プロローグ 曇天の下、平原より
どうも、 六興 九十九です。
はじめましてm(__)m
この物語は、僕の初めての投稿作品です。
少しずつの連載となると思いますが、どうぞお読みください。
どんよりと曇った灰色の日だった。雪こそ降ってはいないが、空は継ぎ目ひとつなく灰色の雪雲に覆われ、平原は隅から隅までたっぷりとその灰色にそめれられていた。
静かな平原を、十台の幌馬車がゆっくりと進む。
「明日には着きますか?」
一台の馬車の中から若い男の声がする。
「このまま、雪が降らなければ明日の昼過ぎには着く。アンは三年ぶりの里帰りか?」
馭者が中の男へと聞き返した。
「……まぁ、だいたい三年ぶりですね。街並みもすっかり変わってるんでしょうね。もしかしたら、もうあいつもいないかも……」
「あいつ? 女か?」
「やめてくださいよグレゴさん。そんなんじゃないです。確かに女ですけど、少し年下のただの幼なじみですよ」
「なんだつまらん」
平原に二人の笑い声が小さく響く。
「他の連中はどうした? さっきからやけに静かじゃないか」
「みんな、酔い潰れて寝てしまいましたよ」
「アンは飲まなかったのか?」
「はい。僕はお酒に弱いんで。さっきの休憩の時に作っておいた温かいチョコレートドリンクをいただきました。よかったらグレゴさんもいかがですか?」
「ああ、貰おう。少しだけウィスキーを混ぜてもらえるか? その方が体が暖まるんだ。酔わない程度にな」
「そうなんですか」
幌馬車の中からごそごそと音がする。
「どうぞ」
「わりぃな」
しばらく、温かい飲み物をすする音だけが響く。
「アン、着くのは少し遅くなりそうだ。雪が降ってきた」
平原にしんしんと粉雪が音もなく降りだした。
「まぁ、これくらいの雪なら進める。ただ、少しだけ、到着が遅れるだろう。どのみち、公演は明後日だな」
「明後日なら、準備のあと自由時間くらいありますかね?」
「あるもなにも、夕方に着いたらそのあとはずっと自由だろ。夜じゃ公演用のテントも張れんしな」
「そうですね」
「会いに行くのか?」
「ええ、一応そのつもりです」
「若いってのはいいな」
「グレゴさんだって若いじゃないですか」
「もう二十九だよ。おっさんだ。……これは少し積もりそうだな……」
「積もりますか……」
冷たい雪は黄金色だった平原をゆっくりと白く染めていった。幌馬車の音も降り続ける雪に吸い込まれ消えていく。
「グレゴさん、もう寝ますね」
「おう、ゆっくり休みな」
「はい。おやすみなさい」
話し声も消え、あとに残るは馬の足音、車輪の音。