十人十色の転生事情 十年目
思いついてしまったので十年目
一から九までのお話です
前世の因縁か、少しづつ重なり合って行きます
一人目
今日は王家主催の遊園会。
張り切った母に着飾らされて出発する前からくたくただった。会場に入ったとたん、ざわりと揺れて視線が集まる。
貴族や王族には明るい髪や眼をした者が多い。僕の髪と眼はどちらも薄い金色なので別段目立つ訳じゃないが、問題は額飾りだった。
魔法学校を卒業するときに授けられたもので、細い銀冠で額の辺りには光魔法を表す黄玉が埋まっている。魔法を極めたものの証らしい。
「勇者の…」「レシア家の」
そんな囁きが聞こえてくる。
「サマル、行くわよ?」
「はい、母上」
両親に促され、僕達は王の元へと向かった。
二人目
なるべく目立たないようにしていたのに……!
「レン、久しぶり」
「お久しぶりです」
私を見かけたサマルに声をかけられて、注目が集まってしまった。
「あちらは?」「ほら、あの…男爵」「まぁ…」
そんな囁きが聞こえてくる。
「何で態々声掛けて来るんですか」
周りに聞こえないように囁いた。
「そりゃ友達だからだろ」
囁き返してくるその様子は、子供たちが内緒話をしている風に見えるだろう。実際微笑ましそうに見ている方々が多い。
しかし、伯爵の息子である勇者が貧乏男爵の息子である私に声を掛ける事で、眉をひそめる方もいるのだ。あ、父上がはらはらしながらこっちを見ている。
目を付けられない様に当たり障りの無い付き合いをしてさっさと帰りたかったのに、あぁ、勇者に憧れている王女様が悔しそうにこちらを見られている。
「また腹痛おこすなよ?」
「誰のせいだ!」
睨み付けると満足したように頷いて離れていった。
次遊びに来たときに覚えてろよ!
三人目
「あら、兄さんから手紙だわ」
商隊の人から受け取ったそれを見て、ママが嬉しそうに笑った。
「ママのお兄さん?」
「そうよ」
手紙を開けようとして、落ちてきた薄緑色の髪がうっとうしくなったのだろう、緋色の蔓で手早くひとくくりにし、再び手紙に向き直る。
「ネルが生まれる少し前に森を出て冒険者になったのよ。皆が止めたのに全然聞く耳持たないで、もう二十年になるかしら」
「それって少し前って言わないんじゃない?大分前だと思うよ」
「私達エルフにとっては少しなのよ、ネルも大きくなれば分かるわ」
「ふぅん、手紙には何て?」
「二つ目の迷宮を突破したんですって。Sランクになったって書いてあるけど、凄いのかしら?
あら、人間の子供を育ててるそうよ」
「へぇ、会って見たいな」
「近いうちに森に帰るって書いてあるから、会えるわよ」
「やった、ボクと友達になってくれるかな?」
四人目
まだ、見つからない。
逢いたいのに。
もう、顔なんてうっすらとしか思い出せ無いっ!
五人目
フィーネお嬢様の探し人はまだ見つからない。
商隊にくっついては違う町へ行き、冒険者組合の依頼所に張ってくる。そんな日々。
たまにあの日本語が読めると金をたかりに来る人もいるけど、お嬢様に叩き出されている。
十五歳になったら冒険者になって夫と息子を探しに行くというお嬢様。彼女は魔法が使えない代わりに体術や剣術に磨きをかけている。
私も付き人として魔法や武術を学んでいる。
「お帰り、マーヤ」
「ただいま!」
習い事が休みだったので街中仕事をこなして返ってきたら、お母さんが晩御飯を作っていた。
「今日は早かったのね」
いつもはもう少し日が傾いてから帰ってくるのだが、何があったのだろう?
「この前はマーヤの誕生日だったでしょ?あの時は仕事があって出来なかったけど、今日は少し早めに終わらせてもらえたから、少し遅いけどお祝い」
突然すぎて、嬉しくなって、少し泣いてしまった。
いつもより、ちょっと豪華な料理を食べて、ちょっとした贅沢の甘いお菓子を食べた。
いつもよりちょっと甘えたい気分になって、お母さんと一緒に眠った。良いよね、私十歳だもん。
六人目
私の父は町を守る兵士だ。そんな父と木剣を打ち合う。
ほとんどは私が打ち込み、父はそれを受けつつまれに反撃してくる感じだ。
「はっ!」
力の入れ方が悪かったのだろうか、振り下ろした木剣を受け流されバランスを崩す。
ガツッ!
返す剣で、私の剣は父に弾き飛ばされた。
「今日はこれでお終いだな」
涼しい顔で、父はそう言った。
「私、強くなってる?」
肩で息をしながら尋ねる。
「……お前が、何を強いかと思うかだな」
返ってきた言葉は答えになっていなかった。
「ほらほら、暗くなる前に帰るぞ」
帰り道、小兄さんと合流した。
「父さんアリル、ただいま」
「お帰りなさい小兄さん、シスもお帰り」
「えと、ただいま」
シスは少し戸惑って、はにかみながら返事をした。
小兄さんは冒険者をしていて、シスは私と同じ歳だけどその荷物持ちをしている。
「もう直ぐ晩御飯だから、シスも食べていきなさい」
「ありがとうございます」
二年前から兄の雇い始めた少年は、よく家にご飯を食べに来る。私と一緒に父と訓練することもあるし、もう家族みたいなものだ。
「シス、シス」
「何?アリル」
「私今度剣術大会出るんだけど、あんたも出なさいよ」
「えぇ……」
「これは提案じゃなくて決定ね!」
「こらアリル、シスに我がまま言うな」
「そうだ、シスの予定もちゃんと聞きなさい」
「え~、良いよね?」
「う、うん」
ふ、勝った。
私に押し切られたシスを見て父と兄が同時にため息をついた。
七人目
「はぁ……」
一体何度目だろうかのため息。
「もう外に出ちゃったんだから諦めなさい」
頬に白い布を貼ったアリルが偉そうに言った。
剣術大会断ればよかった、そう思っても後の祭りだ。
準々決勝でアリルとあたり、剣先がアリルの頬を掠めてしまったのだ。
女の子の顔に傷をつけた罰として、街の外へのお供を言い付けられたという訳。止めたら一人で行くとか言い張るし、このお転婆め。
「シス、これは何なの?」
「草、街にも生えてるよ」
「薬草かと思ったのに」
ここで、もっと森の近くでないと生えてないよ、何て言わない。フラグだから。
そう思って森の方を見ると誰かがかけて来る。男の子が二人、俺より少し年上っぽい。
「あっ。馬鹿!逃げろ!!」
そんなことを言ってすれ違う。そういえば聞いたことある、最近度胸試しが流行ってるって、魔物を引き付けて逃げ切る遊び。街壁に入れない事を知ってる魔物は途中で諦めるんだけど、今日は外に俺達がいる。つまり。
「フラグが勝手にやってきた!?っじゃない。アリル、逃げるよ!」
そう言って立ち上がらせたとき、魔物が俺達の横を飛び去って行った。男の子を追って行ったんだ。
そして二人がある程度街壁に近づくと、くるりと身体を反転させた。
木剣を構えるアリル、何で戦う気満々かな!?
向かってくる蜂型の魔物、大きさは俺の頭くらい。
「アリル、あれは「シスは下がってて!」
途中で急に停まる蜂、面食らうアリル。ああもう、人の話を聞けって!
そのまま腹をアリルに向けて、毒針が打ち出された。
アリルの前に突き出した左腕、刺さる毒針、でもそんなに痛くない。
一度しか使えない針を撃った蜂はそのまま向かって来る。
背中にくくってある短剣を引き抜き、胸と腹の間の括れを一閃。
バランスを崩して落ちる蜂、でも動く、ちょっと怖い。毒針を引き抜いて捨てた。
「ほら、もう帰ろう?」
アリルは青ざめていたかと思うと口を真一文字に引き結んだ。
「シス、腕見せて!」
睨み付けるような眼差しに気圧され大人しく従うと、傷を見てほっと息を吐いた。
「良かった、そんな酷くないね」
「そうだね」
大人には内緒と言われて街に帰った。
夕方。
実家の窓から紙に包んだ銅貨五枚を放り込み、居候させてもらっている宿屋の元物置へ帰った。
外にあるこれは、実質俺の一軒家と化している。宿屋の夫婦には頭が上がらない。
「……寝付けない」
布団に潜り込んだのだが一向に眠気が訪れないので起き上がる。それもそのはず、腕が二倍くらいに腫れ上がり、じくじくと痛むのだ。毒消しを買おうにも所持金が少し足りなかった。
あの蜂の毒はそんなに強くない、三日もすれば治るはずだ。でも、
「その間寝れないのは辛いなぁ」
呟くと、がたがたと戸が開けられた。開けたのは雇い主のソーキさん。
「ちび達から話を聞いた。毒消しは?飲んでない様だな」
投げられる小さなビン。礼を言って飲み干した、明日には良くなるだろう。
「何でそのまま放っとこうとしたんだ?」
「お金が足りなくて……」
「……あ!親に金渡すのは止めろって言ってるだろ?」
「いや、でも、やっぱり親だし」
「お前がそうやって甘やかすから働かないんだよ」
うぅ、耳が痛い。で、でも俺今はちゃんと働いてるし!
「それでもこないだ渡した金で足りなくなるなんて……」
そ、それ以上は考えないでくれると嬉しいんですが。
「そう言えば、あいつ今日の晩飯あんまり食わなかった……」
そうですね~、あんだけお菓子食べましたからね~。
「あの、その、それは……」
「はぁ、今の内から尻に敷かれてどうすんだよ」
「尻に?いや、アリルは妹みたいなもんですよ」
「あぁ、父さんの中ではお前はとっくに旦那候補だ」
「俺、まだ十歳ですよ!?」
「奇遇だな、アリルもだ」
その後、肉と野菜を挟んだパンを置いて「しっかり食ってしっかり寝ろよ」とソーキさんは去っていった。
まったく、何でこの街にはこんなに優しい人が多いんだろうな……。
八人目
遊園会で、共の者と話していると、新たな客が到着した。
あれが勇者か、同じくらいのガキと内緒話をして笑ってる。そんなすごいやつには見えないけど、挨拶くらいさせてやるか。
勇者は今度は別の大人と話しをし始めた。
俺が勇者に向かって颯爽と歩いていくと、周りの人間がさっと道を開けた。いい気分だ。
「おい、お前勇者なんだってな」
「いえ、私は光魔法を扱えるだけの魔法使いです」
受け答えがちょっと生意気だ、俺と変わらない歳のくせに。
「勇者は礼儀を知らないらしいな、挨拶もしないとは」
「?……失礼しました、サマル=ロー=ブル=レシアと申します」
「俺はパイン王国の第五王子アレンだ。春からこの国に留学に来ている。そうだ、勇者。お前にこの国を案内させてやろう」
「は、真に申し訳ありませんが、私はつい最近まで魔法学校にて……」
「そんなことは知らない、俺が案内しろと言ったんだ!」
「承りました。では、父の許可を得次第伺います。案内の準備がありますので今日はこれで」
「ああ、楽しみにしてるぞ」
何だ、勇者といっても他の奴らと同じじゃないか。
九人目
ユニフィ、それが私の名前。可愛い私にぴったりの名前。
お父様はこの国一番の凄い服屋さん。可愛い服をいっぱい作るの。
どれだけ凄いかと言うとね、王女様がお父様の服を着たいがために貴族にしちゃうくらい凄いのよ。
直接会って作って貰いたかったんですって。
だから位は低いけど、私も貴族のお嬢様。いつかお城の舞踏会で王子様に見初められるのが夢なの!
あ、でも、勇者様もいいわね。隣のパーシヴ王国には勇者様がいるって話。この国の舞踏会に来ないかなぁ?
現実的に考えるのならパイン王国かしら?王妃様がこの国の王様の妹だし、なんてったって王子様が六人もいるんだもの。
「お嬢様、今日もお可愛らしいですわ!」
着飾った私がくるくる回るとメイド達が嬉しそうに歓声を上げた。
書いてて一番楽しいのは七人目です
転生物の王道って感じがします