act.04
act.04
「そういえば、ルキ。さっき倒れていた時に夢を見ました」
ハウライトがおもむろに口を開いた。
「どんな?」
「あなたと出会った時のことでした」
「ふーん……。あの時か――……」
* * *
「ぐあああ……!」
突如、人間ではない何かの叫び声が響いた。
辺りは大雨で視界が悪い。そんな中、黒い何かがうごめいていた。
黒い影は一体ではない。数十体と云ったところか、両手では数え切れない程の生き物たち。
それは、尖った耳や黒い爪、そして赤い目。一番の特徴は漆黒の翼と尻尾。黒い何かとは悪魔のことだった。
場所は公園の広場。悪魔たちの相手をしている一体の影も見える。それもまた悪魔。
しかし、周りの悪魔とは少し違った。
赤い目も黒い翼も片方だけ。片翼の悪魔が数十体の悪魔へと立ち向かっていた。
「裏切り者は死ねええええ!」
次々と飛んでくる悪魔たちからの攻撃。片翼の悪魔はそれを軽々とかわしていく。それはとても滑らかな動きで、誰もが相手をするのに苦戦していた。
「ルキ!何故俺たちを裏切ったんだ!」
一体の悪魔が叫んだ。彼もまた片翼の悪魔だった。
ルキと呼ばれた片翼の悪魔は答える。
「俺は何も間違ってない。兄さんは間違ってる!人間を殺すのは間違ってる!!」
「そうか、それがお前の答えか。ならば、お前の右目を頂こう」
そう云うと悪魔たちは一斉にルキへと攻撃を向けた。
――これ以上力を解放しても平気だろうか。
ルキは全身に力を込めて、そして解き放った。同時に周りからの攻撃を跳ね返す。凄まじい爆音が響き渡った。
暫くして公園内は静まり返る。残ったのはルキと、先程ルキと呼んだ男。
「ロキ兄さん……ごめん」
ルキが泣き声交じりに呟いた。
「お前には失望した。それでも俺の兄弟か?」
「ああ」
「今回はこの辺にしておく。次会ったときは、死ぬ覚悟をしておけよ」
そう云って、ロキと呼ばれた男は姿を消した。
――死ぬ覚悟くらい今でもしてるさ。
そして、足元に横たわる少女に目をやった。赤い長靴を履いた少女は二度とうごかないであろう。少女を見たルキは、ポツリと涙を溢した。
――俺のせいで、この子は……。
一部分だけ雨雲が逃げ、雲の隙間から顔を出した夕日に照らされて立ち尽くすルキ。
すると、
「片翼の……悪魔――……」
背後から声が聞こえた。ゆっくりと後ろへと振り返る。
「エクソシスト、か……」
「ええ、そうです。あなたは悪魔ですか?」
白いローブを羽織って、杖を構えた長身の男が立っていた。
「半分だけ悪魔だ。――なぁ、俺を殺せ」
その言葉を聞いた男は耳を疑った。
悪魔の口から殺せという言葉が出てきたことに驚いたのだ。
「俺のせいで、この子は死んだんだ。俺は死ぬべきだ」
「そうですか。しかし、私はあなたを殺せません」
「何故だ!」
「優しい悪魔さんを殺すなんて出来ません」
ルキもまた耳を疑った。
――何を云ってるんだこいつは。
――俺が優しい……?
「お前、本当にエクソシストか?」
「はい、これでもエクソシストです。私、ハウライトと云います。あなたは?」
ハウライトと名乗った男が、そっとルキに近付いた。ルキの手には銃が握られている。
「俺はルキだ。お願いだから殺してくれ」
「だから云ったでしょう?出来ないと」
ハウライトが強く言葉を発した。
それでもルキは怯まない。ルキは持っていた銃をこめかみにあてる。
「なら、自分で死ぬしかないよな」
今にも引き金を引きそうな状態。安全装置を解除し、指を引き金にかけていた。
ハウライトは杖を構える。そして、
「インヴェント!!」
ハウライトが口を開いた。刹那、ルキは銃の引き金を引いた。
しかし……
――……?
ルキの銃から弾丸が出ることはなかった。弾切れという訳ではない。それに、銃の形が少し変わっていた。
「一体何をした!」
ルキがハウライトに掴みかかる。
「銃を作り替えました。自ら自分を撃てないように」
「何でそんなこと……。死なせてくれよ!」
ルキの頬には涙が伝っていた。
――悪魔でも涙を流すんですね。
――本当に優しい悪魔だ。
「ルキは守りたかったのでしょう?その子を。人間を守りたかったのでしょう?」
「ああ、そうだ。でも守り切れなかった」
ルキは静かに俯いた。そして、すぐにハウライトが口を開いた。
「だったら、これから他の人間を守りなさい」
「え……?」
ハウライトは顔を上げたルキを自分から引き剥がすと、にこりと笑って云う。
「エクソシストになりませんか?私と一緒に旅をしましょう」
そう云って、ルキに手を差し出した――……
To be continued