act.06
act.06
「なんでこんなところにまで!?」
ルキは慌てて銃を握ろうとした。が――……
「私に任せて!」
ルシファがカウンターから身を乗り出し、ルキのホルスターから銃を引き抜いた。
「バカ! それは――」
ルキが口を挟む。そしてルシファは引き金を引く。しかし……
カチカチカチ……。
虚しい音が出るだけで2丁の銃から弾が出ることはなかった。ルシファは何も出ない銃を両手に固まっている。
「それは、俺にしか撃てない銃なんだ! 早く返せ!」
急いでルシファから銃を奪うと、ルキは直ぐに悪魔へと銃口を向けて引き金を引く。
パンパンッ!
次は渇いた発砲音が響いた。外から住人たちの叫び声も聞こえる。
「外も騒がしいです、ルキ!」
「ああ、分かってる」
ハウライトも杖を構えて応戦する。
相手の悪魔たちも黙っているわけがない。ルキの銃声に答えるように動き出す。
「裏切り者は始末だ!」
一体の悪魔がそう云った。
ルキはその言葉を聞いて動きを止めた。隙を突くように悪魔の攻撃が迫る。
「バリアウォール!」
ハウライトが杖を振り、そう口にするとルキの前に防御壁が現れた。
「何してるんですか、ルキ!」
ハウライトの援護によって、何とか悪魔からの攻撃を免れたルキは静かに口を開く。
「お前ら、ロキ兄さんに命令されたのか?」
「そうだ。何か問題でもあるか?」
ルキに続いて1体の悪魔が答える。
そして、一度攻撃が止まった。
「お前の右目、頂く!」
1体の悪魔がそう云うと、再び攻撃の嵐が始まる。ルキの手もやっと動き出した。
「ハウ! 援護を頼むぜ」
「任せてください。それと、ルシファは下がっていてください」
ルシファがハウライトに云われた通り、カウンターの影に隠れた。
その間、ルキは休むことなく銃を撃ち続ける。そしてハウライトも魔法を使って応戦する。
ハウライトの口から呪文が出てくると同時に、杖から炎や電撃など色々な魔法が放たれていた。
ルキもバックステップを踏みながら悪魔たちからの攻撃を避けて、確実に弾丸を悪魔へと撃ち込んでいく。
それから、敵が最後の1体になると、ルキは走って悪魔に接近し、悪魔の額に銃口を当てた。そして、
「チェックメイト」
ルキの銃から弾が放たれる。
撃たれた悪魔は灰となって消えていった。
「ふう、終わりましたね」
ハウライトは両手を上げて、ぐーっと背伸びをする。
「外は別のエクソシストたちが戦っているみたいですね。それもかなりの数で」
窓から外を見ながら、淡々とした口調でハウライトが云った。
「俺たちの出る幕なしってことだな」
ルキが手に持っていた銃を腰の左右に吊り下げているホルスターにしまう。
店の中が静かになったのを確認してルシファがカウンターの影から出てきた。
「なんで店の中まで……」
「悪ぃ。俺のせいだ」
ルキは肩を竦めて云った。
「どうしてルキくんが謝るのよ。そんなことより、ルキくんが裏切り者ってどういうこと?」
「それは……」
ルキが右目に付けている眼帯を外し始めた。
「ルキ! いいのですか!?」
ハウライトがルキの取った行動に驚いた。
「ああ、別に構わない」
眼帯がするりと外れた。そして、長い前髪を手でかき上げる。
それを見たルシファは、
「え……。赤い目……?」
口をパクパクとさせて、ルシファは目を疑った。
「赤い目って悪魔の目じゃないの……?」
「俺は半分悪魔なんだ。母親は人間、父親は悪魔。そして双子の兄がいる」
ルキは口を止めることなく続ける。
「俺と兄さんは悪魔の力を半分ずつ分け合って生まれてきた。兄さんは左目、俺はこの通り右目が赤い。両目が揃うと完全な悪魔になる。兄さんは完全な悪魔になるために、俺のこの赤い目を狙ってるんだ」
全てを云い終えたルキは、かき上げていた前髪を元に戻した。
「ルキくんは人間と悪魔の間に生まれたハーフってことね」
なるほど、と納得するルシファ。
「怖くないのか?」
「怖くなんかないわ。だって人間の味方でしょ?」
「ああ。人間を殺す兄さんが理解できなくて、魔界から人間界に出てきた」
「なら、ハーフでも何の問題もないわ」
ルシファがニコッと笑ってみせた。
そんな2人のやり取りを見ていたハウライトは、ほっと胸を撫で下ろした。
「ルシファが理解のある方でよかったです」
「あら、私は見た目で人を判断しないのよ」
ルシファがハウライトの頬を軽くつねった。ハウライトはイタタ、と声を上げてルシファの手を引き剥がす。
その間にルキは慣れた手つきで眼帯を付け直した。
「で、これからどうするの?」
ルシファが改まって云った。
「兄さんを止める」
はっきりとした口調で、そう一言だけ口にした。
その横でハウライトも同意する。
「兄さんの行方は分からないけど、必ず探して止めてみせる」
「そうね。人間界を平和にするには、それが一番早い手だわ」
ルシファはルキの考えに賛同した。
「さてと。話も纏まったことだし、ハウに店の修復を頼もうかしら」
話が終わったところで、ルシファがハウライトに云った。
それを聞いたハウライトは、
「そうですね。ドアがないままでは困りますもんね」
ハウライトは左手に持った杖を身体の前で器用に回し始める。
すると、ハウライトを中心として大きな魔法円が現れた。魔法円が強く光ったと同時に、ハウライトは杖を回すのを止め、力強くトンッと床に杖を立てる。
「リターン!」
真っ白な光が全てを包み込んだ。視界が真っ白になり、何も見えなくなる。
しかし、直ぐに光は杖へと集まって消えてしまった。
「これでどうでしょう?」
店内を見渡すと、先程の戦闘で壊れてしまった物は全部元に戻っていた。勿論、なくなっていたドアも。
「ありがとう、ハウ。これで新しい杖の代金はいいわ」
「いいんですか?」
「店を直してくれたから、御代は結構よ」
「では、御言葉に甘えて、そうさせて頂きます」
ハウライトは頭を下げて云った。
「よし、じゃあ行くか」
ルキがドアに向かって歩き出した。
「はい。ではルシファ、私たちはこの辺で」
「分かったわ。2人とも気を付けてね」
ルシファの言葉を聞き、ルキは店のドアを開いた。
先程の騒ぎはいつの間にかおさまっていた。いつもの街へと戻っている。
それを見て安心した2人は魔具屋を後にした。
そして、ルキたちは街の中へ溶け込んでいく。
「そういえば、ハウ」
隣を歩いていたルキがハウライトに話し掛けた。
「なんですか?」
「今回は魔法のド忘れしなかったな。褒めてやる」
「結構です! 私をバカにしないで下さい」
「は? バカじゃなかったら何なんだよ」
「本当に怒りますよ?」
「どうぞ、御勝手に」
ルキはニタニタ笑いながら少しハウライトから離れた。
この後、ハウライトとルキが道のど真ん中で暴れたのは云うまでもない。
To be continued