2(4) 「恋の予感」
その日はボクと#Gだけだった。
フネや64がネットワーク上で黙って聞いている可能性もあったが、おそらくそれを確かめるために#Gがこんな話をした。
「日本語の『恋の予感』って言葉が英語に翻訳できないって知ってる? ソースは五十年位前のBBCニュースなんだけど」
フネも64も割り込んでこなかった。誰も聞いていないのだろう。
「訳すとすれば、『The sense one can have upon first meeting a person that the two of you are going to fall in love』って訳すんだって。四文字が七十六文字になるって、当時話題になったそうよ」
それから#Gは何故か自己診断チャネルをボクだけに開放して言った。
「フネと64が接続したって、聞いた?」
「え、接続? ホント?」
そう言ったボクの中に不思議な感覚が走った。微弱な電気信号。ただし、どこをどう通っているのかよく分からない。そう言えば、「詩」を書いていたときにもこれと同じような電気信号を感じた。
「接続」というのは、個体識別されたロボット同士がその最も深いインコアの部分で情報交換することだ。
ネットワーク経由ではできない操作であり、物理ケーブルで両者を接続し、基本的なブートストラップ情報から開示しあうのである。
ロボットにとってロボット三原則の次に重要な基本憲法で定められた手順であり、両者の完全な同意が不可欠。「接続」した後は両者の間に特別な関係が生じる。いわゆる「マクロな量子もつれ」状態が生じるのである。
いずれにしても「接続」した二体のロボットは特殊な関係になる。
それをボクたちは「信頼」と呼んでいた。
#Gが空を見上げた。
それにつられてボクも見た。月は鈍く輝き、アナログ時計の分針のような速度で動いている。デジタル移動解析で見れば明らかに動いているのが分かる。
そのとき、ボクはまた#Gからわずかに不思議な信号を感じた。
それは怒りと迷いと悲しみと喜びと期待が混ざったものに似ていた。




