繁栄の都、命を奪う者⑨
魔物は針鼠と青蝙蝠か、まだまだ敵ではないだろう。本を閉じるやいなや、前方から青い蝙蝠が一直線に向かってきた。
直線的な動きだったので、水弾で眉間を打ち抜こうとしたが、空を飛ぶ魔物は狙いを定めにくい。
しかし、そこまで動きが早くないので射撃の練習には丁度良かった。たまに放ってくる超音波に三半規管がゆらされて気持ち悪いが、それだけだ。
しばらくして現れたスパイクラットは全身をトゲで覆われている、体を丸めて威嚇をしている様はかわいらしさもある。
トゲを飛ばしてくる様子はないので、体当たりをしてくるだけなのだろう。それならば捕縛月季で縛ってしまえば楽勝だ。
……この階層は敵が多いな、まぁこれが普通なのかもしれない。魔物を倒した際にいくつか魔石を落としてくれたので回収していく。
魔石は装備品の製造に使うか、魔力炉と呼ばれる都市結界の燃料や街に設置されている魔力灯の燃料にもなるので売る事ができる、この程度の魔石では石貨一枚になるかも怪しいが。
あと迷宮で注意しなければいけないのが、大部屋化である。最終的には元に戻るのだが、文字どおり階層全体が大部屋になることがあるのだ。
魔物が一斉に襲い掛かってくるだけならいいのだが、元に戻る瞬間に巻き込まれると、壁の中に埋まるってこともあるらしい。
そうなったら即死、迷宮に喰われてしまうのだ。下りた瞬間が大部屋のときは階段から動かないで待つのがセオリー、探索中に大部屋化したら、階段に向かってとにかくダッシュだ。
次々と現れる魔物を蹴散らしながら二階のフロアを探索し、通路を道なりに進むと小さな部屋に出た、左右に道が伸びているが正解は右である。左に行くと行き止まりに罠のおまけつき、と……名鑑を買っておいてよかった。右に進んでからもいくつか分かれ道はあったが、問題なく正解を選ぶ。
そうこうしているうちに、あっというまに二階も攻略だ。肩の上で、なぜかリラックスした様子でヒヨコが寝転がっていた。この階層レベルの魔物じゃ、俺一人で十分と思っているのかな? 階段を下りながら、クロに話しかける。
「クロはクラス名鑑を読み込んでいるんだろ? そこで教えて欲しいんだけど、クラスってスキル習得以外に恩恵無いの? 俺のクラススキルでは通常戦闘に使えないからさ……」
「名鑑の情報でよければだが、基礎能力が向上しているらしい。お前のクラスにもそれくらいの恩恵はあるだろう。あとはクラス熟練度を上げれば、スキルも増えるしクラスアップも可能だ。稀にクラスが自動的に変更される場合もあるらしい、自分に大きな変化があったとき限定のようだが……』
大きな変化って何だよ、つっこみたいがクロも分からないのだろう。
三階に下りると迷宮の雰囲気が変わった。今までは人工物のような感じだったが、いまは岩肌がむき出しになり薄暗い、洞窟のような感じだ……雰囲気のせいかもしれないが、ひんやり肌寒い気がする。
ここにアイアンマッシュルームがいるのか、あとは大蛞蝓……でかいナメクジは気持ち悪いから魔法で仕留めよう。
今までとの階層との違いに戸惑いが隠せない。自分の足音が歩くたびに反響しているのがわかる、これでは自分の位置がバレバレだ、出切るかぎり忍び足で移動していると、通路の奥から話し声が聞こえてきた。
他の冒険者だろうか? クエスト対象階だから居ても不思議ではないが、警戒をしながら近づいていくと、どうやら三人組のパーティーらしい。無駄に警戒をしても意味がないので、横を素通りしていく。
「……おい、あいつ一人みたいだぞ」
背の低い戦士風の男がこっちを指差している、人を指差すなと学校で学ばなかったのだろうか、非常に不快である。そんな俺の様子に気がついたのか、ローブを着た魔法使いっぽい男が声をかけてきた。
「そこの君、もし一人なら一緒にパーティーを組まないか?」
……え? 俺もしかして誘われているの? これがナンパってやつか?
「俺のこと?」
間の抜けた返事をしてしまった。声も上ずってしまい、かなりダサい。
「そう、真っ赤な服装をしているキミ」
どうしよう、誰かと組むつもりは全くないが、誘われたのは正直嬉しい……だが、初対面の人を信用するのもどうかと思う。
「……この先に仲間が待っているので、遠慮しておきます」
揺れる心を抑えて、大人な対応ができた。俺には仲間がいるぜ! アピールもできたから、ヤバイ連中だとしても迂闊に手は出せまい。
「……それは残念だ、またの機会に」
ローブを着た男はそう言ったが、言葉とは裏腹にさほど残念そうな様子はなかった。別れを告げ、歩き出すが背中に視線を感じる……ずっとこっちを見ているな、何だか嫌な感じだ。
この階層は先に抜けよう。五階まで行って戻るころには、こいつらも帰っているはず、帰り道でクエストをこなしても遅くはない。
クロは俺の肩に乗り後ろを警戒してくれている、これである程度の奇襲はカバーできるはずだ。足早に階段までの最短距離を進む、途中でアイアンマッシュルームを三匹倒すことができた。
何匹か倒して気が付いたけど、あいつら動かないのね、金属製のでかいキノコがいきなり生えていて驚いたわ。
攻撃も鉄の胞子を飛ばしてくる遠距離型だったが、当たったところで痛くない。しかし、剣で斬ってみると見た目以上に硬かったため、風刃で片付けた。こいつの弱点は確か火だったのだが、火はダメだとクリスに注意されているからな。
階段までの道のりは、思ったよりも魔物に遭遇しなかったので、二階と比べると早い時間で攻略できた。ビッグスラッグはまだ見ていないけど、四階に向かうか。
四階の魔物は魔法を使い始める。難易度が少し上がるのだが、宝箱も出現するので危険を冒す価値はあるだろう。地図を確認しながら宝箱のある部屋まで進む、開けてみるが中身は入っていなかった。
しかし、迷宮での宝箱の役目は取り出すことだけではなく、持ち物を入れても効果を発揮する。途中で手に入れた不用品や装備品を宝箱に入れておくと迷宮に吸収されて、マジックアイテムとして吐き出されるのだ。邪魔な物の再利用にも一役買っている。
地面に置いても時間経過とともに飲み込まれるのだが、宝箱から吸収されたほうがマジックアイテムになる時間が大きく短縮されると言われている。
当然必ず自分が手に入れられるわけではないのだが、誰かが入れたアイテムを手に入れることもあるので、持ちつ持たれつといった感じだ。
ここで注意事項として、迷宮内の宝箱は罠か宝箱の姿をした魔物である確率が非常に高い。名鑑に書かれているから開けているが、通常はほとんどが罠である。
とりあえず宝箱に魔石を何個か入れる、このままでは売れるかも分からないクズ魔石なのでとりあえず突っ込んでおこう。
ブックマークや評価をしてくださった方、本当にありがとうございます。
小説をはじめて書きますので、読んでもらえることがここまで嬉しいこととは思いませんでした。
……遺書みたいですね、今後ともよろしくお願いいたします。




