと! お前のクラスは戦士じゃ……」
そう言うと戦士も気絶をしたようだ。魔法使いの方を見ると観念したようで、身動き一つしていなかった。まぁ暴れると棘が刺さって痛いからかもしれないが。
三人から武器を取り上げて、捕縛月季で縛り上げる……さて、こいつらをどうしたものか。
『殺さないのか?』
俺を殺人狂と勘違いしていないか。今までの奴は人を殺した奴なので報いを受けてもらったが、俺はこいつらから被害は受けていない……殺されそうにはなったが、殺されていないし。
他の冒険者の命を奪った可能性はあるが、かもしれない、で人は殺したくない。
『むかつくが命を取るほどではないだろう』
……うーん、どうしよう。正直盗賊の男はウォークライ中の全力踏みつけで殺してしまったかと思ったのだが、かろうじて生きていた。持っていた回復薬をありったけ使ったのだが、全快後に殺すとか拷問好きの変態みたいだよな。
「殺すなら早く殺してくれ」
「俺は死にたくない、何でもするから助けてくれ!」
「…………」
三者三様、連携は見事だったが、性格はバラバラだな。こいつらは利己主義の塊だからな、このまま助けても同じ事を繰り返しそうだ。




