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素晴らしき このイカれた世界  作者: hi-g
魔導の神 ミトラス編
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繁栄の都、命を奪う者①

 さて、服も乾いたし気を取り直して目的地に向かうか。数日歩いた後、俺はついに王都に辿り着いたのだが、都らしきものが見えてからも歩けど歩けど全然たどり着かないから焦った。

 門の前まで来ると、高くそびえ立つ城壁は端が霞んで見えないほどだ。


 入場門は各方角に一つずつある。俺は迂回路を辿ってしまったため、東門にいるようだ。門の前では入場待ちしている商人や、冒険者と思われる人たちが列をなしている。


 大きな入場門の脇には小さい門があり、中に居住しているものたちは専用の身分証を見せて優先的に出入りできるようになっていた。そうでもしないと、街から出る度に行列に並ばないといけないので、当然といえば当然か。

 俺も小さいころに父に連れられて一度だけ王都に来たことがあるが、あまりの大きさに興奮したのを覚えている。大人しく列に並び順番待ちをしていると、ようやく俺の番になった。


「身分証を見せろ!」


 安そうな鉄の鎧を着た門番の男が手を差し出してきた。おそらく王都の役職は城に近づくほど高くなるのだろう。グリモアと比べると装備の質は雲泥の差である。


「……身分証はありませんので、代わりにこれをどうぞ」


 俺は門番の男に銀貨一枚を握らせると、ソレをみた門番は満面の笑顔になり。


 ”たしかに確認した”と言い、あっさり中に入れてくれた。


「身分証がないのに中に入れてくれるのか?」


 クロが不思議に思うのは仕方ないか。


「身分証は各国の首都、この国で言うと王都ミトラニアの中でしか発行されないのさ」

「それでは、王都の出身者でなければ中に入れないのではないか?」

「矛盾しているだろ? ……つまり身分証がないなら金払えって意味、金額は門番によって違うから正解はないけどな」


 さっき渡した銀貨は門番の日給に等しい額だ。トラブルを起こしたくないから多めに支払った……とりあえず第一関門突破だな。

 門をくぐり抜けると、今までの踏み固められた土の道から一変、石畳の隅々まで整備された道となっていた。道も整備されており、石畳の高さを変えることで歩道と馬車が通る道を区別しているようだ。


 さすがは王都……街のはずれでも俺の生まれた村よりもはるかに賑わっていた。おのぼりさんらしく辺りを見回していると、街路樹の前で数人の兵士が立ち話をしている。


「……おいおい聞いたか、南東にあるグリモア様が統治していた牧場あるだろ? グリモア様に反抗して焼き討ちにあったらしいぞ」


 ……は? 牧場? 動悸がはげしくなった、嫌な予感がする。通りすがりを装って噂話をしている兵士に近づく。


「グリモア様も殺されたみたいで、犯人探しをしているらしい。誰も口を割らないから見せしめに全員処刑されたらしいぜ」

「グリモア様が殺されたのか! そうか、執行官の席に空きができたってことだよな。俺にもチャンスあるかも」


 そんなわけないだろ、と談笑を続ける兵士たち。しかし、俺にはもう兵士たちの声は聞こえていなかった。

 ここまでの道中、王都の兵士らしい奴らとはすれ違わなかったはずだ。どうやってグリモアを殺したことが分かったんだ? なぜこんなに早く……いや、そんなことより全員ってことはイリアも殺されたのか?


『お前にはこうなる未来も想像できていたのだろう、それにイリアはお前を見送るときに覚悟を決めていたようだったぞ。お前を待つ、ではなく信じていると言い直していただろう』


 ……予想はできていた、こうなるかもしれないと。しかし、その前にミトラスに話をつけることができれば何とかなるかも、と安易な希望も持っていた。

 彼女は笑顔で見送ってくれた……頭の悪い子じゃない、最後まで俺のことを話さなかったのは、約束を守ってくれると信じていたからだ。俺が、この国の何かを変えてくれると。


 別れ際のイリアの姿を思い浮かべる。曇りの無い、まっすぐな笑顔を……立ち止まるわけにはいかないよな。

 とはいえ、すぐに気持ちを切り替えることはできなかった……今は少し時間が欲しい。とにかく落ち着ける場所を探そう。門の近くには旅人相手の宿がたくさんある。


 この際どれでもいいとは思うのだが、所持金のことを考えるとできる限り安いところにしたかった。辺りを見回していると、一件の宿が目に留まる。

 宿の名前は「東の門」……って、そのままかよ! 小ぢんまりとした外見だが宿の前は綺麗に掃除されていて、かわいらしい花が植えられている。


 なにより名前が気に入り宿の中に入った。黒塗りの扉を開けると、思ったよりも高い天井が室内を広く感じさせているようだ。

 受付もきれいに清掃されており、さりげなくカウンターに飾られている花が清潔感をより一層ひきたてている。


「いらっしゃい! うちを選ぶなんてあんた見る目あるよ!」


 威勢のいい声と共に、カウンターの奥から出てきたのはヒゲ面のおっさんだった。筋肉隆々のたくましい腕に、低い身長、長いヒゲは二つにわけて三つ編みされている。

 極めつけはモヒカンだ、そこに花柄のエプロンをしているので違和感がハンパない。


『ほう……ドワーフの宿屋か、めずらしいな』

『たしかに、別種族に会うのは久しぶりだ』


 田舎に暮らしているとあまり会う機会もないが、この国には様々な種族が住んでいる。ちなみに俺はヒューマンと呼ばれる種族だ。後は有名なところで、エルフ、ドワーフ、ホビット、獣人、亜人、魔族などなど、俺も把握し切れていない。


「一泊おいくらですか?」

「一泊二食付で銅貨五枚、部屋は基本的に個室で一階に食堂と浴場がある」


 銅貨五枚ってことは五千トラスか……自分の所持金は貯金箱の中身もあわせて十万七千トラス。金銭価値は骨貨、石貨、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨の順に高額となっている。各十枚で次の単位に繰り上がると考えればいい。


 宿屋のおっさんの説明では部屋数は全部で十六部屋あるらしい、そのうち一人部屋は十二部屋、いつもは満室に近いと言われたので先に十日分を支払っておいた。

 いきなり銀貨五枚か、所持金が半分近く吹き飛んだ計算になる。思った以上に生活費ってかかるな、俺が案内されたのは二階にある八号室だ。


 部屋の中は広くはないが、ベッドだけでなくテーブルと小さいタンスもあった。テーブルの上にはレースのクロスが敷かれ、白い花瓶に赤い花が活けてある。

 母さんが花好きで、家には季節の花がいつも飾られていたが、あのおっさんが飾っている姿は想像できないな。


 少し外の空気が吸いたくなったので、窓を開けて外を見てみる。遠くまで建物が立ち並んでおり、暗くなってきているのにも関わらず人通りはまったく途絶える気配がない……それにしても、すごい人だなぁ。


 冷静に考えると、他の宿屋を見ずにここに決めてしまったのは失敗だったかな、今更考えても仕方ないか、とにかく横になろう。最近は野宿ばかりだったので、ベッドに寝転がるのは久しぶりだ。

 目を閉じると、否応なしにイリアのことが頭に浮かんでくる……悔しさと悲しさと自分への怒りと、様々な感情が交錯(こうさく)する。


 ……守りたい人を助けられなかった。これは変えられない事実であり、自分の行動が招いた結果だ。

 クレールが言っていた、忌み子は災いを呼ぶ者、そんな言葉が反芻される。その日は晩御飯を食べる気にはなれず、一晩中天井を見ていた。


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