繁栄の都、命を奪う者⑩
宝箱をゆっくりと閉じると、後ろから物音が聞こえてきた。ゆっくり振り向くと杖を持ったゴブリンが二匹でこちらの様子を伺っている。
おそらくだが子鬼魔術師だ、後ろから魔法を撃たれなくてよかった。
「グギャー!」
奇声を発しながら杖で殴りかかってきた。メイジのくせに魔法使わないのか? 先手を取られたが動きは遅くスローモーションに見える。
念のため大きくかわしながら杖を持った方の手を斬り落とし、返す刃でそのまま首を刎ねつつ、そのまま一回転する勢いでもう一匹を胴体ごと切断した。
『見事だな、剣の腕前だけは一流じゃないか?』
『だけ、は余計だ。父からも剣の才能を褒められたことはあるし、学校では負けたことが無い』
残念なことに、剣術のレベルが低いこの国では比べる相手がいないので、一流なのかはわからない。
おっと、ゴブリンメイジが消滅する前に杖を回収する。
使えるか分からないが、店に持って行けば売れるかもしれない。木で出来ているようなので、最悪焚き火の材料にすればいいだろう。
ちなみに一階にいたレッドキャップもゴブリンの仲間なのだが、あいつらは職に就けなかったゴブリンである。なぜ赤い帽子をかぶるのかは不明だが……。
この階はゴブリンメイジの他に子鬼盗賊が出てくるので、魔物が落とす装備品を売って小金を稼ぐチャンスだ。
道中、ゴブリンシーフに遭遇したが、死霊の手と水弾のコンボで瞬殺だった。名鑑にゴブリンシーフは素早い動きが特徴と書いてあったが、動けなければ置物と同じである。
戦果としては銅の短剣を七本と、髑髏の杖を四本手に入れることができたので、次の宝箱を見つけたら何本か入れておこう。
フロアを下りるごとに、家から持って来た懐中時計で時間経過を確認する。正確ではないが、一時間位で一フロアを攻略している計算だ。
すでに昼は過ぎているので、そろそろ帰路に着かないと帰りが夜中になってしまう。
攻略済の階層で一時間かかるとは、未踏の階層で地図を作ると何時間かかるのだろうか? 考えたくもない……名鑑が高額になる理由も分かる。
とりあえず今日は六階への階段を見つけたら、三階でクエストを達成して宿に戻ろう。
五階は魔物の生息率が高い階層で、出てくる魔物は一から四階の魔物が全て出現するのだが、能力が全体的に強化された状態となっている。
これは学校の迷宮学で学んだ知識なのだが、最深部の魔力クリスタルに近づくほど魔物が力を得た状態で生成されるらしいので、たとえ相手がレッドキャップでも油断すると大怪我を負う。
『おい、この階層にもアイアンマッシュルームが出るなら、ここでクリアしたらどうだ?』
……盲点だった。いや、本当はそのつもりだったよ、マジで。まぁ普通は三階の方が弱いので、そこでクリアしたほうが楽なのだが、ここでも意識して討伐数を稼ごう。
途中で遭遇する魔物たちは確かに低階層よりも強化されているようだが、まだまだ敵ではない。四階では魔法を使う気がなかったメイジたちも魔法を使ってきたので、変な意味で安心してしまった。
呪文自体が何を言っているのか意味不明だったが、燃え盛る玉を飛ばしてきたので火属性の初級魔法、火玉ってところだろう。
真似てみると簡単にできたが、火の玉をぶつけても魔物の皮膚が焦げる程度だったので、水弾のほうが圧倒的に強い。
『ゴブリンメイジの魔法だと思ってバカにしているから威力がでないのだ、イメージが大事だと何度も言っているだろう』
……クロに怒られてしまった、私が手本を見せると言ってクロが放った火玉は、もはや玉ではなく獲物に喰らいつく蛇のようだった。圧倒的火力の前に通路にいた魔物は次々と飲み込まれ消し炭となっていく。
『魔力を使いすぎだ! 半分近く使えば俺だってあれくらいはできるぞ』
『でも強いかもしれないってイメージは掴めただろう、先入観は最大の敵だからな』
たしかに、魔法を生物に見立てるっていうのは考えたこともなかったな……もっと頭を柔らかくしなければいけない。
『……クロ、さっきの魔法を初日のレッドキャップに使えばもう少し楽が出来たんじゃないのか?』
『…………過ぎた事をいちいち振り返るな。細かい男は嫌われるぞ』
え? 俺が悪いの? 何かモヤモヤするが、これ以上言うと怒り出しそうだからやめておこう。
しかし、この階層は敵との遭遇率が高すぎる、気がつけばクエストキノコも八本となり後二本だ。銅の短剣と杖に至っては二十本を超えたかもしれない、後は未鑑定だが腕輪を一個拾うことができた。
おそらくマジックアイテムだと思うので、鑑定するのが非常に楽しみだ。
順調に階段に向かっているなと思っていた矢先に、あきらかに遭遇したことがない魔物が前方を我が物顔で歩いている。つまり、階層ごとに出現する可能性のある希少種だ……通常の魔物よりも一回り大きく、纏っている雰囲気も違う。
「あいつは……四階の子鬼狂戦士だ」
通常のゴブリンは八十センチくらいなのだが、バーサーカーは二倍くらいありそうだ。ゴブリン特有の緑色の肌に自分の身長よりも大きい両手剣を持っている。
名鑑によるとゴブリンバーサーカーが百匹いたら、百匹が全部違う剣を持っているらしい……理由は迷宮の胃袋にある魔力付与の両手剣を持って生成されるためっていうのが有力だ。
つまり、あいつが持っている武器はレア武器なのだ!
「先手必勝!」
俺の存在に気がつく前に心臓めがけて一直線に突きを放つと同時に捕縛月季を発動する。
必勝パターンだと思ったのだが、四肢に絡まった捕縛月季をあっさりと引き千切り、俺が放った突きは持っていた剣の石突で、上手く軌道を逸らされてしまった。
回避されることを考えていなかったため、無防備となっている脇腹にゴブリンバーサーカーの蹴りが直撃、あまりの威力に十メートルほど吹き飛ばされる。
肋骨が何本か折れたようだ、痛すぎる! が、肺に刺さらなかったの不幸中の幸いと言うべきか、相手は休む暇も与えまいと、剣を構えた状態で突進してきた。
クソ! 死霊の手も効かないのか! 何度も足を掴むが、強引な力技に、死霊の手が簡単に蹴散らされていく。
『完全に油断していたな、遠距離から魔法を使えばここまで苦戦はしなかったのに』
今更そんなことを言っても仕方ないだろう! ……だが、油断したのは事実だ。ここまでの温い戦闘に慣れてしまって、希少種だろうが楽勝だろうと高を括っていた。
避ける度に体が軋む、激痛も走る、もう帰りたい気持ちを抑えて前方の魔物に集中する。カバンから回復薬を取り出す余裕もあるくらいなので、油断さえしなければ十分勝てる相手だ。
ある程度の時間を稼ぎながら回復を待つ、痛みはまだ引かないが最初に比べたらかなりマシになってきたので、そろそろ反撃させてもらう。
長い得物には超近距離で戦うのがセオリーだ、格闘も威力が高いようだが当たらなければ問題ない。
ゴブリンバーサーカーからの横薙ぎの一線をしゃがんで回避し、がら空きとなっている腹部に水弾を撃ち込む、一瞬苦悶の表情を浮かべたが、お構いなしに攻撃をしかけてきた。
心なしか口から血を垂らしながら笑っている気がする。このまま押し切れると思ったのだが、相手もバカではないようで、両手剣を投げ捨て近距離での格闘戦を挑んできた。
その思い切りの良さは見事! 剣を持っていないとしても、素手の一撃は受け止めるだけで、文字どおり骨が折れる。
俺が立ち上がったところにお得意の蹴りを放ってきたが、それは一度見たから二度目は通用しない。頭を的確に狙ってきた回し蹴りに対し上体を反らせて回避し、蹴り上げた踵を左手で思い切り横に払う。
そのまま勢いあまって体が半周し、無防備な背中を晒した所で隠し持っていた銅の短剣を奴の脳髄に思い切り突き刺した。
「ウグッ!」
短くうめき声を上げると、ゴブリンバーサーカーは前のめりに倒れる、時折反射でピクピク動いているが、銅の短剣を頭から抜き取ると完全に動かなくなった。
『辛勝だな……お前は格闘戦も得意だったのか』
得意ではない、ただ回避して急所を刺しただけで正直に言うと死ぬかと思った、実際死ぬほど痛かったし。後は、レアアイテムを回収して……。
「いやー、お見事だよ」
突然の声に驚き後ろを振り向く、そこにいたのは三階で遭遇した三人組の冒険者だった……いつから見ていたのだろうか。
「なぁ君、その剣を私たちにくれないか?」




