《五章 後始末》
「くそ、今回の仕事は簡単だったはずなのに」
女は一室でつぶやいた。彼女は禁術に手を染めて、船で現れた悪魔を呼び出した張本人。依頼は簡単だった。シアーズ家の一人息子、インペルを殺し、一族を没落させること。彼や親族の汚名は全て根も葉もない噂で、禁術を指示していたのは恨みのある貴族からだった。多数の奴隷の命を使って悪魔を呼び出させる簡単な仕事。それだけ、それだけのはずだった。
だが、失敗した。悪魔とのつながりが勝手に切れた。悪魔は契約を必ず履行する。今回の事態は異常だった。
「くそ。くそが。なんで私がこんな目に」
今まで曲がりなりにも名の売れていた女は今回のミスを重く受け止めていた。一度依頼を受けた以上、失敗すれば貴族から命を狙われることだろう。まだ気づいていなかったが、こんな依頼を請け負わせた者を、貴族が生かしておくわけもなかったのだが。
「あ、そうだ、そうよ。そうすればいいんだわ」
そんな絶望の最中、女は一つのアイデアを思いついた。ミスを上書きするには、依頼人を消せば良い。女は自身の魂の一部を悪魔に捧げ、依頼人を殺そうとした。
「悪魔よ。私の魂と引き換えに────」
「引きどころが悪いのは感心しねぇな」
女はその言葉を聞いた後、悪魔と契約する間もなく命を失った。倒れた女の上に、仮面をつけた男がまたがっていた。男の名前は、アデル・リッパー。表ではなく、裏の世界で有名な殺人鬼である。大きな犯罪に手を染めた貴族や犯罪者を殺す、犯罪者専門の殺人鬼が彼だった。彼はとある人物からの依頼のみを引き受ける。今回の依頼は悪魔を呼び出したものと関係者の排除。その仕事は今終わった。
アデルは女の死体を眺めてつぶやく。
「雇い主が死んだってのに馬鹿なやつだ」
関係者全員もうこの世にいない。ここに来るまでにアデルは残りの仕事を既に済ませていた。
「チッ、今回のも外れか。どいつがあの……」
女の持ち物を物色した後、アデルはそう言って部屋から立ち去る。
────そして、謎の攻撃を受けた。大きな音とともに、ホテルの廊下の窓ガラスが割れ、何かが飛んできていた。すぐさま体をひねり、顔スレスレのところでそれを避ける。
しかし、一撃だけでは済まなかった。遠くから何度も聞こえてくる火薬の爆発音とともに、鉄の塊が飛来した。そのすべてを音と感覚だけで避けたかと思うと、窓の方向に手のひらを向けて魔法を発動させた。
「【炎の矢】」
全身全霊を込め、対象を狙う。殆ど勘の類だったが、それは正確に狙いを定めていた。建物の上から、鉄の筒のようなものを構えていた男の髪の毛にそれが掠った。
***
「あっぶね。死ぬ死ぬ。てか、なんで今避けられた?なぁ、”神威”」
男の隣にはもう一人、神威と呼ばれる人物がいた。もちろん肉体はある。
「私には分からないが、ここは私達がいた”世界”とは違うからな。そんな技術もあるんだろう。それよりも、ターゲットではないものを狙うな”紅城”」
神威は紅城に言った。紅城は未だに鉄の筒でアデルを狙っていたが、神威から頭に拳を喰らったため、それをやめた。
「人を殺したものは誰だって犯罪者だよ。いいじゃんこっちも掃除したって」
「紅城、それではこっちも犯罪者だ。私達が殺すのは、悪魔と契約したものだけだ」
鉄の塊から薬莢を排出させた紅城は、「はいはい」と適当な返事を神威に返し、銃を”空間”にしまった。
「でも、俺達は早く”カミ”を追わないと」
「やつは前と同じようにすぐには出てこない。チャンスを待とう。いつか必ずやつは出てくる」
「それまではあの人のところでこの町の治安を守りますか」
男たちの姿は、建物の屋上から消えた。
さて、紅城や神威とは一体誰なのか。
今回は宣伝ではなく、お知らせになります。二人の正体が知りたい方は下の作品を読んでいただけると嬉しいです。
[6000pv突破!!] IF:現代に生きる陰陽師は今日も都市伝説や怪異を祓うみたいです
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