中世ヨーロッパ版・水止めたろか
雲ひとつなく、青空が晴れ渡る王都。
今日も王城庭園はむせかえる程の花の香りに包まれていたわ。
「今日はここで皆の前で伝えたいことがある!」
私の婚約者である王太子殿下は、はしたなく声を荒げて、桃色に揺らめくどこぞの女の肩を抱き寄せた。
「ジェリーナ! お前との婚約も今日までだ!」
いつもと同じ口上。もう少し捻りをいれることはできないのかしら。失笑しそうだわ。
「──お前と婚約破棄をする!」
熱い視線が私に集まる。
当然よね。いつもいつもコレに付き合わされているのだもの。
同情なんてものは無いわ。
もはや早く終わらせてくれという無言の苦情よ。
「殿下──再三お伝えしておりますが、私との婚約破棄による弊害を今度こそご理解なさった上での発言でしょうか?」
「もちろんだ! ここにいるエミリーはなぁ、お前の領地とは反対側の西の領地! つまりお前と婚約破棄をしても問題はない!」
王太子殿下の自信に満ちた言い分の違和感に気づいた何人かは、青ざめた顔で悲鳴を上げかけていた。
そうよね。気持ちはよくわかるわ。
私も膝から崩れ落ちそうよ。
「この事は、国王陛下もご存じで?」
冷静な私の確認に、勝ち誇るように王太子殿下は頷いた。
それを合図に、私は踵を返した。
ゆらりと花色のドレスが波のように私の動きに合わせて揺らいだ。
「セバスチャン──早馬を立てなさい」
王太子殿下は背後で高笑いをしているけれど、周りが何も見えていらっしゃらないのね。
枯れ落ちた花のように凄惨なものですことよ。
でももう私にはどうすることもできませんわ。恨むのなら浅慮な王太子殿下の代に生を受けた己の運命を恨むことね。
「水門を閉めてちょうだい──東西どちらの門もよ」
「──は?」
高笑いをあげていた王太子殿下の間抜けな声に、私はわざわざ振り返って差し上げた。
「殿下、私の領地は王都よりも上流にありましてよ」
王都よりも上流にある。
それはすなわち、国中の水源を意味することでしてよ。
西の領地よりも遥か上流にあるのは当然ですわ。
私の領地は、建国されし時代の国王から水源を守護するために、王都より上流に在ることを許された土地ですもの。
雛鳥のように口を開けて目をぱちくりさせているエミリー嬢にもわかるように教えて差し上げませんと。
「この国の水脈、止めて差し上げますわ」
辺境の令嬢だからと侮らないでくださいまし。




