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スクラッチ!  作者: 横山
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冒険者

 村を出てからしばらくして、自分がまた走り回れるようになった頃の事。

 彼女達にどんな仕事をしているのかと尋ねると、冒険者と返ってきた。

「冒険者ってーのはまぁ、何でも屋だな」

 自分が何かを聞いたときに分かりやすく説明するのはほとんどがひょろいシェルの役だった。

 ちなみにひょろいと言うとお前が言うなと小突かれる。

「元々はもちろん違ったんだが、今の冒険者の大部分がそれ、何でも屋だ」

 ある程度の大きさの街には冒険者組合があり、人手が欲しいときはそこに求人を依頼する。

 金が欲しい人はそこへ行き、自身のできる仕事を探して引き受ける。

「冒険者というより労働者だね」

「上手い事言うなぁ。でもま、組合を通して働く奴等は冒険者登録してあるし、冒険者って呼ばれんだよ」

 それだけを聞くと組合は仲介料をピンはねしているだけじゃ無いかと思うのだが、そういう物は一切取っていないらしい。

「冒険者にはランクがあってな、街中仕事はEランク、Eランクには基本口を出さない」

 成人である15歳以上、または規定の試験を受ける事で組合証が発行され、組合の内部屋に行ける様になるそうだ。

 内部屋にあるのはDランク以上の依頼所で、そこから組合のピンはねが発生するという。

「ま、しょうがないさ。Dランクからは外仕事だからな」

 外仕事、街の外での仕事らしい。

「ランクを簡単に説明する事もできるんだが、俺は歌苦手だしなぁ。明日には街に着く事だし、そしたらダファンに歌ってもらえ」

「ん、そうする」


 街に着いたのは昼前だった。

 自分と彼女達はその足で組合に向かい、一人外部屋で待つ事になった。依頼所の前にはぽつぽつと人がいたけれど、一人減り、二人減り、誰も居なくなったところで好奇心がうずき近付いて見た。

 小さい子供向けなのか、丁度自分の顔くらいの高さには単音文字で書かれた物がいくつも張ってある。

〔やさいをはこぶ〕

〔たまごをとる〕

 住所は流石に複意文字との混合だけど、受付に居るあのお姉さんが説明してくれるのだろう。

 眺めていると一人の女の子がやってきた。

 自分と同じくらいかな?受付の人がお辞儀をしたところから見るに顔なじみで、さらにある程度の地位がある人と関係があるかもしれないと推測する。こちらに向かってきたので脇に避ける。

 女の子は高いところにある一箇所をじっと見続けていた。

 その目が少し気味悪くて、離れたところにあるいすに座った。

 すると今度は若い女性とこれまた同い年くらいの女の子がやってきた。

 女性のほうは母親か?少しおどおどしている。

「ほら、お母さん。しっかりしてよ!」

「でも、まだお金もあるし……」

「無くなってからじゃ遅いでしょ!」

 ずいぶんとしっかりした子だな。ぐいぐいと母親を引っ張り依頼所の前へ、先に居た女の子はその勢いに気圧されたのかさっきの自分と同じように脇へ避けていた。

「どうせならなるべく長く雇ってくれそうなとこが良いよね?」

 大人用の高いところにある張り紙の一箇所に目を留める。が、ふいとすぐに別の所に移っていった。

 少しして、不気味な方の女の子が口を開いた。

「私の家で働き手を探しているのだけど、どうかしら?」

 突然話しかけられて驚く二人組。

「ほら、そこの、右の少し下の方、それ、父の店なの」

 母親に剥がして貰い、覗き込む娘。

「お店の売り子さん?」

「そう、今まで来てくれてた人が今度赤ちゃんを産むからお休みするんだけど、その間働いて欲しいんだって。元々忙しかったからもし良かったらそのまま働いてもらう事もできるわ」

「いいかも、お母さん、行ってみよ!?」

「う、うん」

 不気味な女の子が案内をすると言って娘の手を引いて組合から出て行った。自分は再び依頼所の下へ。

 ふと、女の子が見ていた辺りを見上げてみると、見覚えのある文字が飛び込んできた。

〔『直樹と優斗という名に覚えがある人は連絡下さい。私は燈子です』この文字が読める方は連絡下さい〕

 それは、かつて自分が私だったときに使っていた、紛れも無い日本語だった。


 夜、宿屋隣の酒場にて。

 早く寝なさいと叱られたけれど、シェルと約束したと言い張ってついにダファンが立ち上がった。

「え、此処に居るちびは最近俺たちのパーティに加わったばっかりで、その祝いと言っちゃ何だが、冒険者の歌をやろうと思う。え、聞き苦しかったら耳を塞いでてくれると助かる」

 わー!と店の中が盛り上がり、笛を取り出したり皿をフォークで叩き始めたり、店主が弦楽器を持ち出して客の一人が慣れた手つきで受け取ったり、即興の楽団までできてしまった。

 喧しく、陽気な曲が始まって、ダファンの野太い声が響き渡った。

『俺たちゃ元気な冒険者 Eランクになり立てで やるこた町中何でも屋 お使い 窓拭き 溝さらい

 俺たちゃ頑張る冒険者 Dランクになったなら お外に行きましょ喜んで 薬草 毒草 きのこ採り

 俺たちゃ健気な冒険者 Cランクになりまして ホントのお仕事やりましょか 戦い 血飛沫 魔物狩り

 俺たちゃ強いぞ冒険者 Bランクで迷宮へ 散々迷ってべそかいて 出てくる頃にはAランク

 SSランク Sランク そんな奴等の言う事にゃ 俺たちゃ人間辞めました 俺たちゃ人間辞めました』

 店中の人間が歌ったのだろうか、終わると全員でグラスを持ち上げて中身を一気に飲み干した。

 その後は騒いだり歌ったり、途中で酔いの回ったアチェと一緒に宿に戻ってその日は終わった。

 寝る頃には昼間の事などすっかり忘れていて、思い出すのは再びこの街に来た時になる。

四人目と五人目に遭遇です

不気味なほうが四人目

しっかり者が五人目

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