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素晴らしき このイカれた世界  作者: hi-g
魔導の神 ミトラス編
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繁栄の都、命を奪う者④

「このギルドカードは便利に出来ておりまして、今もっているお金をカードの上に乗せてみて下さい」

「お金を?」


 何のために? と聞き返しそうになったが、言われるがままカバンからお金を取り出して乗せてみる。すると何の魔法なのか、お金がギルドカードに吸い込まれていった。


「カードの通貨欄に残金表示がされているはずです、そのカードを使えばどこのお店でもカード払いが可能ですよ」

「たしかに、通貨欄に五万七千トラスと記載されている……すごいなぁ」


 いちいち硬貨を持ち運んだり、数えたりする必要が無いのは非常に大きい。これだけでもギルドに登録する価値が十分にあるぞ。


「そうそう、ギルドカードのクラス欄を指でタップしてみてください、クラスの説明とクラススキルの説明が確認できますよ。リオンさんはレアクラスなので、できれば人がいないところで確認した方が良いです」


 まどろっこしいな、ここで見たいのだがダメなのだろうか。


「ここで見たいって顔していますね。一般職なら内容が知れ渡っているので問題ないですが、レアクラスの場合はスキルを秘匿しておいたほうが無難ですよ。わざわざ手の内を明かすマネはしないほうがいいです」


 ……そういうものなのか? ここはイケメンの言うとおりにしておこう。ギルド登録もできたようなので、本来の目的であるクエストを受注したいのだが、何を受ければいいのかわからない。


「残金を見て分かると思うのですが、田舎から出てきたばかりで生活費を稼ぐ必要があるんです。何かオススメのクエストはありませんか、できれば報酬が高い方が良いです」


 そう言う事なら、とクリスはファイルを取り出して一枚の紙を渡してくれた。紙には大至急! 迷宮クエスト、レッドキャップの討伐一匹銅貨一枚と書かれていた。


「北口から外に出ると目の前にミトラニア大迷宮があります。そこの一階になぜかレッドキャップが大増殖していまして、騎士団から駆除を依頼されたのですが、あまりの多さに駆除が中々進まないんですよ……」


 Fランククエストだからそんなにも強くはないだろう……初めてのクエスト受注に舞い上がってしまい、途中からクリスの話は耳に入ってこなかった。レッドキャップは俺が子供の頃に余裕で討伐できた魔物だ。一匹で千トラスも貰えるならやるしかないだろう。


「じゃあこれをお願いします」

「そうですか、では受注作業をしてきますのでカードの提出をお願いします」


 クリスにギルドカードを手渡す、奥で手続きをしているようだ。


「確かに依頼させていただきました、クエスト詳細は全部目を通しておいてくださいね。手数料の千トラスはすでに引き落とし済みです。それとギルド職員に敬語は不要ですよ、こちらは仕事をお願いしている立場ですからね」


 通貨の欄を確認すると、確かに千トラスが減っていた。さてと、早速だけど迷宮に行ってみようか。とりあえず今日は様子見、倒せそうだったら十匹だけ倒そう。それで銀貨一枚分、今日の生活費だ。


 北門までは中央広場から一直線なので迷うことはなかった。

 王都の中に入るのには時間がかかったが、外に出るときはフリーパスなので簡単に出ることができた。中に入るときはギルドカードを見せれば入れるはずだ。


 外に出てみると入場待ちの列はなかった。迷宮があるから、この北門には一般人はあまり近寄らないのかもしれない。それを知っていたら最初からこっちに回ってきたのだが、その分危険も多いのかな?


 門の外に出たら目の前にそれらしい、大きな穴があいていた。迷宮は魔物の巣窟なのに、随分と近くに街を造ったな……おそるおそる覗き込むと階段が奥まで続いているが、中は不思議なことに明るい。


「一階を見るだけなら大丈夫だろ」


 迷宮は人気がないのだろうか、周りを見るが自分しかいない。本当にここで合っているのか不安になるが、入れば分かるよな? と安易に考えて足を踏み入れる……が、これが大きな間違いであった。


『誰もいないな、本当にここで合っているのか?』


 一匹倒すだけで銅貨一枚もくれるクエストなのに、人がいないのもおかしい。


『たしかになぁ、受付員オススメクエストだから、誰もいないのは違和感がある』


 迷宮の中はレンガ造りになっており、まるで人工物のようだ。床から天井まで赤茶色いレンガが敷き詰められている。空気の逃げ場がないからなのか、かなり強い血の匂いがしてきた。


 通路の幅は約四メートル、高さも同じくらいか。迷宮って自然にできるはずなのに、人の手が加わったように見えることもあるのか。罠に触らないように注意深く歩くが、入って五分でクエストを受けたことを後悔した。


 ……通路の先をみると床が真っ赤に染まっている。先ほどの匂いの正体はコレだ……大繁殖、ってレベルじゃないだろう。


 体長八十センチ位の赤い帽子をかぶった緑色のおじさん達が通路に溢れかえっている。むせ返るような血の匂いが充満しているので、かなり気持ち悪い……レッドキャップはこちらを見ることなく、一心不乱に何かを貪っていた。


 何をしているのかが気になり、目を凝らしてみると、レッドキャップの手に握られているものを見て絶句する。人の腕らしきものを持っている者もいれば、千切れた胴体から臓物を引きずり出して笑っている者と……様々な部位を持って奪い合っていた。


 それも一人や二人分じゃない、おびただしい数の冒険者が犠牲になったようだ……あ、用事を思い出した、帰ろう。

 回れ右して後ろを振り向こうとした瞬間、膝の骨が「ポキ」と小さい音を出した。日ごろの運動不足を呪う。

 一斉に振り向くレッドキャップたち。新しい餌が来た! と言わんばかりの歓声をあげている。


 ……これって逃げたらどうなる? 街にこいつらが流れ込むのかな。


『考える暇があったら攻撃しろ、先手必勝だ!』


 クロが炎槍(ファイアジャベリン)を展開していく。幸いにも左右は壁のため囲まれる心配はない、前方の敵にだけ集中すればいい。


 クロが魔法を放つと同時に俺も同じ魔法を展開する。複数展開が可能な魔法はこれしかない、交互に放っていけば容易には近づけないはず。

 しかし、魔法の錬度の差なのか、クロは十本近く同時に出せたが、俺は五本が精一杯だった。レッドキャップを効率よく串刺しにしていくが、いかんせんキリがない。


『あと何匹倒せばいいんだ!』


 俺の魔法一発でレッドキャップを十五から二十匹串刺しにしている。所詮はFランククエストの魔物、全然強くはないようだ……しかし、数が多すぎる。


 消費魔力を五パーセントに抑えてはいるが、最大で二十発ってことだ。この調子で行くと、もうすぐ弾切れになる。


『あとどれだけ倒せばいい?』


 クロが合間に索敵(サーチ)を使うが、溜息しか聞こえてこない。


『数え切れない、正確に言うと魔素に阻害されてうまく発動しない』


 ……まずい、これは非常にまずい。何か手はないのか、クロ先生!


『残り魔力を全部使って水流落下(ウォーターフォール)だ、四方に逃げ場がないから水は鉄砲水に近い威力が出せる』


 俺がクロから最初に受けた魔法か……よし、それ採用。他の手を考える暇はない、全魔力の水流落下(ウォーターフォール)! イメージは滝だ!


 自分の目の前に大瀑布が発生する。地面に直撃すると逃げ場のない水は圧倒的な水量で敵を一気に押し流していくが、問題は平坦な道だったので、こっちにも水がきていることか。


『……これは計算外だ』


 少し考えればわかるだろう、人のことは言えないが。さすが俺のイメージした滝だ、ものすごい勢いで押し流され、迷宮から噴水のように水が溢れ出す。俺も水に押し出された勢いで遠くまで飛ばされ、森の中に突っ込んでいた。


「くそ、魔力切れで目が霞む……」



 ━━長い時間気を失っていたらしい。目を覚ますと、四肢がうまいこと木の枝に引っかかっている……下手に動くと木から落ちそうだ。


「やっとお目覚めか」


 ポケットの中からクロが出てくる。どこかに流されていなくてよかったな。


「どのくらい気絶していた?」

「半日くらいだ、魔素を取り込んでおいたから魔力もある程度回復しているだろう」


 言われてみると半分くらいは回復している感じがする……ところで、さっきからその魔素ってなんですか、クロ先生。


「文字どおり、魔力の素だ。迷宮は高濃度の魔素で満たされているからな、通常よりも魔力の回復が早く魔物も生まれやすい」

「……それならさっきの戦闘中に随時取り込めば魔力切れを起こさなかったんじゃないのか?」

「取り込んだら即魔力に還元されるわけではない、ある程度の時間は必要だ。ご飯だって食べたら即体力に還元されるわけではないだろう」


 おお、わかりやすい例えをありがとう。魔素から俺の適正魔力へ変換するのに時間がかかるってことね。やるだけのことはやっていてくれたってことか、クロの判断で命拾いをしたのだから、まずはお礼を言うべきだった。


「……すまないクロ、助かったよ」

「契約しているからな、当たり前のことをしただけだ」


 それでも助かった、周辺に魔物がいないことを確認して木の上から飛び降りる。森から出ると、水浸しになっている迷宮のまわりに人だかりができていた……よし! 逃げよう。


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