第3節 第十話 ケイフモドシ
「なんだろう。あれは」
とある休日。燈は空に浮かぶ巻物を見た。
巻物は風に揺られながら、天神祠の方へ飛んでいった。
「あれは?天神祠の方へ行ったみたいだけど。シライシ様も見た?」
白くて暖かいマフラーのように燈の首に巻き付いたシライシ様も空を見ていた。
「ふむ、あれは妖だな。燈の目にも入ったということはそろそろ…」
そう言うと目の前に妖怪の名が刻まれた本が赤い煙の中から現れた。緒方書店からの依頼だ。
「えーっと、ケイフモドシ?って書いてある。」
「聞いたことない名だな。得体が知れない。用心した方が良い。」
シライシ様が顔をしかめる。
「とりあえず追いかけてみよう!」
巻物の妖怪は、天神祠の三階堂美術館の壁をすり抜けて中に入っていった。
「ここの入場料…ちょっと高いんだよなぁ…
あとで緒方書店宛に領収書書いてもらおう。」
「そういうところは燈もしっかりしているな。」
シライシ様が少し、せこい奴めという風な目で燈を見た。
今は日本画の有名な画家の展覧会をしているらしい。絵巻物や和紙の作品が多く、今回の巻物の妖怪は作品に紛れてかなり見つけるのが大変そうだ。
「とりあえず、1階から順番に探して行こう。」
一階は屏風の作品が多く展示されていた。ガラスケースの中でほのかな光にライトアップされた、大きな作品がたくさん飾られている。
「ここでは無さそうだね。作品が大きすぎて紛れられない。」
「確かにそのようだな。2階は絵巻物の展示場所らしい。行ってみるか?」
シライシ様が尻尾で上の階を差した。
「行ってみよう。」
上の階に上がると50を越える絵巻物が展示されていた。燈は奥の方から微かに妖気を放つ絵巻物の気配を感じた。
「たぶん、あれだ。」
絵巻物に近づくと、ガラスケースの中から本来の巻物の姿で妖怪が燈の前に現れた。しかし、予想に反して大人しく燈の手の中に収まった。
「…以外と簡単だったね。とりあえず外に出ようか。」
2人は巻物を持って美術館の外に出た。巻物からはまだ微かに赤い妖気が漂っている。
「では、早速本に封じるぞ。」
シライシ様が封印を促す。
燈が本に封じるために巻物を本に近づける。
すると、次の瞬間突然巻物から大量情報が燈の頭の中に流し込まれる。
「うぁああああああああああー!!」
突然燈の妖力が暴走を始め、耐えられなくなった燈が倒れ込んだ。