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第4話『戦火と雷玉(らいぎょく)』

風が、焦げた土の匂いを運んでいた。

 山の見張り台から狼煙が上がる。


 ――地侍・蔵田一族、接近。


「来たか……」


 蒼真は腰の袋を握りしめた。中には竹筒と和紙、火薬を詰めた自家製の爆薬――蒼真式雷玉がぎっしりと詰まっている。



「村の力で、迎え撃つぞ!」


 村の男たちが、蒼真の声に呼応して集まる。

 鍬を槍に、農具を防具に。粉引きの村は、今、砦となる。


―――


 陽が傾きかけた頃、敵は南の林を抜けて姿を現した。

 数はおよそ五十。槍兵と弓持ち、少数の騎馬。火縄銃も数丁見える。


 「蔵田様の兵だ!」「こっち来るぞ!」


 村人たちの顔に走る恐怖。しかし、蒼真は静かに頷く。


「合図通り。第一段、雷玉投擲」


 土塁の影から、数人が竹筒を投げる。火薬の導火線に火をつけ――空中で爆ぜる、鋭い破裂音!


 ドンッ!!


 「うわっ!」「耳が……!」


 敵の先頭がひるんだ瞬間、第二陣が火を放つ。乾燥した松脂付きの焙烙玉ほうろくだまが地面に炸裂。地面は火の海となり、隊列が分断される。


 蒼真は叫んだ。


「いま!突撃隊、右の林へ!」


 村の若者たちが、蒼真式雷玉を腰に下げて突っ込む。敵が混乱している隙を突き、投擲と接近を繰り返す。


 爆音がこだまし、煙と叫びが入り乱れる。


 ――雷玉の真価は、敵の“心理”を揺さぶることにある。命中精度や殺傷力以上に、爆音と閃光が“未知の恐怖”として戦場を支配する。


「お、鬼の村だ!」「何を投げてきやがる……!」


 敵は完全に戦意を喪失していた。

 そして、最終陣――蒼真が開発した巨大雷玉、**“大雷玉・焔鬼”**が放たれる。


 導火線に火をつけ、二人がかりで崖から転がす。


 ゴロゴロ……ドカァァンッ!!


 爆音と土煙。視界を奪われた敵の中心部は壊乱状態に陥る。


 「撤退だ!逃げろ!」


 その声を最後に、蔵田勢は総崩れとなった。


―――


 日が落ちたころ、静けさが戻る。


 焼けた竹の匂いと、冷たい夜風。

 土塁の上で、蒼真は深く息を吐いた。


「……誰一人、死ななかったか」


「おう。かすり傷だけだ」


 肩を並べた村人が、笑った。


 火薬。鉄。そして知恵。

 それらを結び、戦を防ぎ切ったのは、機械でも、通信でもなく――人の手と心だった。


 その夜。尾張から密使が訪れ、言った。


「織田信長公が申されておる。“蒼き雷の知者”を、ぜひ見たいと」


 蒼真は、焚き火の前で小さく笑った。


「次は……もっとでかい火を起こすか」


(つづく)


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