第11話『轍(わだち)の向こうへ』
信長の命により、蒼真は尾張の兵站基地に派遣されていた。戦は前線だけで起きるものではない。矢も、火薬も、食料も、兵も──運ばねばならぬ。
だが、蒼真の目に映ったのは、泥に沈む荷車、疲労で倒れる馬、肩に血豆を作りながら歩く従者たちの姿だった。
「この国の戦は、足から壊れておる」
蒼真はつぶやいた。人力と馬力に頼る運搬は、雨が降れば道がぬかるみ、荷車は進まず、兵站は止まる。いかに火薬を作っても、前線に届かねば無意味だ。
「ならば、道を創る。雷のように、まっすぐに」
蒼真が選んだのは──鉄道だった。
まずは、竹と木で試作した軽量レールを畑の隅に敷き、人力で押す荷台を走らせた。次に、蒸気鍋とピストンを用い、小型の蒸気アシスト式台車を試作。試走では、兵三人と米俵十俵を載せ、ゆるやかな坂道をすいすい登った。
「五人で引く荷車が、一人で押せる……!」
噂はすぐに信長の耳へ届いた。
「蒼真よ、これがあれば、雨でも雪でも補給が止まらぬというのか」
「はい。荷台の下に鉄の轍を通せば、道が潰れず、どこまでも物が運べます。前線に繋げば、野戦でも町でも物資の流れは切れませぬ」
信長は笑った。
「まるで、戦が走る町のようだな」
蒼真はうなずいた。
「いずれは、野戦でも鍛冶を行える“工房”を車に載せます。修理、製造、改良、すべて前線で」
“野戦工房”──蒼真が次に目指す移動式鍛冶場だ。
鍛冶炉、工具、薬品棚、火薬の簡易精製装置まで備えた車両は、戦のたびに兵器を修理し、矢を打ち、刀を研ぎ、雷玉を補充する移動基地となる。
「道が、町になり、町が、軍になる」
その構想に、信長は言った。
「お前は後方の軍神よ。城を落とすより、道を造る方が強いと証明してみせた」
やがて、尾張と美濃を結ぶ最初の「雷道」が完成した。木と鉄の混合レールに、蒸気で押される小型の荷台が走る。その横を、馬に乗った兵が追い抜こうとして──追いつけず、驚きの声を上げた。
荷運びの効率は従来の五倍。兵も馬も疲れず、補給は止まらない。信長軍の背後に雷のごとき轍が刻まれ、兵たちは言った。
「蒼真が通った跡には、鉄の道ができる」
そして、この雷道が、やがて“信長の天下布武”を支える背骨になることを、まだ誰も知らなかった。




