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《五章 狂う茶会》

少し早いですが皆様、2025年もどうぞよろしくお願いいたします。


 階段を降りた先、やけに質の良い材質で作られた地下の奥へと向かっていると、ニコラスが俺に問いかけてきた。


「先程の男性、あれは元々兵士かな?」


「何でそんなことを?」


 ニコラスの言葉に疑問を抱いた俺はそう問い返す。


「少し、彼の魂について思うことがありましてね」


「……なるほどな」


 ニコラスは聖職者だ。これまで多くの人々を見てきたのだろう。その中にはきっと善人だけが含まれているわけじゃない。


 アデルについて巷で流れている噂は決して少なくない。いつの間にか部屋に入ってきていて、人を殺す猟奇殺人犯だとか、悪人を殺す掃除屋だとか、いろんなものがあるのを知っている。でもそれに共通しているのは、誰かを殺すということだ。多分それは事実だ。会った時の印象で俺も分かる。


 でも、あれは罪の意識に苛まれている男の姿だった。……多分、いや絶対に苦しんでいた。殺しを楽しんでやってる奴とは違う目をしていて、それが今はなくなっていて、少し和らいだんだと思う。


「でも、ただ単に悪いやつだって決めつけないでくれないか?」


 人を殺すのは教会の連中から見ればご法度なのかもしれないが、それでも俺は頼んだ。あいつは苦手だ。でも、信頼はしている。だから、そんなあいつに間違った印象は持ってほしくない。


「……あぁ、なるほど。いえいえ、私は何もそれを咎めているわけではありませんよ。むしろ、私は彼をいい人間だと思っていますし、雰囲気もとても丁寧です。それに彼の魂は綺麗ですから」


「なら、何が気になるんだ?」


 このニコラスは魂を見ることができる。それにより人の善悪を視覚的に捉えることができるため、裁判でも証拠として使うために呼ばれるほどの聖職者。それがアデルの魂をキレイだというのだから、あいつの本質は本当は善人なのだろう。


 ならば何がアデルについて思うことなのだろうか。気になった俺はニコラスに尋ねた。


「気になっているわけでもありません。ただ、彼の”聖女の救い”に興味を持っただけです。彼の魂に小さいながらも強力な結界ができていて、それに阻まれている黒いモヤが見えたものですから」


「聖女の救いと黒いモヤ、か」


 聖女の救いは十中八九ルナのものだろう。いつそんな結界を作ったのかは知らないが、あいつはアデルとなぜか親しいため、そこに疑問はあまり抱かない。むしろ俺が気になるのは黒いモヤの方。推測すると、それは多分アデルが殺した者、それも悪魔に関係していた者達の怨念と言ったところか。悪魔と契約するやつは大抵ろくでも無い。大方、死の間際に殺してやるとか、死んでも復讐を願ったとか、そんなところだろう。


「さて、そろそろ話を止めたほうが良さそうですね」


 ニコラスはそう言うと、腰にかけてある書物をすぐさま手に持ち、いきなり現れた目の前の存在に意識を集中させる。

 

「グル、グルル、グルルルゥ゙!!!」


 その存在は獣のような風貌であり、大きさはアデル達よりも一回りほど大きい。


「下級悪魔みたいだな」


 人語を解していない悪魔の様子に、そう呟いたルーグナー。そこまでの悪魔ではないと警戒を僅かながらに怠ったその一瞬、悪魔が体を大きく震わせた。


「いいや、そいつは違います!ルーグナー!!!離れてください!!今すぐに!!!」


 ニコラスはそんな悪魔の変化に気づき、すぐにルーグナーに異変を伝え、その場から離れるように叫ぶ。そしてそれに反応したルーグナーが後ろに下がると、さっきいた場所に何かの液体がかかっており、地面が溶けている。


「毒か。ニコラス、解毒はできそうか?」


 瞬時に液体の成分を見破ったルーグナー。悪魔が吐き出した毒の危険性は予想できたが、それへの対処法が存在するのか否かの質問に、ニコラスはこう答える。


「えぇ、見たところ問題はなさそうです。ですが、この毒は回るのが相当早い様子。これを食らった時に私から離れていたら間に合わないでしょうね。ところでルーグナー、武器は?」


「持ってきていない」


 これから戦いに行くというのに、何も武器を持っていないと発言したルーグナーに呆れた顔を少し見せたニコラス。


「魔法で戦っても、あの悪魔には効果は薄いですよ?」


 理由は詳しくわからないが、あの存在の魂は他に比べて強い。すなわち、そこらの悪魔とは違うはずなのだ。だというのに何故か言葉を介さない様子に違和感を感じながらも、自身の推論のもとでニコラスは話を続けた。


「それも使うが、お前の前ならもっといいのが使えるからな。【龍変化(ドラゴンチェンジ)】」


 俺の言葉と同時に背中から筋肉質の羽が生え、両腕と両足が龍のものに変化した。人間台の大きさだが、爪はより大きく、より硬く、より長く、より鋭く戦闘に特化したものに切り替わる。


 人前では使ってはいけないこの魔法だが、俺のことを昔から知っている人の前では使うことも選択肢に入れられる。もちろんリスクはあるが、悪魔に対して特攻もあるため、神聖魔法が使えない俺にとっては切り札でもある。ただ、このことをまだルナには伝えていない。もしもこれを知れば、ルナも()()みたいに……いや、そんな昔話をしている暇はないな。さっさとケリをつけよう。


「【龍────」


 攻撃に転じようとしたルーグナーは瞬時にそれを止めた。


「どうしましたか!」


 いきなり攻撃をやめたルーグナーに何かあったのかと心配したニコラス。


「いや、ここじゃ狭すぎて上手く戦えない。一旦逃げるぞ」


 整備された地下だとは言っても、広さは十分ではない。ここで戦いになって、万が一崩落でもしたら大変なことになる。そう考えるルーグナーはこの場からの撤退を呼びかける。


「分かりましたが、逃げるってどうやって!」


「俺の手をしっかり握っとけよ!」


 俺は自身の背中に生えた龍の羽に力を込め、その身を宙に浮かばせる。そしてそのままニコラスを掴むとその場をすぐに逃げてそのまま俺達は通ってきた通路を逆走。そして広い場所を探す。


 悪魔の方も追いかけてきてはいたがあまり速くなく、俺達は何かに使っていたであろう大きな空間で悪魔を待ち構え、そして迎え撃つ姿勢を整えた。


 扉の奥から少しずつ唸り声が迫ってきている。もうここに悪魔が来るだろう。


「作戦通りに頼むぞ?」


「もしも毒を食らったら、すぐにこちらにですからね」


 俺達のやり取りのあと、悪魔がドアを壊して中に入ってきた。そして、間を置かずにニコラスは魔法を行使する。


「【聖なる光(ホーリー・ライト)】」


 【聖なる光(ホーリー・ライト)】は人に対してであればさほどの効果もない、ただの目眩ましの神聖魔法。だが、悪魔にとって神聖魔法(それ)は絶大な力を持つ。まばゆい光に包まれた悪魔は全身が燃えるような痛みに襲われて意識が散漫する。


 ────そして、その隙を狙うものが一人いた。


「【龍星群(ドラゴスター)】」


 広い空間を活かし、空に待機していたルーグナーは頭上から悪魔めがけて魔法を放つ。【龍星群(ドラゴスター)】、至ってシンプルな龍魔法である。高出力の炎の玉を上空から複数放つ()()の技。似たようなことは龍魔法ではない属性魔法でも存在する。だが、他と決定的に違うことが一つある。


 それは、単に威力である。龍という種族は元来、精霊とともに生きてきた種族である。水の精霊、風の精霊、雷の精霊、炎の精霊、あらゆる現象に精霊は存在している。


 龍魔法は代々王家の血筋のみが発現してきた特殊な魔法。龍と人の血が混ざったことによって、龍としての姿を残すものが少なくなった現代の王家とは違い、古来の龍はこの龍魔法を持つものが主であった。その魔法の本質は龍と人の姿を好きに行き来し、そして自然の事象を司る。すなわち、他属性である炎や風、水などの魔法を間接的に使用できる特殊な魔法である。


 そして、その特殊な魔法と精霊との繋がりがもたらすのは、魔法の効果の底上げであった。魔法行使の際に精霊から力を借りることで、その効果を増加させる。そして、龍の持つ莫大な魔力を元にした魔法は他とは一線を画す性能を秘めていた。


 ────だがそれでも、その悪魔には一歩及ばなかった。


「【龍変化(これ)】でも厳しいか」


 細かになった悪魔が再生する姿を見て、ルーグナーはそう呟いた。


 こうなったら、後のために残しておきたかった()()を使うしかない。


「動きを止めてくれ」


 ルーグナーは使う予定のなかったものを使うための隙を作るように頼み、それを了承したニコラス。


「お安い御用です。【聖なる鎖(ホーリー・チェーン)】」


 ニコラスが行使した次の魔法は言葉の通り、鎖を作り出すもの。そしてそれは対象めがけて書物から飛び出し、それは悪魔の体を何十にも縛り付ける。それから逃れようと必死で体を動かす悪魔だったが、鎖はびくともしない。これで終わる────わけもなく、ただ相手の動きを一時的に封じるだけの魔法。この状態も長くは続かない。 


 上位の悪魔に対しても効果のある神聖魔法だが、鎖は少しずつ崩れ始めており、もって十秒といったところ。


 ルーグナーの持つ高火力の魔法を持ってしても再生する悪魔に対し、ルーグナーは服に手を伸ばして(おもむ)ろにとある物を取り出した。


 ────取り出したそれは、手のひらより少し大きな鉄の筒。持ちやすいようにグリップ部分があり、それを両手で握り、狙いを定める。


 そして、小さく呟いた後、標準を定めて引き金を引いた。


「【聖なる弾丸(ホーリー・バレット)】」


 放たれた一発の銀の弾丸は狙い通り悪魔に向けて線を描く。


「これで詰みだ。これには────」


 ルーグナーは神聖魔法を使えない。単に信仰心のあるだけでは神聖魔法というものは使えず、その中でも選ばれたものだけが行使できる特別な魔法。だが、悪魔の被害が決してゼロではない王都で、市民がそれを何もせずに眺めているわけではなく、科学という人類の知恵を持って簡単な神聖魔法を使えるようにしたのが、ルーグナーが以前ルナに渡したライターといったものだ。


 その開発はこの戦いの前にルーグナーが会った研究所のソフィアである。そして、この新兵器も同じようにソフィアによって発明、開発された神聖魔法を擬似的に使用できる()()。今までのものとは違い、ただ守るための道具ではなく、悪魔への反撃を目的に作られた物。


 その効果は────


「────”悪魔の魂の浄化作用”が含まれているからな」


 弾丸は正確に悪魔の体を捉え、魂にその魔法を届かせた。


 鎖に縛られている悪魔の体が一度大きく跳ね、そして小刻みに揺れ始める。叫び声やうめき声とも取れる不快な言葉を悪魔は口にする。


「──ッ”──」


 そして、言葉にならない声が口から漏れたかと思うと、悪魔の震えは収まり、その肉体は灰のように崩れ始めた。


「終わりましたね、ルーグナー」


「あぁ、そうだ────ッ!?」


 目の前で消えゆく悪魔を前に、瞬きをしたルーグナーが次に見た光景は理解不能であった。


 ルーグナーの目に映ったのは、まるで最初からその場にいたかのように当然と立っている黒と金の混ざった羽衣を持った悪魔。その手からは赤色の液体がこぼれ落ちている。他とは別格の存在感、今までに感じたことがないほどの圧を放つ悪魔に、明らかな異常事態だと認識しながらもすぐに動けなかったルーグナーとニコラスは一歩遅れを取る。


 一呼吸する間に、ニコラスとルーグナーは壁に殴り飛ばされていた。目で追えないほど、認知が追いつかないほどの速さで行われたその行動によって、二人は全身の骨がいくつも破壊される。そして、ルーグナーは腹を殴られたが、勘で龍化しており、重い一撃は入ったものの致命傷となることは避けた。ニコラスも長年の戦闘に裏付けされた戦闘の経験、それに従って脳が司令を下すよりも速く反射的に防御の魔法を発動させており、ある程度のダメージを緩和することに成功していた。


 だがそれでも今の一撃が危機的な状況を示唆しているのは言うまででないことであった。

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