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ハピネス  作者: さちすけ
「スタート」
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「始まり」

「…それでは、こちらは受理となりましたので…」

淡々と、役所で手続きが行われた。


「これからは、別々だけど…今までありがとう」

そう言って、外に出た。


柏木友美。35歳。

結婚生活10年に、今日ピリオドを打った。

今日この瞬間から、「独身」となった。

新しい気持ちで、一からスタート。

人生のやり直しである。


私の住む地域では、離婚届を提出するにも夫婦2人で来なければならない。

元夫婦、と呼ぶべきなのだろうか。

23歳の時に出会った6つ年上の夫。

いや、元夫の一馬。

約1年半の交際を経て、めでたく結婚。

とても優しい夫だった。

一馬は仕事が忙しく、不規則勤務だったが

休みになると映画やランチ、買い物など

一緒にでかけた。

セックスレスなわけでもなく、

特に普段の生活で不満はなかった。

じゃあ何が離婚をさせたのか…。


結婚してから3年が経った頃から

ほとんど毎日、義兄と義母が訪ねてきた。

「ねえ、友美ちゃんは子供ほしくないの?」

会うと必ず聞かれるこの言葉。

もちろん私だって妊娠願望はあった。

だけど、なかなか妊娠できずにいたことを悩んでいた。

30歳までに出産したい。

そう思っていた。

それでも3年、妊娠はできなかったのだ。

「もう少し…2人でいいかなって」

そう笑ってごまかしたのは、

もしかしたら私に原因があるんじゃないか…

そんな後ろめたさからだった。

すると義母は鼻で笑うように言う

「もう3年よ?子供は早く作りなさい」

そんなやりとりが続く。

義兄は私と夫が出会う前から

事故で半身不随のため、車椅子生活だった。

義母が介護をしていた。


さすがに毎日、子供のことを言われたら

イラっとする時もあったけれど、

義母はそれ以外では本当によくしてくれた。

一緒に買い物へ行くこともあったし

義母との時間そのものを苦痛に思ったことは一度もなかった。


「お前が嫌なら断るから、ちゃんと言ってくれよ」

夫は義母たちがいつも来ることで私に負担がかかるんじゃないかと心配してくれる。

「大丈夫よ。お義母さん、よくしてくれるから」

「ありがとう、友美。愛してる」

そう言って、抱きしめてくれる。

幸せだなあ…。

そう感じて、眠ることができる。


「今日は、遅くなるから」

それは結婚から6年目の記念日だった。

毎年結婚記念日は、夫がプロポーズしてくれたお店で食事だったから

この日に遅くなるのは、初めてのことだった。

最近忙しくて忘れてるのかな。

少し不安になったけど、笑顔で

「いってらっしゃい」

彼はいつものように私を抱き寄せてキスをすると、

「遅くなるから…家でお祝いしような」

にっこり笑って、家を出た。


忘れられていたわけじゃないことに、安心とうれしさ。

長く一緒にいても、こんなに仲良しでラブラブなままだよって

実感した瞬間だった。


そうだ、今日は夫の好きな料理にしよう。

プレゼントも買いに行かなくちゃ。

まるで付き合いたての頃のように浮かれ気分になれたのは、

夫の優しさと愛情のおかげ。


そう心から、信じてた。


遅くなるのは仕事だもん、仕方ない。

そう言い聞かせて、私も家を出た。



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