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第1節 第七話 ハツレン

「唯さん来ましたー。」


「お、きたきた。ナイスタイミングだね!ちょうど今、本が一冊光り始めたところなんだよ。」


「それ何の妖怪ですか?」


「今回は、ある意味センシャクよりも厄介な奴でね。ハツレンって妖怪だね。」


「えー…どんな風に厄介なんですか?」


「人に憑依するタイプなんだよー。」


唯の話によると、妖怪にはどうやら様々な種類が存在するらしい。センシャクのように直接妖怪自身が周囲に影響を与えることもあれば、今回のように人に憑依して間接的に影響を与えるものもいるようだ。


「ここに書いてる情報だと、ハツレンは子どもを不幸の事故で亡くした女性のために身寄りのない子どもに憑依して、その子どもの代わりになるっていう少し変わった妖怪みたい。」


「てことは、優しい妖怪なんですか?」


「ある意味そうなんだけど、、でもうちに情報をくれる情報筋に聞いたところ、この近くの孤児院の子が2日前くらいから行方不明になったるんだよ。おそらくこの妖怪に巻き込まれてるんだよね。放ってはおけないでしょ?」


緒方書店は様々な機関と繋がりがある。警察、市役所、大手企業など。世間では知る人ぞ知る祓い屋?みたいな扱いになっているらしい。


「場所はどこですか?」


「今日は、1人で行ける?」


「大丈夫です!シライシ様もいるので今日は1人でやってみます!」


「わかった。祓い方はね。ハツレンが執着している母親を納得させることだね。難しいけど、頑張ってね!私は別の妖怪を祓ってくるわ。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ねぇ、シライシ様。」


「なんだ?」


「自分の子どもを失った母親の気持ちってわかる?」


「難しいな、だが、実際自分が母親の立場だとすると、なかなか受け入れ難いことやもしれん。例えばお主が今、周りの大切な人間全てを失うとしたら耐えられるか?」


「…無理だね。」


「おそらくそのくらいの痛みだと思った方が良い。」


本の光の指す先に1組の親子が歩いていた。おそらくハツレンと、子どもを失った母親なのだろう。


「唯さんにいいものを借りたんだ。児童相談所の変装道具と身分証。これで、とりあえず母親と話をしてみる。」


「ふむ…もしもお主が説得に失敗したときは、私の霧でハツレンの正体を暴いて暗示を解くが良いか?」


シライシ様は様々な霧を扱える。そのなかに妖怪の術を解除する霧がある。前回マコマが苦戦したのはこの霧の影響もあったらしい。

実に便利な能力だ。


「わかった。そのときはお願い。」



「すみません!」


「?なんですか?」


「あの、私児童相談所のものでして少しそこでお話しを伺ってもよろしいですか?」


「今、買い物中なんですけど、」


「少しでいいんです!」


「…ねぇママ!!僕あそこで遊んでるからちょっと話して来てよ!」


意外なことに、ハツレンが化けているであろう子どもが公園を指差して、話し合いをするように促してくれた。


「そ、そう?なら少しだけ。」


そうして燈と母親は、公園の目の前のカフェに移動した。


「お話って何ですか?」


どう切り出すかを悩んだ末、言葉を絞り出す。


「突然すみません。最近お子さんの様子がおかしいとか感じたことありませんか?」

やば、聞き方間違ったかな。


「何をおっしゃりたいのですか?」


「えっと、最近お子さんは大怪我をするような事故に遭われたりしましたか?」


「ええ、でも奇跡的に一命を取り留めて、今もあそこで元気に遊んでるわ。」


「その事故はいつの出来事ですか?」


「3日前よ。」


「おかしいとは思いませんか?」


「何がでしょう?」


「3日前に大怪我をした子がもう元気に走り回ってるなんて、違和感がありませんか?」


「いいえ、なにも」

この瞬間母親の目から光が消えたように感じた。まるで何かに暗示をかけられているかのようだ。


「そうですか。わかりました。すみませんありがとうございました。」

燈は、ここは一度仕切り直すしかないと思い、母親との話を打ち切った。

だがそのとき、


「あー!もうじれったいのう!こうすればよかろうに!」

燈の首に巻きついていたシライシ様が暗示解呪の霧を母親の顔に吹きかけた。

次の瞬間


「あああああああああーーーあああぁあああ!、!、ー!」


母親は、おそらく子どもが亡くなる瞬間を思い出したのだろう。


「私のせいで!ごめんなさい!私のせいで!」

店内が騒然となる。


「す、すみません!一回外に出ましょう!」


慌てて母親を連れて外にでた。そこには子どもに化けているハツレンが待っていた。


「うぅぅぅ…」


母親が泣き止む気配はない。だが、そのとき


「ママは悪くないよ。」


ハツレンが子どもの姿で母親に話しかけた。


「なぜあなたにそんなことがわかるの!」

母親はハツレンを睨みつけながら話した。


「この子の記憶は僕に伝わるんだ。記憶がない子には化けられないから。だから分かるんだ。この子はママにこれ以上悲しんで欲しくないんだよ。」


「!!」


母親はそのまま10秒ほどハツレンと見つめ合って再び泣き始めた。しかし、今度の涙はどこか安堵の涙のように感じた。


「ママ、大好きだよ。だから幸せに生きて。お願い。」


ハツレンは抱きつきながら母親を慰めて、

こちらに目配せをした。


僕はハッとして、唯から預かったハツレンの本を開いた。するとハツレンの妖力と共に母親に抱きついていた子どもの姿も吸い込まれた。後には孤児院で行方不明になった子が幸せそうな顔で眠っていた。


--------------------


あの後、母親は立ち直り、そのまま子どもの墓参りへ向かった。どうやら子どもは2ヶ月前にすでに亡くなっていたらしい。ハツレンは自暴自棄になりそうな母親を見て、記憶ごと2ヶ月の暗示をかけたのだろう。


燈たちは、孤児院に子どもを預けて無事に仕事を終えた。


「シライシ様、妖怪にもいい奴が居るんだね。」


「その考えは危険だぞ。だが、このハツレンはあの母親に何かしら思い入れがあったのやもしれんな。」


「ほんとに妖怪の出会いって不思議なものだね。優しくて、悲しくて、時には危険が伴って。僕らだけでも、ハツレンだけでもあのお母さんは悲しみに暮れていただろうね。」


「私は役に立っているか?」

柄にもなく心配そうにシライシ様が聞いて来た。


「もちろん。」


燈はシライシ様の目を見て微笑んだ。


燈とシライシ様の妖怪事件は始まったばかりです。

近いうちに唯とマコマのほうも書きたいですね!

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