七話 様子のおかしい友人
時刻は二十三時を過ぎていた。
僕と梨子は別れ、家に戻るととりあえず、達也と裕二に同じ文面でメッセージを送る。
そう言えば、最近仕事が忙しくてここ半年程、二人と連絡を取っていなかったな。
僕はベッドに寝転がると、何気なく裕二の配信チャンネルを検索する。もしかすると、鳥頭村に行った心霊動画配信の、アーカイブがあるんじゃないかと思った。
「なんだったっけ、ええっと……。確かゆうじぃチャンネルだったかな」
単語を入れると、直ぐに配信チャンネルがヒットし、裕二のおちゃらけた顔のアイコンが出て来た。登録人数ももう10万人を突破していて、結構人気なんだな。
投稿されている動画は主に心霊スポットの探索配信、後は、擦り倒された都市伝説の謎や、流行りのネタ、不思議な出来事を軽く紹介している。
マスコットらしきアニメキャラを交え、スタッフ件出演者の後輩の秋本さんと、感想を述べる程度だった。
それほどおどろおどろしい感じではなく、中高生から大人まで楽しめそうな、ポップで軽めなチャンネルになっている。
結論から言うと、最新の動画は梨子から聞いた、神隠しの家に行く一週間ほど前の物で、そこで更新が止まっていた。
僕はその動画を再生しつつ、コメント欄を覗いてみる。
『最新DM都市伝説! 赤い女から届く呪いの声?!』
内容は、某心霊スポットに行くと、DMに赤い女と名乗るアカウントから、文字化けしたメッセージが届く。そのアカウントを確認してみるが、表示エラーになり、赤い女のアカウントは、削除されたか存在していない事になっているらしい。
さらにその後、携帯から地を這うような呪いの声が聞こえる……という都市伝説だ。
裕二は動画内で、秋本さんと雑談しながら今度、検証してみると話していた。
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『色んな動画見てるけど、やっぱゆうじぃの心霊凸が一番怖い』
『次の配信まだーー?』
『もしや、赤い女の呪いか』
『最近ゆうじぃチャンネルばっかり見ています。この動画にも、赤い着物の女の影が……。この動画見て寝落ちしたら、金縛りになりました』
『つまんね オワコンだな』
『草 こいつの動画ヤラセばっかりだよ』
『裕二くん、私ずっと村で待ってるよ』
『ハロハロ、ゆうじぃさん! 都市伝説の動画、毎回楽しみにしています。実はA県にある都市伝説の情報をご存知ですか。妻が実際に体験しました。某SNSよりDMしてみました^_^』
『更新遅れてるみたいですが、気になさらず〜!』
他にも沢山コメントがついていたが、僕は『裕二くん、私ずっと村で待ってるよ』と言うコメントに目がいった。
彼の本名で、漢字まで当てている。
ファンが、情報を何処からか入手したと言えばそれまでだが、妙に気になった。
もしかして裕二が動画内で、本名の事を口にしたり、SNSで呟いた事があるのかとも思ったが、村で待っているとはどういう意味なんだろう?
僕は久々に使っていない某SNSのアカウントを開くと、数少ないフォローの欄を見る。
「もう、使い方も忘れたなぁ」
達也のアカウントを覗くと、梨子とのツーショットや大学のサークルの事、バイトの仲間との会話、飲み会の呟き、親の愚痴、就活、ゲームなど日常の事が頻繁に呟かれていた。
僕とは違い、達也は生活の中心がSNSなんだろう。
裕二も達也も様々なアカウントで呟いているのを見ると、SNSにはかなり依存性があるんだな。
僕は特に呟きたい事もないので、ほとんど活用していない、ゴーストアカウントになっている。
「あれ、鳥頭村に行ってからはSNSで呟いていないんだな」
達也の最後の呟きはこうだ。
『明日、心霊スポットに初凸する。あいつに配信者として、一緒にやらねぇかって誘われててさ。もうあのド田舎には帰りたくねぇし、普通に就職すんのもつまんないから、ガチめに考えてる』
辰子島から出て行く人間は皆そうだろう。便利で人間関係が希薄な都会で生活すると、田舎の不便さや、距離の近過ぎる人々の煩わしさが身に沁みて、戻れなくなるんだ。
ただ、同時に都会の喧騒とは無縁の静かな田舎が、恋しくなる事もあるが。
僕は、一番最後の呟きにリプライがついていたので、それを読んでみる。
「ん? なんだこれ?」
▼
『達也、繧ェ繝上Λ繝滓ァ倥r霑斐@縺ヲ繧 縺雁燕縺ョ縺帙>縺ァ蟶ー繧後↑縺霑斐○霑斐○霑斐せ!』
何が原因なのかは分からないが、文字化けをしているようで、本文は読み取れない。
最新の呟きに反応しているアカウント名は、AICHI♡。
「このアカウント、加藤さんかな?」
口元を隠しているが、その写真に映る面影は加藤さんに似ている。
僕は、彼女のアカウントだという確信が欲しくて、加藤さんのホームへと向かった。
加藤さんが好みそうな漫画やアニメ、ドラマの呟きに、友人とのお出掛けや、恋愛の悩みなど、ごく一般的な大学生の呟きに見えた。
遡っていくと、彼女は自称霊感少女らしい、オカルトっぽい内容も呟いているな。
こちらも、神隠しの家に行った日から更新が途絶えている。
「あ、梨子っぽい女の子が映ってる。加藤さんのアカウントで確定だ」
加藤さんは最後の呟きに、しつこく同じ内容の返信をしていた。
先程と同じく全ての文章は文字化けし、意味不明な言葉の羅列が並んでいる。
達也は、彼女の不気味な返信に反応している様子もなく、ただ放置しているようだ。僕はなんだか気味が悪くなって、携帯から手を離した。
次の瞬間ピコピコ、とメッセージ受信の通知音がして驚いたが、慌てて体を起こすと、それを確認した。
「吃驚した、裕二か」
返信者は裕二で、達也は既読にすらなっていない。
『雨宮、ひさしぶり。梨子から話を聞いたんだってな』
『うん。ついさっきまで会ってたんだ』
『お前、そう言えば霊感あるんだったよな。って事はお祓いも出来るんだろ? もっと早くお前に連絡すれば良かった。正直に言うと、俺はもう怖くてたまらないんだ。明日会えないか?』
『まぁ、お祓いは簡単な物なら。夜からなら、予定空いてるから良いよ。梨子も一緒だけどいいか?』
『もちろんいいよ。住所教えるから俺のマンションに来てくれよ。頼むから、来てくれよ。晩飯奢るし。見せたい物があるんだ』
いつもなら、ふざけた文面で返信して来る裕二が、やけに大人しい。
もしかして神隠しの家を撮影した動画に、何か映っているんだろうか。