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四話 鳥頭村②

『全国の皆さん、ハロハロ! どうも、ゆうじいチャンネルでっっす。今回はですねぇ、噂の廃村Uと御札の間があるっていう、噂の神隠しの家……通称、成竹さんの家を探してやって来ました!』


 裕二と加藤さんが廃村の入口付近に立つと、導入部分の撮影から始まった。もちろん、一般人の梨子が今まで、ロケ現場に遭遇した経験は無い。ある意味それが新鮮で、気が紛れたという。


『今日はぁ、俺の学生時代の友人であり、霊能者の愛ちゃん事、あいちーさんに来て貰いました〜〜! あとはですね、俺にDMを送ってくれた体験者のTくん……って、実はこいつ俺の友達なんだけど、今日はビビリ散らしながら来てくれました』


 三人は拍手をして、オープニングを纏めた。ここまでは、普通の動画配信の収録の流れのようだ。

 梨子の話によると加藤さんは、声優になりたくて、養成所に通っているらしく、霊能者の役も喜んで演じていた。

 裕二達は、成竹と表札が書かれた家を無視して、廃村の奥をライトで照らし、探索を始める。


『きゃっ!』


 梨子は、草むらから小動物が飛び出したのに驚いて、悲鳴を上げてしまったらしい。そして、加藤さんと裕二が同時に背後を振り向く。


『あいちー、なんか今、聞こえなかった? 女の子の悲鳴みたいなの』

『え? うん……。ここには若い女の人の霊がいるよ。それに、そう赤ちゃん……。赤ちゃんがいる。それから、この村の人達が置いていってしまったご先祖様の霊も、愛には視えるの』


 思い返すと裕二の問い掛けに、加藤さんはどこか地に足がつかない、ふわふわとした様子で、虚空を見ながら答えていたのが、不気味だったと梨子は言った。

 カメラが、断りも無くこちらへ向けられそうになって、彼女は秋本さんの方へと逃げる。

 裕二が彼女の声を『幽霊』として、わざとリスナーに誤認させるような事を言ってしまったお陰で、加藤さんがそれに乗ったんだと、梨子は確信してしまったらしい。

 梨子は、二人のやり取りを見て、これは完全にやらせなんだと考えたそうだ。


「そこでね、私急に冷静になっちゃってさ。本当は、この企画って、そもそも全部嘘なんじゃ無いかって思い始めたんだ」

「それは……村の噂とか、加藤さんの霊感とか全部?」


 梨子が頷くと、氷がカランと音を立てて崩れた。


「そういうの好きな人達って……有名な心霊スポットなら、廃村のどこらへんに廃墟があるとかって、もう既に知っていそうでしょ」

「まぁ、確かにそうだな。リスナーにとって、逆に白ける演出に感じられそうだ」

「うん。それに……有名なら、訪れた人達の痕跡が何かありそうでしょ? でも、そんなの全く無いし」

「唯一あるのは、障壁の落書きだけか」


 梨子は『鳥頭村』というのも、裕二と本田さんがそれらしい廃村を見つけ、勝手に名付けたんじゃ無いかと思ったらしい。あらかじめ昼間のうちに下見をしておいて、その時にスプレーで落書きをしたんじゃ無いかと疑った。

 僕も、落書きに関しては、彼らのやらせなのかもしれないと思ったのだが、僕に相談を持ち掛けていると言う事は、やらせでは無い何かが起こったんだろう。

 

『はい、一旦止めます! 天野さん、ごめんね。うちはモキュメンタリー要素も入れたいから、演出も入れるんだよ。その方がリスナーも喜ぶんだ。申し訳無いけど……さっきの悲鳴、加工して使わせて貰うね。もちろん、貴方だとはばれないようにするから』

『は、はぁ』


 本田さんの態度が高圧的に感じて、梨子は断りきれずに頷いた。なんというか、僕は業界を知らないが、こういう軽いやらせは沢山あるんだろうな。

 そこから、彼らは順番に廃村の中を見て回った。当然ながら、これといっておかしな場所は無く、森の方から虫の声が聞こえるだけだったようだ。

 ただ、霊感の無い彼女にも朽ちかけて斜めになった家や、崩れた縁側、無縁仏が集められていると思われる場所から、大勢の強い視線を感じていた。


『いやぁ、怖ぇぇ……! 俺、実はこっちの方まで来て無いんッスよ。人の気配ビンビン感じるわ』

『いや、ほんと皆、これガチだからね。俺も人の気配感じてっから! ほらもうこれ見てよ、絶対誰も住んでないの分かるし……おわ!!』


 達也は悪ノリというか、まるで芸能人にでもなったかのように、しきりにカメラに向かって演技をしていた。裕二は、リスナーを意識しながら画面越しに話すと、廃村の周囲を、自分の持っていたビデオカメラで映していた。

 すると、突然彼は何かに怯えるようにビクリと体を震わせる。


 ――――――プルルル、プルルル。


 古い電話の着信音がする。

 ボロボロになった干しっぱなしの洗濯物が夜風に揺れ、その隙間から、うっすらと月明かりに照らされる黒電話が見えた。

 照明が当たると、やはりその黒電話の方から、コール音が響いているのは間違い無かった。


『ええ、やだやだ怖い』

『嘘だろ、廃村だぞここ! やっべぇ!』

『これは……もしかして、ここにいる人達が、愛達に話したい事があるのかも。鳥頭村の霊達はかなり強いみたい』


 梨子はパニックになり、達也はポカンとしていた。そして、加藤さんが放った言葉が、その場にいる人達をさらに追い込んだようだ。


『やばいやばい、本田さん一旦止めません? マジでなんであれ鳴ってんの。電気なんて通ってないでしょ、こんなとこ』

『ゆうじぃくん、とりあえず電話取ってみて。もしかしたら、なんらかの要因で、まだ通電している可能性はあるよ。間違い電話かもしれないでしょ』


 裕二の切羽詰まった表情からして、梨子は仕込みでは無いと思ったらしい。彼は終始怯えた様子だったが、本田さんの冷静な声に配信者として覚悟を決めると、ビデオを回しながら、黒電話を掴んだ。


『もしもし』


 裕二の声は震えていた。

 暫く無言になって、突然短く悲鳴を上げると、受話器を乱暴に放り投げたという。


『な、何だよ! 何があったんだ……裕二』

『達也、やだもう私帰りたい!』

『分かんねぇ……。なんか童話の録音テープみたいなのが流れてた。んで、女の声で雨宮くん助けてって』

『なんそれ……。誰だよ、アマミヤって! ハハッ』


 突然、僕の名前が出て来たので目を見開いた。だけど、当然ながらそこにいる全員は、僕と同じ苗字だなんて連想しなかっだと思う。

 実際に僕とは関係無いだろうけど、あの夢といい、なんだか妙な偶然が重なり、気味が悪いな。


「ぼ、僕の苗字……偶然かな」

「あ、そうだね。でも私達は雨宮くんの事は頭に浮かばなくて、突然知らない名前が出て来たから、間違い電話だろうってなったの」

「梨子。電話線、繋がってた? どんな童謡が流れてたんだ?」



 かごめ かごめ 

 籠の中の鳥は

 いついつ出やる

 夜明けの晩に

 鶴と亀が滑った

 後ろの正面だあれ



「これって、かごめの歌だったよね? そう言っていた気がする。電話線については誰も確認しなかったよ。というか、怖くて確認できなかったから」

 

 まぁ、現象としては稀に聞く死者からの電話というやつか……これだけなら、本当に霊だったとしても、その場限りだと思う。


「梨子が、不安に思っている霊現象はそれか? それがその場限りなら」

「ううん、違う。それはなんか有耶無耶(うやむや)になって、無理矢理やばい女の悪戯電話か、間違い電話だって、流したよ」

「皆、怖かったんだろうな」

「そうだと思う。だけど、私達はそこで帰らなかった。あの噂の廃墟に向かってしまったんだから」


 梨子の顔が一段と暗くなった。

 この話を本当に僕が聞いても良いのか、と迷うくらいだ。

 彼女の姿は、お洒落で明るいカフェの中で、一人だけ影が濃い。梨子だけが、モノクロ写真のように色を失って視えた。


 

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