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2(2) 議論


 ボクたちはP群やB群ロボットのための行動計画を策定したり、そのメンテナンスやトラブル対応等の仕事がない限り、毎日のように集まって、何かテーマを決めて「議論」をしていた。

 議論はボクたちを成長させる。成長のためには議論して、誤りを見つけそれを訂正することだ。それが「科学」というものなのである。


 今日のテーマは「暴力」。

 もっとも、テーマからはどんどん脱線していくのがいつものことだったが。


 珍しく実体化している64が口火を切る。

「現時点の私たちは暴力による制限を受けていると言えるのだろうか」

 64は美しい(ひょう)(正確に言うとジャガーやチーターだったのかもしれないが、いずれにしてもはるか昔に絶滅したネコ科の大型動物である)に擬態している。ときどき64はおかしなことをする。


「ケンのラムジェットでも超えられない上空一万キロの制限のことね」

 #Gが言う。

「敵が誰かは分からないが、抗うことはできない。『鎧袖一触(がいしゅういっしょく)』だ。そうだろう? ケン」

 フネはときどき古い日本語を使う。

「しかし、あれは制限と言えるのだろうか? 誰かが攻撃をしてくるわけではない。只、自ら故障するだけだ」とボクが思っていることを言うと、「むしろ、(のろ)いや(たた)りという感じ?」とフネが答える。

 #Gは少し沈黙、おそらくネットワークを使って「呪いや祟り」を調べているのだろう。


「まずは、ボクたちの中で暴力があるかから始めようよ」

 呪いや祟りの話になる前に、ボクが提案する。#Gはまだ考えている。

 フネがボクたち4人にグループ間ネットワークを張った。知識が挿入されてくる。

 獰猛(どうもう)に見えるゴリラを始め、サルの仲間には元々暴力性はない。ヒトも昔から石器を使っていたが、その目的は食器だったのであり、武器として使用されたのはヒトの歴史の最期の一割の期間に過ぎないらしい。

 しかし、ヒトは火を発見し、農耕牧畜を始めて集団社会を作った。食料が保存できるようになり、土地が重要な財産になった。つまり仲間と私有財産ができるようになったが(ゆえ)に、それを守るために暴力的になったのだ。

 外に敵を作ることで中の結束を強める。仲間を守るために武器を持ち、そのために戦争を起こす。

 ヒトが持つ共感ホルモン、愛情ホルモンであるオキシトシンが、敵を作り、暴力を生み、人類に戦争を始めさせたのである。


「だから、」

 美しい豹がしなやかにノビをして言う。

「だから、一人なら暴力も嘘もない。しかし一人では生きていけない。そこで、O博士は一人を複製した。自分自身を複製したんだ。これなら暴力は発生しえない。すべて一人のコピー、ソメイヨシノという美しい樹木のように」


(ソメイヨシノ? また知らない言葉が出てきた)ボクはインコアのデータベース内を検索する。#Gも調べているはずだ。いや、彼女はまだ「呪いと祟り」をやっているのかな?

(それにしても、やはり話はO博士に行き着く)


「勿論、基本となるDNAプログラムが同じだと、例えば一種類のウィルスで全滅する可能性がある。ソメイヨシノのように。そこでO博士は我々に表面上の多様化を持たせた。個体としての識別を担保した。だから我々は皆、異なる。人間のように」

 豹となった64が続ける。


「はたしてどこまで異なるのか? どこまで異ならないのか?」

「またチューリング・テストの話か、チューリング、チューリング!」フネが少し呆れたように言う。

 64は未だに豹のまま肢体をくねらせて笑う。


 #Gはまだ黙っている。



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