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I kill me...  作者: 望月 契
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act.02

 


act.02



***



大量の雨が降っていた。

止めどなく降り続ける雨が、私の体温を少しずつ奪っていく。

時刻は夕方と云ったところだろう。

しかし、雨のせいで辺りは薄暗くなっていた。



「この辺りで爆発があったはずなのですが……」



私は街の中をゆっくり歩く。

そして、少し離れた場所で黒い煙が立ち上っているのが見えた。走って逃げていく街の住人等も目に入る。

私はそれを確認すると、急いでその場所に向かって走り出し、住宅の角を曲がり裏路地へと入った。

この道を抜けた先は確か、大きな公園の広場だったはず。

視線の先にある住宅と住宅の間の光。

水溜まりを弾きながら、その一筋の光に向かって足を急がせた。

そして私は裏路地から一歩躯を出し、公園へと踏み入れる。

一部だけ雨雲が逃げ、雲の隙間から顔を出した赤い夕日‥。その光に照らされながら立っていたのは、



「片翼の……悪魔――……」





***



周辺に立ち込めていた砂埃がおさまった。

先程まで浮遊していたはずの悪魔たちは見当たらず、道の真ん中に2人の青年が倒れているだけだった。

空には薄く太陽が昇り始めたようだ。視界が少しずつ明るくなり始める。

眼帯の青年が、むくっと起き上がった。



「おい、ハウ! ハウライト!」



眼帯の青年は眼鏡の青年――ハウライトの躯を揺する。

するとハウライトの躯がピクリ、と動いた。



「ん……? 何ですか?」



ハウライトがゆっくりと目を開けて、躯を起こす。



「ふぁあぁぁ。おはようございます、ルキ。もう朝ですね」


「あぁ、おはよ。今は朝の5時前と云ったところだな。‥て、お前な……。」



ルキと呼ばれた眼帯の青年は、ハウライトの言葉に返事をすると、先程の出来事を思い出す。



「一体俺らは何度路上で朝を迎えた? あれは本気で死んでたかもしれねぇぞ? 毎回毎回、お前の魔法のド忘れはかなり痛い」



飽きれ口調ですらすらと云い放ちながら、すっと立ち上がり砂埃を被った服等を叩く。

叩き落とされた砂は、微かに動いていた風に乗りハウライトへと被った。



「ちょっと、向こうで叩いてくださいよ!」



少し怒りを見せたハウライトは勢いよく立ち上がり、自分も被っていた砂を払い落とした。

ハウライトは足元まである白いローブを羽織っている。ローブのフードや袖の縁には上品なファーでいっぱいに飾られている。そして、真っ白なローブの下には黒い服を身につけていた。

 一方ルキは、すっきりとした黒がメインの服を身につけ、上には短いジャケットを羽織っている。腰に巻いてある複雑なベルトの左右には1つずつホルスターが吊されていた。そして、ジャケットをの下には、肩から斜めに掛けてある無数に連なった弾丸が光沢を放って顔を覗かせている。

白と黒。まるで光と闇のような2人だった。



「あのですね。私だって一応人間です。魔法を忘れる事くらいありますよ。それにさっきは咄嗟に強力な撥ね返し魔法を使ったじゃないですか」


「魔術師が魔法のド忘れねぇ」



ルキが意地悪そうな笑みを浮かべる。



「わ、悪かったですね。そんな事より、取り敢えずこの道の修復をしましょう」


「そうだな。でも別に直さなくてもいいんじゃないのか?もうこの通りの住人は存在しないみたいだしさ」



地面を軽く蹴飛ばしながらルキが云った。

ルキの云う通り、此処の住人は1人として残っていないだろう。

周りの住宅に目を向けると、その事がよく分かる。

窓は全て割れ、所々に飛び散っている血痕が物語っている。



「確かにそうですが……。やはり直しておきましょう」


「了解。まぁ直すのはハウだしな。‥‥じゃあ俺は念の為に生存者がいないか確かめてくるから、その間にどうぞ」



そう云ってルキはハウライトの側から離れて、割れた窓の外から1つずつ部屋を覗いていく。

その間にハウライトは、一呼吸置いて杖を掴んだ左腕を真っ直ぐに伸ばし、2m近くある金属の杖を器用に回し始めた。

するとハウライトが立っている位置を中心として、半径10mぐらいの魔法円が浮き上がった。

そして魔法円が強く光を放ったと同時に、ハウライトは杖を回すのを止め、力強く杖を地面に立てた。



「Return!」



ハウライトの言葉を合図に周りが白い光に包まれる。

視界が不自由になったかと思うと、広がった光は一瞬にして杖へと集まり、静かに消えた。



「ふぅ、修復完了です」



ハウライトは腕で額の汗を拭う。

辺りは先程の光景とは嘘のように変わっていた。

悪魔たちからの総攻撃で沈んだ道も、ばらばらになっていた煉瓦も全てが元通りになっている。



「おっ!直ったか」



部屋の中を確認していたルキが、ハウライトね背後から顔を出した。



「……心臓に悪いです、ルキ。急に後ろから話し掛けないでください」



顔には薄く笑みを浮かべているが、どうやら心臓の方は忙しいようだ。



「へへへっ、悪ぃ悪ぃ。そんな事より、やっぱり生存者はいないみたいだ。この周辺は1人残らず殺られてる」



和むような空気はルキの言葉で一瞬にして変わった。



「そうですか……。仕方ありませんね、此処を離れましょう」


「あぁ。そういえば‥‥ハウ、あれはどうしたんだ?」



ルキは綺麗になった路上を指差して云った。



「はい?」



指を差した先には、一部煉瓦がまだ崩れている箇所があった。

それを見たハウライトは首を傾げ、



「おや? 可笑しいですね。今までこのような事はなかったはず……」


「失敗か?」


「んー……」



ハウライトはトン、と自分の左側に杖を立てる。

その数秒後に、鈍い音と振動が地面に響いた。その次に、



「あぁぁあぁー!!!!!!」


「うわっ?! 何だよ、急にでかい声出して!」



ハウライトの大声と、それに驚くルキの声。

そして、大声を出した本人は慌ててしゃがみ込む。その足元には、本来杖の上部に繋がってあるはずの大きなシンボルが落ちてあった。

ハウライトの左手ににぎられているものは、ただの長い金属の棒と化してしまった。



「お、折れちゃいましたぁ……」



左手には棒、右手には折れた上部を持って、涙ぐんだ表情をルキに見せた。



「折れたって……、はぁ?! おいおい、そんなのさっきみたいにいつもの魔法で直せるだろ?!」


「直せませんー! 魔術師は杖がないと魔法が使えないんです。多分煉瓦の一部が崩れている原因は杖にヒビが入っていたからだと思います」



そう云いながらハウライトは、杖の折れた部分を引っ付けようとしている。

何をしても直らない事は分かっているが、本人は諦め切れないようだ。



「杖がないと駄目だなんて、お前使えねぇなぁ」



悪戯に笑いながらルキが云った。

それを聞いたハウライトは、



「魔法は使えない、なんて云いましたが、完全に使えなくなったわけではありません!! ただ、戦闘用等の魔力の高いものが使えなくなっただけです!! あ、先程のリターン魔法も使えませんが‥‥。でも地味なものくらいは使えます!」


「な、何でそんなに怒ってるんだよ……」


「怒ってません!!」



杖が折れたショックが大きい上に、ルキの言葉で腹が立ったらしい。

それからハウライトは、苛々しながらも眼鏡を右手できちんとかけ直し、怒りを浮かべながらも少し微笑んでルキの方へと顔を向けた。

その顔をみたルキは、少し顔を引き攣らせた。



「な、なんだよ……」


「少しこの杖、持ってて頂けませんか? 折れた杖を持ち運ぶのは少々不便なので、これを包めるような大きな布を創り出したいのです」



白いローブに包まれているはずのハウライトなのに、何故か背景がやたら黒いのは気のせいだろうか、とルキは口の端を微動させながら思う。



「あ、まぁ、持ってやるくらいならいいぜ、うん」


「そうですか。流石ルキ、優しいですね!」



にこり、とハウライトは笑顔を見せ、折れて2つになった杖をルキに渡す。

こいつ何を企んでいるんだ、と思いながらも、ルキは恐る恐る杖を受け取った。

が、次の瞬間……



「うぉっ!! お、重い……!」



杖がルキの手に渡り、ハウライトの手が離れた瞬間、想像を遥かに越える重さがルキを襲った。



「ちゃんと持っていてくださいね。落としたりしたら、後でお仕置きですよ?」


「お仕置き、って、おま……。んなことはどうでもいいから、さっさと終わらせてくれ! ……て、別にこれ地面に置いてても問題ないんじゃ……」


「いえ、ルキに持ってて頂きたいのです」


「お、お前な!」



ルキはガクガクする足で一生懸命に躯を支えながら、腕にしっかりと杖を抱えている。

あの黒い笑みはこういうことか、と内心文句を云いながら、この抱えている杖をどうするべきか考える。

だが、地面へ降ろそうにも、しゃがみ込む事が出来ない。何故なら、今保っている躯のバランスを崩す事になるからだ。

なので結果的には、”このまま我慢”という結論に行き着いてしまう。



「ちょっと待ってくださいねぇ。今から魔法陣を描きますから」



そう云うとハウライトは、太めの普通とは違うペンをポケットから出した。



「おま、こういう魔法には要らないって前に。」


「ああ……確かにそうですが」


「が、?」



「やっぱり雰囲気が大切でしょう? なので無駄に描いちゃったりします!」



そう云って、にこっと笑ってみせたハウライト。

ふつふつと沸き上がる怒りで肩を揺らすルキ。

それに続いて、



「ぶっ殺すぞ、ハウ――――!!」



お決まりの怒鳴り声。







To be continued.




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