見上げた空、流星
太陽が空から姿を隠し始めた頃、街にもぽつりぽつりと明かりが灯りだした。
仕事を終えた男たちがところどころで騒ぎはじめ、日中の賑やかさとは違った賑やかさを見せている。
ミランダは賑わいを見せている大通りを西地区に向かって歩く。西地区に近づくにつれて、出店がどんどん増えていく。飴や、東国発祥の『ワタアメ』と呼ばれる砂糖菓子、シチューや干し肉、発泡酒や葡萄酒など様々なものが売られている。
ロックウッドサーカス団が街に来た事と、独立祭が重なった事でいつもより派手に行われている。
「お姉さん! 買っていかないかい? サービスするよ!」
前を通る度に声をかけられるが、ミランダは見向きもせずサーカスの会場まで歩く。
人ごみの中をさらに五分ほど歩き続けて、ようやくテントの先が見えてきた。
公演開始まで、約三十分。ミランダはあたりを見回し、入り口の傍にベンチを見つけた。
そこに腰かけ、空を見上げる。小さな雲一つない夜空には、無数の星があちらこちらで瞬いていた。
「よろしければ、いかかです?」
ミランダの目の前に木製のカップに注がれたホットチョコレートが差し出される。
「あ、カーティスさん、こんばんは。ありがとうございます」
差し出されたホットチョコレートを受け取り、会釈をする。
「こんなところで、奇遇ですね。隣、よろしいですか?」
「ええ、どうぞ」
そういって、少し横へずれ場所をあける。
「ミランダさんも、サーカスを観に?」
「そうですよ。古くからの友人がこのサーカスにいるのでチケットをもらったんです」
「なるほど、それでわざわざこっちまで来られたんですね」
カーティスが手にしているコーヒーに口をつける。
「それにしても、初公演の日に晴れてよかったですね。こんなにもよく星が見える」
カーティスが夜空を見上げ、それにつられるようにミランダも空へと目を向ける。
「星って不思議ですよね。こんなに輝いて見えるのに、手が届かなくて、遠くて、遠くて……なんだか悲しいのに、優しい気持ちになれる」
「星は、この空のもっと遠くで、何万年も、何億年もかけてここまで光を届けて、夜を照らしてるんですよ。この大地を照らすためだけに燃え続け、やがてその一生を終える」
「……そうなんですね。カーティスさんは物知りですね」
「いや、つい最近、中央地区にある図書館の学術書で読んだだけすよ」
「カーティスさんは、夜空を見て何か思うことってありますか?」
「何か思うこと……?」
「はい。どこか、遠くへ行ってしまった誰かのことや、昔の思い出とか」
「そうですね……最近、夜空を見上げることがなかったので……特に思い当たることはないですかね……」
「そうなんですね。もうそろそろ入れるようなので、私はそろそろ失礼しますね。飲み物、ごちそうさまでした」
「いえいえ、こちらこそゆっくりとお話しできてよかったです。楽しんできてください」
カーティスはそういって頬笑んだ。
ミランダは立ち上がり、テントの中へと向かい、歩き始めた。
入り口には、早くも長蛇の列ができていた。
ミランダは、星を見上げながら順番を待つ。
十分ほど待ち、ようやく彼女の順番が回ってきた。
「いらっしゃい! お、招待チケットだね! 一番前の好きな場所に座るといい」
くぐった入り口の先は、多くの光で溢れていた。