「違和感」
夫が好きな、ロールキャベツ。
スーパーで買い物を済ませて、デパートへ。
2人が記念日には欠かさず飲むワイン。
うん、これでよし。
家が見えてきたところで、着信が入る。
「もしもーし」
「友美、すまない。今日帰れない」
「え?」
「どうしても仕上げなきゃいけない仕事があって…本当ごめん…」
夫の声は、トーンも低く小さかった。
文句を言いたかったけれど、仕事なら仕方ないとも思う。
「わかった。がんばってね」
そう言って、電話を切った。
ロールキャベツの材料と買ってきたワインを眺めながら、しばらく途方に暮れていた。
ーピピピッー
メールだ。
高校時代からの親友、里奈だった。
ー近くまで来てるんだけど行っていい?ー
里奈はいつも急に連絡をしてくる。
仕事をバリバリこなすキャリアウーマン。
それでもたまに会えば、高校生に戻ったみたいにおしゃべりに夢中になる私たち。
「友美ー久しぶりっ」
元気よく里奈がやってきた。
「どした?何かあった?」
「え?」
いきなりの問いかけに、はっとした。
「友美わかりやすいんだから」
私は結婚記念日だったのに夫が帰れないことや違和感を感じたことを里奈に話した。
「ねえ、それさ…浮気とか?」
突然出てきた「浮気」という2文字に
なんとも言えない感覚に襲われる。
まさか!という気持ちと、
夫に限って、そんなこと…という気持ち。
複雑だった。
「でも…まさかね。一馬さんは友美一筋って感じだし、ないかあ〜」
里奈が笑う。
昔から、里奈の笑顔を見ると
ホッとする。
それから私たちはおしゃべりに夢中になって、気づくと日付けも変わろうとしていた。
「また時間経つの早いよね」
「今日もたくさん笑ったよね」
「里奈、今日ありがとう」
里奈が帰って、私は夫に電話をしてみた。
ー浮気…なんてね…ー
「どうした?」
夫は電話に出た。
「ううん、なんでも…ごめんね、仕事中に」
「いや、大丈夫だよ。俺の方がごめん、今日」
浮気を少しでも疑ったことを恥じた。
夫は仕事中だ。
もし浮気をしてるなら、こんな時間に電話に出るはずがない。
「友美…愛してる。おやすみ」
優しく甘い声で、そう言ってくれた。
安心して、私は眠りにおちたのだった。