act.05
act.05
「ルキ? どうしたのですか?」
ハウライトが、ボーッとしながら隣を歩くルキに声を掛けた。
その声で、はっと我に返るルキ。
「あ? ああ……ちょっとあの時のことを思い出してただけだ」
「そうですか。――……もう1年になりますね」
「もうそんなに経つのか。早いな」
――そういえば、兄さん追って来ないな。俺の右目を狙ってるはずなのに。
「お兄さん、あなたのこと追って来ませんね」
ルキが右目に付けている眼帯を押さえて考え込んでいると、ハウライトも同じ考えを発言してきた。
読心術でも使えるのか、とルキは少し驚く。
「ああ、いつ俺の右目を狙って来てもおかしくないのにな。それにしても、人間界を襲う悪魔が増えた。」
「確かに1年前と比べると、エクソシストも忙しくなりましたよ」
ハウライトは右手をヒラヒラとさせながら溜め息を吐く。
「何らかの形で兄さんが行動しているのは確かだろうな。きっと兄さんの手で人間界に悪魔を送り込んでいるに違いない」
ルキはぎゅっと拳を握った。自然と歩くスピードが上がる。
「俺の右目が兄さんの手に渡れば、兄さんは完全な悪魔になる。それだけは避けておきたい」
少し足早になったルキを見て、ハウライトも同じように足を早めた。
いつの間にか周りは人々で賑わっていた。しかし、そんなことには構わず足を進める2人。
きっと何とかなりますよ、とハウライトはルキの肩に手を置き、歩みを遅くするように頼む。それに対して、悪ぃ、と一言口にして足を遅める。
「で、道は合ってるのか?」
ルキがハウライトの方を見た。
「ええ、合ってるはずなのですが……。行き付けの魔具屋と云っても何年も行ってませんからね」
レンガ造りの街並みを左右交互に見ながら歩くハウライト。色々な店の看板に注意を払っていた。
そして、ハウライトが1つの店を指差す。
「あそこですよ! 私行き付けの魔具屋」
ハウライトが云った通り、そこには魔具屋と看板に書いた店が存在していた。
少し古ぼけた店だが、外装には綺麗な魔宝石が飾られている。そのせいか、周りの建物より、とても目立っていた。
「随分、年季の入った感じの店だな」
「もう何十年も前からあるみたいですよ。今は5代目の人が後を継いでますから」
「ふーん、大分続いてるな」
そんな会話をしながら、ハウライトが店のドアを開ける。古びたドアはギギギと音をたてた。
「いらっしゃいま……って、久し振りじゃないのハウー!」
店のカウンターには、腰まである長いブロンドに、胸を強調した露出度の高い洋服を身に纏った女性が立っていた。年齢はハウライトたちとそんなに変わらないだろう。
「久し振りね、ハウ!」
「ええ、何年ぶりでしょうか。本当に久し振りですね。ルシファ」
ルシファと呼ばれた女は、ハウライトを見た途端、カウンターから飛び出してきた。
「もう2年は経つわ。それにしても少し見ない内に随分男前になったじゃない! ――……あら、後ろの人は?」
ルシファはハウライトの後ろに立っているルキを見た。
「彼はルキです。私と一緒に旅しています」
ハウライトの言葉と同時に、ルキはぺこりと頭を軽く下げた。
「私はルシファ。ルキくん、宜しくね!」
「ああ、宜しくな」
互いの紹介をしたところで、ルシファがカウンターに戻った。
「ところでハウ、杖は?」
ルシファがハウライトを見て云った。
「えっと、それなんですけど……」
ハウライトは背負っていた荷物を下ろし、カウンターの上へと置いた。そして布の結び目をほどき中を見せる。
そこには、先程折れて壊れてしまった杖があった。
それを見たルシファは、
「あらら、また派手にやっちゃったわねー」
と、笑いながら云った。
「直りますか?」
ハウライトはルシファとは逆に悲しげな表情をした。
「流石にこれは直らないわ。いい加減新しい杖を持ちなさいってことね」
「そんなぁ……」
「今のより軽いのを持ちなさい。あなたにはあれがいいわ、ちょっと待ってて」
そう云ってルシファは店の奥へ入って行った。何やらごそごそとしている。
そんな中ハウライトはルキに慰められていた。
「まぁ、仕方ないだろ。愛着が湧いてたのは分かるけどさ」
「私の杖……」
しかし、当の本人は聞く耳を持たず、ただただ悲しみと脱力感に襲われていた。
暫くしてから、ルシファが店の奥から戻ってきた。その手には十字架をベースとした複雑なデザインの細く長い杖が握られていた。
「これこれ、私が作った最新の杖よ!」
壊れた杖をずっと見つめていたハウライトは、チラリとルシファが持っている杖に目をやった。
すると気に入ったのか、俯いていた顔を上げて目を輝かせている。
「素敵です! これなら買い替えてもいいです!」
「云うと思ったわ。昔、あなたがデザインしたものを元に作ってみたの」
ルシファがカウンターの上に杖を置くと、ハウライトは嬉しそうにそれを手に取った。
そして、少し振り回してみる。しっくりきたのかニコニコ笑いながら、
「これなら戦いやすいかもしれません。ありがとうございます」
「ハウのことだから、どうせまた魔法のド忘れでもするんじゃねーの? 魔法書とかにしとけば?」
ルキがカウンターに寄って、ニタリとした笑みを浮かべ、ハウライトに云った。
「失礼な!」
ハウライトがルキに手を出そうとした瞬間……
――バンッ!!
「なんだ!?」
ルキとハウライトは反射的に音のした方へと体を向ける。
すると、あるはずの店のドアが取り除かれていた。そして、そこには悪魔が数体いた。
To be continued