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2(5) 虫は何処に行くのか


「何故、この惑星の生物は一種類にならないのか?」

 乾いた地面の石の上を(うごめ)く昆虫の群れを見ながらフネが言う。

「突然変異に自然選択、そして適者生存の結果で弱肉強食というロジックが正しいならば、この世に残るのは最強の生物一種類のみに集約されるはずなのでは?」


「でも、そうはなっていない」#Gが受けて答える。

「おいおい、まさか生物進化について言っているのではないだろうね?」

 64が少し(あき)れた声――彼は「呆れた声」の周波数を出せるのだ――で言う。

 ボクが言う。「そもそも最強の生物がいないのでは?」

「最強の生物は、数は減ったけれど、やっぱり人間でしょ?」

 #Gが立ち上がり、右手で敬礼をしながら笑う。今日は軍服を着ている。

「違うよ。人間が強いとは思えない。ほとんどが水分で、後は(わず)かな骨の周りにある柔らかい肉を薄い皮で包んでいるだけだ。自ら作った鋼鉄の塊である高速移動物体に()かれたら即死だ。そして、その延長線上で、自分たちには管理すらできない恐ろしい装置を作ったが、そのために多くが自滅したとも言えるしね」

 そう言ったのは64の呆れた声を真似(まね)たフネ。


「じゃぁ、最強の生物がいないから、とりあえず強そうなものが何種類か生き残っているってこと?」

「いや、そもそも筋肉の断面積だけでなく、知能という意味でも、環境適応という意味でも弱肉強食などではなく、…部分的にはそう見えるけど、実際には序列は付けられない。むしろ自然は多様性を守るようになっているのでは? 全滅しないように。ソメイヨシノの話はこの前したよね?」


 64が続ける。

「時間がかかり過ぎている」

「地球ができて四十五億年、哺乳類誕生から二億年、そして人類誕生から二十万年が経過しているというのに、世界はまだこんなにも多様化していて、『より良いモノ』に収束していない。人間だって文明が誕生してから数千年が経過しているのに、未だに差別やいじめや暴力、戦争、自己中心的な考え方が続いている。貧困や飢餓(きが)が消え去っていない。全く『成長』しているとは思えない」

 珍しく64が興奮している。


 つまり自然界では生物が一種類にはならないような力が働いている。むしろ種類を増やそうとしている。目的は『最善』や『最強』ではなく、『存続』なのだ。多様化することで惑星全体が存続できる。…64はそう言いたいのだろう。ボクは考えていた。

 では何故、人間は一種類なのだろう? 昔は複数種類いたのに今はホモサピエンスのみだ。猿だってたくさんの種類があるのに。


「人間だって、本当は一種類じゃないのもしれないよ」

 64が言った。64は非常に微弱な思考回路波動を読み取れる。ボクや#Gにはない機能だ。

「それは大脳の眼窩前頭皮質(がんかぜんとうひしつ)及び前帯状皮質(ぜんたいじょうひしつ)の大小と、それに反比例する右扁桃体(みぎへんとうたい)の大きさの問題だろ? 確か前帯状皮質の体積が小さい人たちが戦争を指向したっていう…、そうだよね?」

 フネが得意げに話す。フネは「得意げ」が得意だ。最後は明らかに64に同意を求めたのだが、しかし64は答えなかった。


「私たちC群ロボットが最後に残るって可能性は…、ないよね?」

 突然#Gが言った。


 ない。それはない。そう、それはありえない。

 そして皆、音声通話は勿論、非音声でも文字通り黙ってしまった。


 もし本当に「監視」されているなら、黙るしかなかった。

 夕暮れの東の空に複数の反薄明光線(はんはくめいこうせん)が延びている。雲に反射する永遠のような水色とオレンジ色。やがて群青(ぐんじょう)に染まり、そして鈍色(にびいろ)に光る月。



 しばらくしてフネが音声伝達チャネルを使って言った。

「“奴ら”がまた来るのかな? そうしてこの星の生き物は絶滅するのかな?」

 あの昆虫も絶滅するのだろうか?

 ボクはどこから来るのか絶え間なく湧き出てくる昆虫の群れを感知しながら思っていた。


 気がつくと、至る所で大量の虫が(うごめ)いていた。

 昆虫たちはどんな目的で何処(どこ)に行こうとしているのだろうか?



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