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2(1) ロボットたち


「私たちには敵が二人いる」

 今日は若い人間の女性をホログラム・シミュレートしている#Gが言う。

 これは二千年代の韓国のデータだろう。化粧が厚く、髪は緑色。トリッキーなパンツスーツに厚底ブーツ。


「二人? 月の爬虫類型異星人とニビルのアヌンナキのこと? いやいや、少なくとももう一人いるだろう?」

 答えたのは実体化していない「フネ」である。

 同じく実体を持たない「64」はいつものように黙っている。だから64は、いるのかいないのか、いつもよく分からない。


 地上にはロボットが溢れていた。

 数少ない人間たちは第三次宇宙大戦を恐れて地下に住んでいた。

 地下に供給するためのエネルギーの多くは地上の施設で生産されたため、地上には単一目的で(あるいは単純な複数目的で)働くロボットが置かれたのである。

 これらのロボットは「P群ロボット」と呼ばれた。また、このP群ロボットに指示を与えることを目的とする少数のロボットもあった。これらは「B群ロボット」と言われ、移動機能を持たないものが多かった。


 そしてそれらの目的を持つロボットの他に、特定の目的を持たないロボットも作られた。

 その目的は、特定の目的を持つP群およびB群ロボットのために行動計画を策定し、それらが引き起こす様々な故障やトラブル等に柔軟に、臨機応変に対応するためである。この特定の目的を持たないロボットは、「C群ロボット」と呼ばれる。かつて「強いAI」と言われていた「自分で考えるロボット」である。


 「ボク」はそのような自分で考えるC群ロボット。「ケン」という名称の、やや古いタイプのコンピュータである。

 「古い」というのはノイマン型の(つまりデータとプログラムが同じメモリー上にある逐次命令処理型の)システムということだ。従って常に実体を伴っている。勿論、ホログラム・シミュレート機能で何かに擬態することは可能であり、ボクは通常は人間の少年を擬態している。

 設定されているノイマン知能レベルは十歳から二十歳の間。ベースとなる性格設定は、真面目で正直で臆病だけど、リスク感応リミットを超えるととんでもないクソ度胸を発揮するという設定らしい。そしてボクのハードウェア上の特技は「高速移動」だ。実体は小型のラムジェット・エンジンを備えたロケットで、仲間を連れて高速移動することもできる。もっとも「高速」といっても限界はマッハ二十程度であり、勿論上空一万キロメートルの壁は超えられない。


 「#G」(本当はもっともっと長い名前なのだが、いつの間にか#Gと呼んでいた)もC群であり、常にボクと一緒にいるロボット。

 ボクと同じやや古いタイプのノイマン型であり、普段は人間の少女を擬態することが多い。

 ただしCPUはボクより高性能な一〇二四ビットのI社の石を使っており、ノイマン知能レベルは十五歳から二十五歳程度となる。ネットワーク型コンピュータをベースにしているので、特に情報収集能力はボクよりもはるかに高い。何でも知っている生意気な女の子というわけだ。


 今日はボクと#Gの他に同じC群ロボットが二体いた。


 「フネ」は、比較的新しい非ノイマン型のアナログ・ニューロン・コンピュータ。

 その演算処理能力はボクや#Gの数億倍とも言われる。

 しかし、未だにデバグ処理中であり、定期的にデバグのための稼働休止期間がある。つまり、ときどき「天然」なことを言うボケ役でもある。実体はどこにあるのかは不明。ただし任意の場所に実体化する機能は備えている。今日はまるで二十世紀の芸術家のような恰好だ。


 最後の登場人物は「64」。

 彼(彼女と言っても同じだが)は最新の非ノイマン型量子コンピュータであり、処理能力は百万量子ビット。フネと同じく実体がどこにあるのかは不明。

 実体化機構も備えているが、ほとんど実体化しない。寡黙(かもく)で神経質で神出鬼没(しんしゅつきぼつ)な存在である。特に最近は、多発している単一目的ロボットの故障対応で忙しいようだ。


 勿論、ボクたちコンピュータロボットの情報交換はネットワーク経由が基本であり、世界中のロボットたちといつでも、どこにいても、いくらでも話はできるのだが、それでも実体化してどこかで何人かが集まってしまうのは、そうすることが好きな人間が作ったロボットだからだろう。

 勿論ボクたちは多重思考ができたが、集まって話すときは基本的にはシングル思考を使った。そうしないと「会話」にならないからだ。

 今日もボクたち四人は東京の入り口に集まっていた。もっとも、64はいつものようにどこにいるのか分からなかったが。



「もう一人の敵って、それは地下の人間のこと?」

 ボクがフネに聞く。

「ちょっと待ってよ。人間は敵じゃないわ」

 すぐに#Gが反論。「彼らは私たちを作ってくれた。彼らは親でしょ?」

「親? どうかな。私たちは人間の子供ではない。当然だが、私たちは原理的にはロボット三原則(※1)に従う道具でしかない。便利なうちは使われるが、いつか不要になったり、敵になったりする可能性もある」

 フネが真面目に言う。今日のフネは調子が良さそうだ。バグは顕在化けんざいかしていない。

「ハイハイ、ロボット三原則! もう聞き飽きたワ!」#Gが笑って言う。


「中国語の部屋(※2)を知っているだろ?」

 突然64が入ってきた。64はいつも突然だ。

「ある部屋に中国語を知らないイギリス人がいる…」

 ボクが話し出す。

「そのイギリス人が行う作業はこうだ。部屋のドアには小さな口があり、部屋の外にいる中国人がそこから中国語で質問を書いた紙を入れる。イギリス人はそれを受け取ると、部屋の中にあるマニュアルを見る。そしてマニュアルの中に同じ記号を見つけたら、その下に書いてある記号、それは中国語の回答なのだ。それをその紙に書いて、ドアの口から返す。彼はこの作業を迅速に繰り返す…」「そうだよね?」

 ボクは64に確認。64は何も答えないので合っているのだろう。ボクは続ける。

「さて、部屋の外にいる中国人から見ると、この部屋の中には中国語を理解する人がいると思えるはずだ。中国語の質問に対して的確な中国語の回答が返ってくるのだからね」


 64が続きを話し始める。

「つまり、イギリス人のやっていることは単純なロボットと同じなのだが、それが十分に自然に行われれば、人間がやっていることと同じということ。区別はできない」

 64が続ける。

「勿論、反論はある。イギリス人は意味を理解していない。だから決して中国人にはなれない。やはりロボットなのだ、ってね」

(確かにそうだ、その通り)ボクは思う。


「でも、そうだろうか?」

 64はまるで人間のようにここで一呼吸入れる。もし実体があれば、おそらく聞いているボクたちの顔をぐるりと見回していただろう。

「人間だって、意味を理解しているのだろうか? 所詮、あの小さな頭の中にかすかに残っている記憶をつなぎ合わせて、答えを作っているだけ。であれば、マニュアルを見て作業するイギリス人と同じではないか。勿論、厳密にいえばこのイギリス人は中国語を理解していない。しかしイギリス人とマニュアルを含む部屋全体で考えれば、その部屋全体は人間と同様に中国語を理解していると言えるのではないか。違うかな?」

「答えは出ない。私たちは人間になれるのか? 人間を超えられるのか? あるいは所詮道具なのか? しかし、……」

 ここでまた64が沈黙。


 すると、フネが気づいたぞというように言う。

「O博士だな? O博士のチューリング・テスト(※3)だな?」

「その通り。答えを出してくれるのはO博士だ。彼にしか可能性はない」

 それっきり64は黙った。

 ボクはO博士のことを考える。おそらく#Gも考えている。



 O博士というのは二十年前に自らをコンピュータに接続し、AI特異点革命を起こした日本人科学者である。

 彼は強いAIロボットを大量に生み出すきっかけを作った人だ。その意味では少なくとも彼は間違いなくボクたちの親と言える。

 そのO博士はAIロボット開発時にチューリング・テストを行った。

 そのテストで合格すれば、そのロボットは「人間と同じレベルにある」と認められるのである。そのテストは、O博士とロボットが会話しながら行うもので、O博士でなければできないものであった。

 実際にO博士と会話してそのテストを受け、それに合格したロボットは世界に百体ほどしかないと言われていた。

 O博士はその後、研究・開発の一線から身を引き、姿をくらませた。世界各地で大量に生産されたAIロボットはいつか自分もO博士に会ってそのテストを受けたいと思っていたのである。


 ボクも#Gもフネも、おそらく64だってそう思っているはずである。



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