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スクラッチ!  作者: 横山
2/66

十人十色の転生事情 五年目

 一人目

 

 今日見た夢を今思い出した。

 シスターに治癒魔法でマッサージをしていたら急に、何故だ?

「ああぁ~、きくわ~」

 この世界に生まれてからも度々見る、前世の僕の夢。

 雷を誘導しようと作った装置を背負い、見事落雷にあったお馬鹿な僕の夢。

「なんか嬉しそうね~?」

「そうかな?」

 うつぶせになってこっちを見れない状態なのにそんなことを言うシスター。

「そうよ~、良い事でもあった?」

「別に……」

「おねーさんに隠し事無しなの」

「おねーさんじゃ無いだろ」

 もうすぐ四捨五入で三十路の癖に。

「今失礼なこと考えたでしょ?」

「考えてねーし」

「嘘ついても無駄よ、おねーさんはあんたのオムツだって替えたことあるんだからね!」

「何の関係があるんだよ!?」



 二人目


 久しぶりに昔の夢を見た。

 不安そうに私を見つめる妻と手を振るかわいい盛りの息子。

 息を吐いて起き上がる。

 あれから五年になるのか。

 簡単な手術ということで妻を安心させ麻酔をかけられ薄れた意識、気付いたらここにいた。

 大喜びする新しい父と母、動かない身体、見慣れない人々。

 もしも向こうが同じ時間の流れならば、息子は小学校の四年生か。妻は私を忘れ幸せになってくれているのだろうか。

 かちゃりとかすかな音を立て部屋のドアが開かれた。

「若様、おはようございます」

「おはよう」

 アイクが入って来て私の着替えを手伝ってくれた。

 意識としては大人なのだが大人し過ぎる私を心配した両親が貧乏の中家計をやりくりしてわざわざ雇ってくれた少し年上の遊び相手兼手伝いだ。

 前世に引きずられてはいけない、意識を切り替えよう。

 今の私には守るべき人が新しくいるのだから。



 三人目


「まま、変な夢見たよ。ままの髪が黒くなってたの」

「不思議ねぇ?ままが夜の妖精さんになっちゃったのかしら?」

「わかんない、でも黒いままも優しかったよ!」

「良かったわね、じゃ、まだ空も暗いからお休み」

「うん……」



 四人目


 また、夢を見た。

 大切なあの人が亡くなる夢。かわいい息子の事故を知らされる夢。

 二人に会いに行こうと屋上から身を投げたのだけど、気付いたらここにいた。

 ここに居るのだろうか?気は急いたけど私はまだまだ幼くて自由に動けない。

 必ず会いに行くから、待っててね。



 五人目


 もう遅い時間だけど眠くなることはなかった。

 私を抱きしめる母の涙をぬぐう。

「ごめんね」

「何でお母さんが泣くの!悪いのはお父さんでしょ!」

 さらに涙をこぼす母。

 まったく、こうなったのも全部あのくそ親父のせいだ。

 浮気してた上に生まれたのが男の子だったからってお母さんを捨てるか?

 お母さんもなんであんなのと結婚したんだか。

「ほら、こんなとこに居ると余計つらくなるんだよ?別のとこに行こうよ、もっと人がたくさんいる町とかさ」

「え、この村から出るなんて……」

「大丈夫、私に任せて。ほら、商隊が明日出るでしょ?それに着いて行けばいいんだよ」

「でも、そんなお金は」

「だから私に任せてって、お父さんなんかと離れられて良かったって言えるようになろう?」

「うん、うん……」

 実はもう商隊には話が付けてある。後はくそ親父から手切れ金をふんだくるだけだ。腐ってもこの村で一番大きな農家なんだから蓄えはあるだろう。

 商隊の人にはしっかりしたお嬢ちゃんだなと言われたけどそりゃそうだ。今でこそ生まれて五年だけどその前の十七年があるからね。

 あの日、友達と一緒に学校から帰る途中、急に意識が途切れて気付いたらここにいた。すくすくと育つ私を見守ってくれる優しい母と父、だと思ってたんだけどねぇ、ふふふ。

 覚悟しとけよ。



 六人目


 夢を見た。

 向かって来る派手な車、私を庇うように目の前に現れた腕。

 もっと早く気付いていれば。私は逃げられたかも、あの男の人も助けられたかも。

 もっと早く気付いていれば。友人の腕を引いて助けられたかも。

 飛び降りたあの人は従兄のお嫁さんだった。手術中の事故で従兄が亡くなって、すぐに息子さんも亡くなって。

 もっと早く気付いていれば。あんなに思いつめることも無かったかも。

 すでに終わったことだけど、今もすでに始まっているのかもしれない。

 次こそ失敗の無いように、もっとちゃんとやらなくちゃ。



 七人目


 は、と寒すぎて目を覚ます。

 グッジョブ俺、凍え死ぬところだったよ。

 良い夢だったなぁ。

 暖かい夕飯、笑っていた家族、お風呂、布団……。

 やば、泣きそうになってきた。

 いつの間にか上半身を出していた藁山の中に潜り込む。

 前世の俺がどれだけ恵まれていたか、今なら良く分かる。

 中々定職の見つからない俺にも毎日ご飯を作ってくれた。

 弟だって、喧嘩はよくしたけど基本仲は良かった。

 皆、俺が死んだときはきっと泣いてくれただろうと思える。

 それに比べて今の親は……、俺、まだ五歳よ?

 一人称が僕だった俺だけど、生意気だって父親に殴られた。

 ひもじくて街の人たちの手伝いをしてご飯を貰ってたら一日銅貨五枚稼いで来いってノルマ付けられた。

 今日は何故か母親が苛々してて、夕方に外に放り出された。

 しょうがないから顔見知りの宿屋に行って、厩で寝かしてもらってるって訳。

 腹減ったなぁ。


 八人目


 今日は夢見が悪かった。

 前の俺が死んだ夢。

 ま、今なら死んで良かったと言えるけどな。

 だって見てみろよこれ、この水差し、銀だぜ?

 布団だって最高に柔らかいし、ベッドには飾りに本物の宝石が使ってあるし。

 いやぁ、生まれ変わり万歳ってヤツだね。

 あのまま生きてたら絶対面倒なことになってたし。俺あの時酒飲んで運転してたからな。死ねてよかったわ~。

「王子、お目覚めですか?」

 ノックと共に呼びかけの声。

「起きてるよ」

 返事をするとおずおずとドアが開かれた。

 くふ、今日は何をして遊ぼうかなぁ?



 九人目


「お父様、怖い夢見ちゃった~」

「それは可哀想にな、大丈夫だったかい?」

「お父様が居るから大丈夫」

 私がそう言うとお父様は嬉しそうに微笑んで頭を撫でてくれるの。

「このお洋服可愛い!」

「そうか!じゃあお前に一番始めに着て貰おうかな」

 お父様が描いていた子供服のデッサンを褒めるといっつもこう言ってくれる。

「服に合うペンダントも買ってね?」

「分かってるよ、お前はお洒落だからな」

 嫌な夢を見たのは本当よ?馬鹿な彼氏のせいで私が事故にあう夢。

 でも、あんな前世からは逃げられて良かったかもしれない。

 こんな素敵なお父様が居るんだもの、ね?

死んだ順です

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