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素晴らしき このイカれた世界  作者: hi-g
魔導の神 ミトラス編
20/67

繁栄の都、命を奪う者⑦

 とても小さい声だったので、良く聞き取れなかったが先ほどまでのハルカからは想像できないような発言だったような気がする。


「あ、ごめんなさい。働きすぎなのか、たまに意識が遠くなるんですよ。私が欲しいのは誘惑(テンプテーション)って魔法です。そろそろ結婚しないとヤバイ年齢になってきましたからね」


 慌ててハルカが禁呪の説明をしてきた、さっきの小声は俺の聞き間違いだったのかもしれない。それにしても、誘惑ねぇ……想像するに、その魔法を使って結婚しても幸せになれそうにないが。


「じゃあハルカさんは、ミトラス様が迷宮入りする具体的な日程を調べてくれるってことでいいんだね?」


 ハルカがコクリと頷く。


「わかりました。ミトラス様の迷宮入り日程はギルドマスターが管理しているので、こっそり見ておきます」


 言い知れぬ不安を感じるが、今はハルカを信じて依頼を達成するしかない。俺はハルカにお礼を言ってギルドを後にする。午後から迷宮に入る予定だったので、別のことをして時間をつぶす必要があるな。


『金が手に入ったのなら、必要備品を購入してはどうだ』


 それもそうだな、買い物は予定に入れていたし街の散策もしてみよう。まずは迷宮内で注意すべき毒対策として解毒薬からだ、ここから近い道具屋は東通りだな。


 道中、様々な露店が目にはいってきた。ここで露店を開いているのは、職人の卵たちだ。

 値段が安い代わりに、効果も正規品より低い、少しでも節約をと思い露店で回復薬を十個購入する。当然解毒薬も置いてあったのだが、これだけは効果が発揮されないと死んでしまうので正規品を購入することにした。


 だが稀に才能豊かな職人の卵がいて、安くて効果も高い場合があるから侮れない。そんな掘り出し物を探すのも中々楽しい。

 大通りの作りがどこも同じなので迷いそうになるが、地図を見ながら探したので幸いにも道具屋はすぐに見つかった。中に入るが、あまり客はいない。

 怪我の治療や毒は魔法で解決できるから買う必要がないのだろう。回復魔法が使えない俺は、解毒薬と止血剤とを何セットか購入する。


 クリスの言ったとおり、露店から個人商店までギルドカードで買い物が可能だった。便利な反面、手元に効果が一枚も無いと少し不安になる。


 後はミトラニア迷宮名鑑を買っておこう。迷宮名鑑とは今年までに出現したアイテムや魔物、おまけに希少種(レアモンスター)の情報、攻略されている階層の地図に罠の位置まで記載されている。

 高額だがここをケチると命に関わってくるので買うしかない。まぁ、他の国に行った時はその国の迷宮名鑑と交換できるため、出国しても無駄にはならない仕組みになっている。


 今度は本屋か……地図とにらめっこをする……あった、南口と北口に一軒ずつあるみたいだが、店舗の大きさは南口のほうが大きそうだ、南口にはまだ行ったことないから南口の本屋にしよう。書店は比較的中央広場寄りだったので、すぐに見つかった。パッと見た感じ本の品ぞろえも豊富なようだ。


 各種魔法書から、クラス教本、俺のお目当てである迷宮名鑑もすぐに見つかった。何か使える魔法はないかと思い、魔導書を手にとって中を見ると魔法の効果と呪文が詳細に書かれている。


 定形文で魔法が使える奴なら有用なのかもしれないが、俺の乏しい想像力では文章から魔法をイメージできないぞ。魔法の発動などが図解されている魔導書はないかと探してみるが、どの魔導書も文章のみの説明で俺の役には立ちそうにない。


 本を手にとってはパラパラと捲り、棚に戻す。そんなことを繰り返している内に長い時間が経過していたのか、いつの間にか隣に本屋のおじさんが立っていた。さっきから横でゴホゴホ咳払いをしている……ああ、立ち読みするなってことね。


 仕方ない、当初の目的であった迷宮名鑑を買って帰るかな。本を手にとり値段を確認すると五十万トラスと書かれていた。マジか、高すぎるだろ! ……そしてメチャ分厚い。だが、これがなければ階層毎の魔物の傾向や、罠の位置がわからない。


『リオン、この本も買ってくれないか』


 クロが一冊の本の上に乗っかっている……本の表紙を見るとクラス名鑑と書かれていた、そんなのもあるのか。本を手に取るが、これもけっこう分厚いな…… 金額を見ると五十万トラス、二冊買ったらクエスト報酬から引いても赤字になるわ。


『こんなものを買ってどうするよ、俺のクラスは載ってないぞ』

『わかっていないな、お前のクラススキルは相手のスキルを視認して発動するのだろう』

『ああ、それがどうした』

『つまり、相手のスキルが何かわからなければ発動しないってことだ』


 ……気がついていたよ、まじで。その目は疑っているね、ヒヨコさん。はぁぁ、ため息しか出ない、俺のスキルやはり弱いわ。いや、相手がスキル名を叫んで発動してくれれば、分かるかもしれない。


『買うかはお前に任せる。私は一度読んだものは忘れないから後々役に立つとは思うぞ』


 クロが読んでくれるならいいか、知識も共有されるかもしれないし……そこまでいうなら買うべきかなぁ。でも併せて金貨十枚だぞ! 金貨自体初めて手に入れたのに、手に入れたその日に全部使うとか……セレブか俺は。

 ちなみに金貨十枚は一般兵の給料四か月分だ。


 ……本も重いが足取りも重い、なんとかカウンターにたどり着く。二冊で九十万トラスにしてくれないかな、なんて淡い期待を抱くが所詮は幻想だった。本屋のおやじめ! ニコニコしやがって、少しくらいは値引きしてくれよ! ダメもとで言った、メモ紙とペンをおまけしてくれただけマシか。


 生活費に余裕ができたと思ったが、一日でマイナスになるとは思わなかった。残金は四万四千トラスだ。


 まぁいい! いい買い物ができた! そう思うことにする。本屋で思った以上に時間が経過していたようで、気が付けば日が暮れており、魔力灯が夜道を照らしていた。

 さすがに早朝ほどの人どおりはなかったが、それでも多くの人が行き交っている。


『今日は晩御飯食べたいぞ』


 餌を待つ雛のように口をパクパクさせている。喋らなければかわいいのだが。


『そうだな、日も暮れてきたから宿に帰るか』


 今日の目的は達した、ミトラスに会うためにもまずは死者の書を手に入れる。一歩ずつではあるが、前進しているのは間違いない。 宿に戻るとおっさんが笑顔で迎えてくれた。


「お、今日は晩飯食えそうだな! 俺の自信作だから楽しみにしてくれ」


 これが美少女だったらなぁと思うのは俺だけではないはずだ。鼻歌を歌いながら厨房に戻っていくおっさん……ドワーフで筋肉質なんですよね。


 食堂に入ると先客がいるが相席はゴメンだ、関わりたいとは思わない。本来なら迷宮にもパーティーで挑むべきだと思うのだが、この国の人は信用できないからな、ピンチになったら平然と俺を見捨てて逃げそうだし。

 つまり俺は自らの選択で一人になっている、戦略的一人ぼっちと呼んで欲しい。


 今日の晩御飯はパスタだった、クリームソースに鶏肉が使われているシンプルな一品であったが、このクリームソースっていうのはけっこう腹にたまる。

 朝も思ったのだが、クロが鶏肉を食べる様は非常にシュールだ、あえて何も言わなかったが……ウマイな! と言われても、苦笑いしかできない。


「どうだ、俺のパスタは! 材料全てが自家製だ」


 うまいみたいですよ、ヒヨコの感想ですけど。それにしてもおっさんは俺に絡みすぎじゃないか? 他にも客はいるだろう。

 毎回感想を求められても困るから、正直に味覚消失を起こしていることを伝えることにした。


「正直に言うと、何を食べても味がしないんです。食べるのが少し苦痛なくらいですよ」


 そこまで言うとおっさんの顔が高潮しはじめた。今にも怒り出しそう、いや殴られそうな雰囲気である。赤くなるおっさんに青くなる俺、気にせず食事を続ける黒いヒヨコ……誰か助けてくれ。


「何か様子がおかしいと思っていたら、俺の料理の味がわからないのか……!」

「いやいや、おいしいとは思うんですけど……」

「おいしいと思う? だと……」


 ドツボにはまった。もう全てが手遅れだ、この職人気質のおっさんでは追い出されかねないな。


「久々に腕がなるぜぇ……」


 ぼぼぼ、暴力反対です。その筋肉ダルマみたいな腕で殴られたら即死ですよ。


「……後七日か、十分だな。お前に必ずウマイと言わせてみせる!」


 ……そっちですか。逃げるなよ、と言って厨房に帰ってしまった。


『この味が分からないとは、頭と舌は連動しているのだな』


 どういう意味だ、カラーヒヨコ、お前を丸焼きにすれば味覚も戻るかもしれないな。



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