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1 東京の入口で


 暮色蒼然(ぼしょくそうぜん)が近づく。


 いつものように「東京」の入り口で、「ボク」と「#G」は上空を一定の速度で移動する銀色の球体と、黄昏がその影に吸い込まれていく巨大な黒い穴を見ていた。

 鉄と土と樹木の割合はもう何年も変化していない。爬虫類と昆虫だけが増え続けている。


「これは?」ボクからのチャット通信を受け取った#Gがボクに聞く。

「詩だよ」

「ケンが書いたの?」

「そうさ。古い日本語を使った。まだ一部に瑕疵(かし)があるけどね」

「ブンガクね。私もやったわよ。ええっと……」

 #Gが何か言いかけたので、ボクは聞きたくないよというように#Gへの通信を表面遮断。#Gはくすぐったそうに笑った。


 すぐに#G側から強制再接続されたチャネルで、「カラビーヤウ空間の三次元モデルを組み立てるより難しいよ、日本語は」とボクは言ったが、同時に自己診断チャネルでは「キミにレベル3の何かを伝えるよりは簡単かな」と思い、すぐにその思考の記録を消去した。


 #Gは「花の色は、うつりにけりな……」と歌い出す。



 二〇三〇年、突然戦争が始まった。

 欧米ロシアや、中東・アジア国家間のそれではない。第一次宇宙大戦である。ある日、月が大きく移動して引力と潮汐力(ちょうせきりょく)が激変し、世界各地で急激な気候変動と大洪水が起きた。そして、自然災害が止んだ後、何と巨大な宇宙船だった月から爬虫類のような異星人が現れ、地表に降り立った。そこから彼らの人類に対する無差別攻撃が始まり、東西南北の人類の約七割が死滅した。しかしその後異星人は何故か共食いを始め、やがてその数を大きく減らし、再び月に帰って行った。そしてそれから四十年を経過した今でも彼らは一切現れず、何のコンタクトもない。


 その間、生き延びた人類は世界を復興させた。

 特に二〇四八年に欧州原子力機構(セルン)で発見された新しい素粒子による重力発電システムの開発がコンピュータを飛躍的に進化・発展させたのである。電磁気力は太陽光と重力があれば無制限に入手できるようになった。本当の機械元年、わずかな人類と大量に作られたロボットにより、新しい地球が胎動(たいどう)した。

 特に日本のO博士は自らを量子コンピュータに接続し、二〇五〇年、AI特異点革命を起こし、コンピュータの本質的な進化が始まった。


 しかし二〇五五年、第二次宇宙大戦が起きた。

 当初二十五年前の異星人が再び攻めてきたのかと思われたが、そうではなかった。相手は「月」ではない。その頃発見された三六〇〇年周期で地球や火星に接近してくる惑星ニビルのアヌンナキという異星人だという意見もあったが、詳細は不明。明確な宣戦布告もなく、これが戦争と呼べるかどうかも分からなかったが、復興し始めていた地球上の都市は再び破壊され、東京にも大きく深い穴が開いた。

 やがて、またしても敵の攻撃は突然止み、そうして明確な勝利も敗北もなく、大義も意味も不明なまま、ただ破壊しつくされただけで、再び不安定な安定が訪れる。

 ただし、我々が手に入れた安定は宇宙空間の手前、地表から約一万キロメートルまでの範囲での「自由」である。

 それより上の宇宙空間へのアクセスは禁じられた。誰がどのようにして禁じているのかはよく分からなかったが、ロケット等がその範囲を超えて上昇すると何故か必ず(単純な、あるいは複雑な)事故が起きたのである。つまり、その範囲内であれば、地球は平和だった。


 そうして二〇七〇年、日本の政治形態は不明瞭なままで、銀色に輝く月は四十年前よりも遥かに速い速度で地球を公転し、三十八万五千キロの上空から沈黙したままボクたちを睥睨(へいげい)している。



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