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二十六話 中山裕二④

「動画を観ても、俺にははっきりと顔が認識出来なかったけど、あそこに映っているのが、その芳恵さんだったってわけ?」

「それじゃあ、えっと……この呪具には芳恵さんの霊が宿っていて、自宅から盗もうとした、達也を呪い殺したの?」


 二人は矢継ぎ早に、質問してくる。

 段々と裕二と梨子の中で、点と線が繋がってきたんだろう。正確に言えば、この呪具にはあの赤い着物の女、芳恵さんの霊が、憑依しているわけじゃない。

 どちらかと言うと、この呪具を媒体として、祟りというか、呪詛を撒き散らしているように思う。加藤さんも達也も、あの辰子沼の魔物が纏っていた霊達のように、霊魂が彼女の手足となっているんじゃないだろうか?


「いや、僕の感覚で言えば、どちらかというと、これは祟りの触媒だと思います。あくまで芳恵さんの霊は、あの鳥頭村にいて、触媒を通じ移動してるような感じですよ。もしかして呪詛だけ、あの村から飛ばされているのかもしれないが。本田さん、これは僕の実家で預かります。本田さんも、今はこの呪具の影響がないようですが…………」

「うーん。でしたらもう一度、鳥頭村で撮影してからでも、良いですかね。ぜひ、雨宮さんと天野さんに来て欲しいんですよ。それが終われば、これは雨宮神社にお預け致しますから。それまでその……これを、霊能力でなんとか出来ませんかね? いや、私は良いんですよ、呪いなんて全く気にしていませんから。むしろ本当に呪われたら、霊や呪詛の存在の生き証人になれるんだから、嬉しい位です」


 本田さんは、僕の言葉を遮るようにして言った。一時は有名になった監督だからか、梨子が言っていたように、一方的で高圧的に感じる。ゆうじぃちゃんねるの企画に乗った人間が、二人も亡くなっているというのに、この人はどこか他人事のような口振りだ。

 内心僕は苛立ちを感じたが、隣にいるばぁちゃんに、視線を向ける。


『健。あんたなら、これを浄化する事が出来るよ。だけどねぇ……、呪詛や、祟りの大元を浄化しないと、直ぐにまた、この呪具に溜まっちまうんじゃないかと思うんだよ。それが返って、相手を怒らせるような結果になるかもしれない。それでも、浄化する効果はあると思うよ。この中に閉じ込められている家族は、解放されるんだから。やってみるかい?』


 僕は、幼い頃からばぁちゃんに、低級霊等を除霊、浄霊する方法を教えて貰ったけど、本格的に何かを浄化出来るかと問われると、自信はない。だけど、ばぁちゃんはそんな状態の僕にでも、出来ると言ってくれた。

 どちらにせよ、本田さんが僕に髑髏本尊を渡す気がないのなら、やるしかない。


「――――やってみます」


 僕の返事に、本田さんを始め周りの人が色めき立つ。不安はあるが、辰子島きっての、拝み屋だった守護霊のばぁちゃんがそう言うのなら、その言葉を信じようと思う。


『よーし。いきなり実践からバシバシ叩き込むよ。そんな情けない顔するんじゃないよ。ばぁちゃんが、力を貸してやるから』


 ばぁちゃんは、嬉しそうにバキバキと指を鳴らすと、満面の笑みで気合いを入れている。ほんと、この人は怖いものなしだなぁ。


『それじゃあ、健。髑髏本尊に両手を置きなさい。意識を集中させて、ばぁちゃんと一緒に龍神祝詞を唱えるんだよ。小学校の時から、あんたに龍神祝詞を叩き込んできたんだから、バッチリだね?』


 有無も言わせずだ。僕が、覚えていなかったら、ばぁちゃんはどうするつもりだったんだろう。


「うん。それじゃあ……始めるよ。高天原に坐し坐まして、天と地に御働を現し、給う龍王は……」


 髑髏本尊に両手を添えると、横からばぁちゃんが、同じように手を添えてくれた。龍神祝詞は、嫌になるほど教え込まれたので、口からスラスラと出てくる。

 僕は意識を集中させると、龍神様を脳内に思い描いた。祝詞は、天と地、そして龍神様との繋がりを強くさせてくれるものだ。

 祝詞を唱えていると、徐々に両手が熱くなり、小さな針で手のひらを刺されるような、鋭い痛みを感じて、歯を食いしばった。僕とばぁちゃんの指の隙間から、禍々しい黒煙が上がって焦ったが、構わず僕をリードするようにばぁちゃんが祝詞を上げる。

 自分の背中や腕に、薄荷(ハッカ)のような、スースーとした感覚が宿り、僕の霊気が膨張していくような感覚がした。

 そして、狭い事務所の天上一面に、白龍が現れると、パキッという鈍い音と共に邪気が弾け飛び、手のひらに感じていた、痛みが突然消え去った。


「た、健くんっ……やだ、呪物が」 

「おいっ……お、お前がやったのか?」


 僕は二人の声に驚き、両手で包みこんでいた呪具を見た。梵字が書かれた禍々しいそれは、僕が唱えた祝詞によって、真っ二つに割れてしまっているじゃないか。

 うちの神社の龍神様は、かなり強力で、気性が荒いと母さんから聞いていたけど、まさか浄化した勢いで壊してしまうなんて思わず、慌てて両手を離した。


「鈴木さん今のさ、カメラにバッチリ撮れてる? 撮れてるよね?」

「はい、撮れてます!」

「すげぇな、健。これ、壊れても大丈夫なのか? つーか壊れたんなら、もう俺達は、芳恵さんに呪われなくて済むんじゃね」


 本田さんを始めとして、女性スタッフの鈴木さん、そして裕二が興奮したように騒いでいた。確かに、この髑髏本尊からは先程まで感じていた、悍ましく禍々しい邪気は消えている。室内に充満していた重苦しい感覚も、今は綺麗さっぱり消えていた。僕は、それとなくばぁちゃんに視線を向け、お伺いを立てた。


『健は、ばぁちゃんが思うよりも霊力が強いねぇ。せいぜい、短期間だけ呪詛を取り除けるだけかと思っていたら、壊しちまうとは思いもしなかったよ。この髑髏本尊に関しては、しっかり浄化出来ている。もう、これを媒介にする事は出来ないだろう』


 霊に関しては、かなり厳しいばぁちゃんに褒められ、僕は内心安堵する。


「さっき浄化したから、この髑髏本尊……と言うらしいんだけど、これを介して、霊が来る事はもうないと思うよ」


 全員が胸を撫で下ろすのが分かった。


『――――ただねぇ。これで終わるとは思えないんだ。どちらにせよ、鳥頭村に行って、きちんと、浄霊はしなくちゃいけない。愛ちゃんの事もあるからねぇ。それに健は鳥頭村と縁が出来ちまったんだから、最後までやらないとね』


 ばぁちゃんは、釘を刺すように不吉な事を口にする。僕としては、呪具を浄化して芳恵さんと思われる、あの赤い着物の女が、三人に危害を加える事が出来なくなったら、それで良いのだけど、加藤さんの事はほっとけないな。

 僕と縁が出来てしまったのだから最後までやらなければいけないとは、一体どういう意味なんだろう。

 ばぁちゃんは、僕の質問に答えず、本田さんをじっと凝視したまま、それっきり口を閉ざした。     


 ✤✤✤


 梨子と、裕二のインタビューが終わると、僕達はKCソリューションの事務所を後にし、そのまま打ち合わせに入った裕二を残して、山手線の最寄り駅に向かう。

 それにしても、霊視をしに来た筈なのに、まさか、あの呪具の浄化までするハメになるとは思わなかった。

 本田さんから、ぜひ昼間にでも鳥頭村に向かい、あの村を霊視して解説、供養する最後の絵が欲しい、と出演依頼までされてしまうなんて。

 僕は、動画に出演するのはこれ以上勘弁してくれ、と一度は断ったものの、どちらにせよ、あの村にいるだろう加藤さんを探さなくてはいけない。達也だって僕に助けを求めているんだ。

 それに、僕が一人あの村に行って、万が一加藤さんのご遺体を発見したら、間違いなく警察に疑われる。

 それなら、撮影の名目で彼らが居てくれた方が、こちらとしては大いに助かるだろう。


「結局、裕二くんと本田さんに押し切られちゃったね」


 梨子は困ったように笑って、肩を竦める。もちろん、彼女も僕と同様、今回のゆうじぃのスペシャル特番の登場人物だ。ただ、裕二としてはそれだけじゃなくて、どんな形であれ、加藤さんを見つけたいという気持ちはあるようだが。それはきっと、ご家族も同じ思いだろう。


「本当だよ。裕二は、僕の霊視を期待して、連れて行きたいんだろうけどね」

「健くん、凄いね。本当にありがとう。でもやっぱりもう少し早く……健くんを頼っていたら、達也も助かっていたかもしれないなって、思っちゃうんだ」


 梨子はそう言うと、苦しそうに目を伏せた。

 昔から梨子は、責任感の強い子だった。達也を救えなかったのは、自分のせいだと責めているんだろう。

 僕は、そんな彼女に寄り添い抱き締めてあげたいという気持ちで一杯になったが、さすがにそれは出来なかった。いくら、モテない陰キャの僕でも、恋人を失った梨子の、弱った心の隙間に入り込むような真似はしたくはない。

 ここは、男友達として自然な距離間を保ちつつ、格好良く慰めたい。


「前にも言ったけど、梨子のせいじゃない。行った場所が悪かったんだ。触らぬ神に祟りなし、そういう場所は今でもあるんだろうね。達也は可哀想だけど、運が悪かったんだよ。だから梨子が気を病む必要はないと思う」

「慰めてくれてありがとう、健くん。もうこれからは、心霊スポットに近寄らないようにするよ。また誰かを失ったり、自分が死んじゃうのは嫌だから」

「うん。遊び半分で自分から、そういった場所に近付かないのが、一番安全なんだ。今回の事も、まだ安心は出来ない……って、僕の守護霊も言っているしね」

「守護霊?」


 満面の笑みを浮かべて、見守るばぁちゃんに、プレッシャーを感じる。


『そこで、抱き締めるんだよ! この間の恋愛ドラマに出てた、ほら『つま恋』の皆川純くんみたいに、格好良く』


 ばぁちゃんは、若手俳優の皆川純が好きらしい。梨子はきょとんと僕を見上げていたが、健くんがそう言うなら気を付けなくちゃ、と笑った。


「あ……そうだ。健くん、秋本さんにも連絡してあげた方が、良いんじゃない? そろそろ東京に戻りたいだろうし」


 梨子は、思い出したようにポンと手を叩く。そうだ、呪具が壊れた事で、秋本さんに絡みついていたあの影も、一先ず彼から離れているだろうと、母さんに電話を掛ける。


「もしもし、母さん。今忙しい?」

『もしもし、健? どうしたの。またお祓いのお願いかしら? 今日のご祈祷も終わったし、大丈夫よ』

「いや、とりあえず、こっちにある呪具の浄化が出来たから、秋本さんも東京に帰って来て、大丈夫だと思うんだ。母さん、秋本さんに変わってくれない?」

『秋本さん? あら、二三日前に健と話した後かしら。どうしてもリモートじゃ出来ない仕事があるからって、フェリーの最終便で帰っちゃったのよ。もちろん止めたんだけど、健にも、許可を貰ったからって言い張るから……。健、聞いてないの?』


 ――――なんだって?

 僕は、雨宮神社から出て良いという許可なんて、出していない。彼は、今日の撮影にあのKCソリューションの事務所に、来ていなかったじゃないか。

 

『嫌な予感がするねぇ』


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