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ドレッシング入門

 古今東西、食べ物の事だけをとってみてもいろいろな嗜好の人々がいる。例えば、軽い例を挙げると「目玉焼き論争」だ。

 これは私が勝手につけたタイトルだが、要は「目玉焼きに何をかけて食べるか」ということ。何もかけない派や塩のみ派、塩コショウ派。醤油にソースに、その他もろもろ他の調味料。ちなみに私は納豆のタレ派の人間。醤油派の派生と考えると、広義的には醤油派ということにもなる。

 それはさておき、目玉焼きのように味がもともと薄いものとか無いもの、あるいはあまり美味しくないものに調味料をかけるのは割と普通のことだ。だけど、味が無かろうがついていようが、関係なく大好きな調味料をかけてしまうという人達がいる。 

 その最たる例が「マヨラー」だ。マヨネーズをこよなく愛し、どんな料理にでもマヨネーズをかけてしまうという恐ろしい嗜好。私には全く理解できない。料理によっては見た目も最悪だし、何よりマヨネーズの過剰摂取なんて健康に良くない。料理を作ってくれた人に対しても、失礼な行為だと思う。マヨネーズは全てを魔ヨネーズ味にしてしまうからだ。

 一説によると、マヨネーズに含まれる大量の油分が、一般人を「ダークサイド」ならぬ、暗黒の「マヨサイド」へと堕としてしまう原因らしい。とても恐ろしい脂だ。

 幸いにも、私の周りにマヨサイドへ堕ちた友人知人はいない。しかし、マヨサイドとはまた違った暗黒面に堕ちてしまった人間なら身近にいる。

 付き合って2年半になる彼、堂山玲二だ。彼はマヨネーズではなく、さまざまなドレッシングをいろんな料理にかけてしまう嗜好の持ち主だった。重度のマヨラーほどは酷くはないが、一般的に見ればドレッシングに対する愛情は高いほうだろう。

 私は密かに、ドレッシングサイドに堕ちた人間を「ドレッサー」と呼ぶことにした。身の回りには彼しかドレッサーはいなかったけど。

 最近流行の言い方で「ドレッシング系男子」も思いついたが、長いので却下した。さらには少し古い言い回しの「ドレッシング王子」も候補にあがったが、自分の彼を王子ってとても痛い。そもそもボツになった二つはどちらも男性限定なので、全人類に使えるのはやはり「ドレッサー」だろう。

 などと考えながら食卓に目をやると、ドレッシング系男子もといドレッサーの玲二が嬉々としてドレッシングを冷蔵庫から持ってきたところだった。二人とも席に着いたところで。

「いただきます」

「いただきます」

 メインは鯵の干物。それに味噌汁とサラダと白いご飯。玲二はドレッシングを手に取ると手首のスナップを利かせて、左右にドレッシングのボトルを振った。この方がよく混ざるらしい。ふたを開けると、サラダからドレッシングをかけはじめた。

「ねぇ。いつも思ってたんだけど。」

「ん?」

「白いご飯にドレッシングだけって、見た目ちょっと抵抗あるけどどうなの?」

「美味しいよ。ごはんに合う合わないはドレッシングにもよるけど」

「じゃあそのゴマドレッシングは合うんだ」

「うん。恵梨も食べる?」

「いや、いい」

「そっか」

 そう言いながらまたゴマドレッシングかけご飯を美味しそうにほお張る。チクショウ。嬉しそうに食べやがって、ちょっとかわいい。2歳年下の彼氏を見てそんなことを考え、ニヤニヤしながら恵梨もご飯を口に入れた。

 玲二は、ご飯を食べている時が一番幸せなんじゃないかと思うほど食事を楽しみにしている。今日もご飯にドレッシングをかけて食べている彼ではあるが、恵梨の作った他の料理にはいっさいかけていない。玲二が自分で作った料理や、外で買って家で食べるという場合は、一口食べてからそれに合ったドレッシングをかけていた。かける時はいちいちかけていいか確認してきたきたので、最近は確認しないでいいよと言ってある。かけることで見た目もよろしくない時もあるので、その辺りはちゃんと気を使ってくれているようだった。

「あ、もしかして。ほんとは白米にドレッシングかけるのイヤだった?」

 見た目ちょっと抵抗ある。という言葉が後になって気になったようだった。彼の性格を考えたら、そこが気になるのは必然だった。

「イヤじゃないよ。自分が食べるとしたら見た目が…ってことだから。美味しそうに食べてるし」

 笑いながらそう言うと、彼は「そっか」と呟き安心したようにもう一口に入れた。

 彼のそんな小さな気遣いも、恵梨には嬉しかった。 

「ご馳走様。美味しかった」

「ごちそう様。そう言ってもらえると作った甲斐があるなぁ」

「そっか。あ、皿洗うからいいよ。そこ置いといて」

「ありがと。お言葉に甘える!」

 そう言いつつも、いつもの癖で水をじゃーじゃー出す玲二に一言注意して、洗い終わった食器を拭いて食器棚に戻していった。

「そういえば、私がご飯作ったとき、ドレッシングかけるの遠慮してるよね」

「ん。そうだね、気付いてたんだ」

「そりゃ気付くよ!他の時はいつも何かしらかけてるから。っていうか冷蔵庫が軽くドレッシング博物館みたいになってるし」

「ドレッシング博物館…」

「いや、それはいいんだけど。あんまり遠慮しないでもいいよ?」

「そっか」

 いつもの口癖。そっかと呟きながら何やら考えている。

「せっかく美味しいの作ってくれてるから…。そうだな、たまーにかけさせてもらうかも」

「うん。分かった。そんなに気にしないでいいよ」

「ありがとう」

 いつもよりちょっぴり嬉しそうな玲二を見て、最後の一枚の皿を食器棚に戻しながら「言ってよかったなと」と呟いた。

※ドレッシングの振り方は、キューピーのドレッシングのページに動画があります。

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