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スクラッチ!  作者: 横山
3/66

十人目

やっとこさ主人公です。

ここからは主人公で続いていきます。

 夢を見た、中々しんどい夢だった。

 横断歩道を渡っているときに前方の騒ぎに気付き、やって来る車への注意が遅れたのが良かった。

 跳ね飛ばされた衝撃、地面に叩きつけられた振動、激痛と、じわりじわりと何かが抜けていく感覚の中、歩道に突っ込んでいった車を見つめている。

 結構生き汚かったな、あの私は。

 救急車がやってきて、唯一息のあった私を乗せて、病院へ運ばれている途中で意識が途切れた、気付いたときには今の自分になっていた。

 ここに生まれてからは戸惑いの連続だった。

 すでに女ではないのに私と言うのは変だった。かといって俺や僕にも違和感がある。結局自分というものに落ち着いたのだが子供達はそれが気に入らなかったらしい。

 散々にからかわれ、泣きながら家に帰って母親になぐさめられたのは良い思い出だが。

「こんな時にあんな夢見せなくてもいいだろが」

 呟いて、その体力すら惜しいと口を閉ざした。

 一月前の隣国との小競り合いでこの村は半壊した。ちなみに両親はそのときに亡くなっている。

 同じように戦渦に巻き込まれた他の村人が逃げ込んできて自分の家は村長の親戚用に没収された。

 腹を空かせた四歳児は何をする?ちなみに両親も頼れる隣人も居ません。

 自分の出した答えは泥棒だった。

 もちろんすぐに捕まって、誰も住みたがらない建物に放り込まれて鍵してぽい。半年位したら取り出して森に捨てるんだってさ。

 ここに入れられて……七日目か。あ、もう四歳児じゃないや、昨日は自分の誕生日だったはず。祝!自分!!おめでとう、五歳だよ。腐った床板下の地面を掘って溜めた湧き水をすすった。

 口の中がじゃりじゃりするのは仕方がない、湧き水というより泥水というのが正しいな。入れられたのがこの家で良かった、近くが山だから子供の手でも水が溜まるだけの穴を掘ることができた。後は食料、どうしてもだめだったら湧いてるシロアリでも食べるか。

 それにしても、静かだな?

 今までは子供の声とか山に向かう人の呟きが聞こえたのに、あれか、体内時計が狂ってて目覚めた今が深夜とか?違うな、隙間から明りが漏れてるし。不気味だが穴掘りは続けることにした。


 八日目、未だに虫を食べる勇気は無い。土を穴の外に出すのがしんどくなってきた。

 結局昨日は一切人の気配がせず、村を捨てたのかもしれないな、外に出られたら野菜が食べ放題かと思うと結構嬉しい。


 九日目、山側とは反対の壁下を掘っているのに土がどろどろしてきた。スコップやバケツがあったらすごく楽になるだろうな。不毛だな、今は掘ろう。

 一日ぶりに人の足音が聞こえた。

「音がしたんだって……」

 声も聞こえた。

 ガツッ、ガツッ。

 何か打ち付けるような音。

 立て付けの悪い引き戸が無理やり開けられて、あまりの眩しさに手で顔を覆った。

「子供!?」

 近づいてくる人、光が遮られたので姿を見る。女性だ、見たことの無い人、見たことの無い格好。

「どちら様で?」

 しゃがれた声。

 後ろで誰かが噴出したので何とかつばを搾り出して飲み込んでみた。

「あら、人に名をたずねる時は自分から言うのが礼儀でしょ?」

 女性がいたずらっぽく笑った。

「自分は、ヒィロ」

 出した声はかすれていた。

「私はアチェ、あなた、ヒィロはどうして此処に居るの?」

「その前に、水もらえるかな?」

 アチェが皮袋を渡してきたので受け取り、口の中を濯いで吐き出してからたずねる。

「全部飲んでいい?」

 さっきよりましな声が出て、頷かれてから飲み干した。

「ありがとう」

 皮袋を返した自分の手をアチェの後ろに居た女性につかまれた。

「何これ、泥だらけで……爪が剥がれてるじゃない!?」

「うん、穴掘ってたから。此処に居たのは食べ物を盗んで閉じ込められたからだよ。そこの戸を閉めないでおいてくれたらすごく助かるんだけど、いいかな?」

「いいけど、あなた、干し肉食べる?」

 アチェから差し出されたのは久しぶりに見る食べ物。

「食べる」

 捕まれた方とは反対の手を伸ばすが、その手もまた女性に捕まれた。

「何?」

「そんな手で食べたらおなか壊すでしょ」

 その後、水場に連れて行かれて手を洗われている。傷口にこびりついた砂一粒たりとも逃さない感じでひどい。

「痛いからもういい」

「だーめ、このまま治癒魔法かけると砂が中に残っちゃうでしょ」

 結局しっかり洗われて、二重の意味で真っ赤になった手を綺麗に治癒されて、干し肉にありつけたのはその後だった。

 口の中に広がる塩味をかみ締めながら辺りを見渡すもやっぱり村人は居なかった。

「村の人は?」

 今度は耳の長いやけに綺麗な男性が答えてくれた。

「近くの村に避難してるよ。森の中に魔物がいることがわかってね、それも人を食べる凶暴なやつだ。我々に討伐依頼が入って村の人の安全のために避難してもらったんだ」

「ふぅん」

 きっと自分はもう死んでると思われたんだな、又は食べられてもかまわないと。それはそうか、そもそも殺すつもりで閉じ込めたんだしな。

「坊主はうっかり忘れられてたんだな。ま、安心しとけ、魔物はもう居ないから」

 がはがはと笑った大柄な男に頭を撫でられる。あまりの力に首がぐらぐらと揺れた。

「気持ち、悪い」

「おっと、すまんな」

 すぐに手を離されたが気分の悪さは収まらない。

 気持ち悪い、でも勿体無いから吐きたくない。

「坊主?」

 やや遅れて腹も痛くなり、蹲る。

「お前、閉じ込められて何日だ?」

 ひょろんとした兄ちゃんが顔を覗き込んで聞いてきた。

「う、九日目?」

「気持ち悪いなら一回全部吐いとけ?」

「やだ、もったい、ない」

「後でまたやるから、今は吐け!」


 結局全部吐ききって、腹の調子が治るまでの間に色々と質問され、自分はぽつぽつと答え続けた。

 両親が死んだことや家を追い出されたこと。空腹に耐えかねて盗みを働いたことや、泥水をすすって生きながらえたこと。

 話が終わるころ、治癒魔法の女性、ミーニャさんが穀粉を湯で溶き伸ばした粥を作ってくれた。なんでも、長い間物を食べなかった状態で急に消化の悪いものを食べたから腹痛を起こしたらしい。

「なーんか、さ。この村叩けばまだ何か出てきそうな感じだけど、どうするよ、リーダー?」

 ひょろい兄ちゃんのシェルがアチェに尋ねた。自分に気付いてくれたのはシェルらしいから、後でお礼を言っておこうと思う。

「ほら、食べないと冷めるよ?」

 ミーニャさんに促されて粥をすすった。久しぶりだな、暖かい食べ物。

「いやいや、追い込んで馬鹿な事されると困るし、ほっとこうぜ?」

 大柄なダファンがめんどくさそうに言った。鍵を壊してくれたのはこのダファンらしい。

「態々不愉快な思いをすることは無いな」

 耳長のロシュがダファンに同意。ひょっとしたらと思っていたが、やっぱりロシュはエルフだという。

「私も関わんないほうが良いと思うな。どうせそのうち自滅するでしょ、村長腹黒だし」

 ミーニャさんが結構ひどいことを言う。

「お前が言う……何でも無い」

 シェルが言いかけてやめた。やっぱり怖いんだ、ミーニャさん。

「そうだね、この村の事は放って置こうか。食い扶持が一人増えることだし、とっとと次の仕事探しに行くよ!」

 最後にアチェがこうまとめ、自分と彼女達は村長の家で一晩を明かす事にした。


 翌日、ダファンに背負われて村を後にした。

 自分と彼女達は村人の避難先ではなく一番近い街に向かうらしい。

 このまま村に居ても先はないし、まあいいかと思う。

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