《一章 茶会のお誘い》
告知(修正済み):クリスマスから1月3日まで不定期投稿を行います。(全7話)
ルナがルーグナーやインペル、アデル達と知り合ってから数年が経過していたある日。彼らは新たな戦いの渦中に巻き込まれるのだった。
***
「お姉さん!メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」
「メリー!!!クリスマス!」
小さい子どもたちに囲まれた私、ルナは今広場でお菓子を配っていた。今日は十二月二十五日、クリスマス。女神に一年の感謝をする日だ。
「はい、みんなメリークリスマス!このお菓子みんなで分けて食べてね!」
私はそう言うと、先日用意したお菓子を詰めたカバンから人数分を取り出して子どもたちに手渡す。そうするとみんな笑顔になった。
そんな子どもたちを微笑ましく眺めていると、お菓子をあげた少女の一人が私の手をまじまじと見つめてこう言った。
「お姉さん腕輪キレ〜!」
どうやら私が右腕につけていた金の腕輪に興味を持ったみたいだった。少女の言葉に、他の子供達も集まってきて、身動きが取れないほどだ。
「男の人からもらったの〜?」
「結婚してるの〜?」
子どもは純粋そうに気になったことをどんどん聞いてくるので、一人一人答えていたら申し訳ないけどきりがない。ここは切り上げるとしようかしら。朝早くからお菓子を作っていて少しつかれた。休憩したい。
「これはお姉さんの執────男友達からもらったものよ。それと結婚はしてないわ。けど、本来こんなことを女性に聞いちゃだめよ、坊や?」
「分かったぁ!」
私の言葉に子どもたちは元気よくいい返事をしてくれた。
私はアデルのことを一応執事だと思っている。あいつとは勘違いからいろいろなことがあったけど、別に人として嫌いなわけじゃない。むしろこんな私を守ってくれて感謝までしている。
それに、あいつ自身、最初の約束の執事ということに囚われているから、そろそろ友達って関係に変わりたいところね。それなら、前に橋で執事扱いしたのは失敗だったかしら?でも、う〜ん。
私、何か気分であいつの扱いが変わる気がするわ。
……私自身アデルのことをどう思っているのか正しく把握できてはいなさそう。またいつかちゃんと考えましょう。
こうしてルナはアデルについて考えるのを止め、子どもたちの方へ意識を戻した。
「ならよし!それと、みんなお菓子もらえたかな〜?」
「は〜〜〜い!!」
「じゃあ、お姉さんそろそろ休むからお開きするね。家まで気をつけて帰るんだよ?」
「「「は〜〜〜い!!ありがとう!ございました!」」」」
年相応の様子で感謝の言葉を伝えてくれる。子どもたちの笑顔を見ていると私も元気をもらえるため、むしろこっちが感謝したいほどだ。
今みたいなやり取りをもう朝から四回ほど続けていたら、準備しておいたお菓子はすべて空になってしまった。余るかと思っていたため、こうなるのは少し予想外ではあったものの、全部受け取ってもらえてよかった。
「お姉、さん」
お菓子を配り終わった私がベンチに腰掛けて一息ついていると、目の前に手を後ろに回しながら立っている小さな男の子が話しかけてきていた。
「どうしたの僕?」
私は少し体を前に乗り出して、目線を男の子に合わせて話す。
「両手、出してくれませんか?」
男の子がそう言った。一体何をするのだろうか?お菓子でもくれるのかしら。
「……?いいわよ」
疑問を抱きながらも手を差し出した私に、男の子は後ろに隠れていた手で手錠のようなものを私の腕につけてきた。
「何これ?」
偽物かと思ったが、結構重量がある。本物だろうか?いたずらにしては随分手が込んでいるものだと私が感心していると、急に男の子が謝ってきた。
どうしたのか聞いても、泣いていてよくわからない。自分からした行動なのに謝ってくる。大丈夫だよと声を掛けると、男の子はどこかに行ってしまった。ちょっとしたいたずらだろうし、そんなに謝らないでいいのに。そう思った私だったの背後から足音が近づいてきた。
「さてさて、お久しぶりですね」
その声に振り返ると、そこには黒いコートに身を包んだ黒ハットの、いかにも悪役って姿の男がそこにいた。
「あなたは────────誰だっけ?」
生憎のところ、こいつの顔に見覚えはない。人違いじゃないだろうか。
「誰かと勘違いしていらっしゃらない?私、人に恨まれるようなことは────」
「ルナ・カルディア。君で間違いないよ」
人違いじゃないかと聞こうとした私に、男はそう言った。私の名前を知っているということは本当にどこかで出会ったことがありそうだ。でも、思い出せないんだよなぁ。というか、さっきから一方的に話しかけてくるこの男、うざい。
「どこで私の名前を?それと、先にあなたが名乗ったらどうです?」
本当に誰だ?誰かに恨まれるようなことをした記憶はないのだが。
「それもそうだね。じゃあ名乗るとしよう。裏街の”ノックス”といえば分かるかな?昔は”ウロボロス”を仕切ってたんだけどね。一年前、君のせいで潰された組織の一員さ」
「ノックス?ウロボロス?」
言われてみれば、確かに聞いた覚えがある。確か……。
「あぁ!魔力薬とか偽って悪魔と勝手に契約をさせた奴らね。思い出したわ」
男の言葉ですべてを思い出した。こいつのとはアデルと初めて会ったときに色々あって、まぁ、うん、こいつの組織を壊滅させた。
これは、恨まれてるやつだな……
「いい子にだけサンタさんからプレゼントが来るけど、あなたはどうかしら?」
皮肉交じりの言葉を私はノックスにかけると、
「なら私は君をお願いしようかな」
こう言い返してきた。
気持ち悪い気持ち悪い。さっさと逃げたほうが良さそうだ。
危険を感じ、逃げようとしたらノックスに肩を掴まれて凄まじい力で席に戻される。私は女だけど、男と同じくらい、いや並大抵の男より力のある自信があるが、ノックスの力に押し負けた。そのことに何か、何か違和感がある。体格からそこまで力があるようには見えなかったんだけどねぇ?不思議だわ。
あと、ポケットに入れている神祝だが、指にはめなければ起動できない。そんな余裕はないので、実質使用不可のようだ。つまり、この状況を打開するのは厳しいらしい。
「まぁまぁ、座り給えよ。次の話をしようじゃないか」
圧がすごい。家を出るときにルーグナー達にここにいること言っておけばよかったな。今更ながら少し後悔している。
そうこうしていると、どこからか爆発音が何回も聞こえてきた。
結構近かったけど、どこかで実験でもしているのかしら。いや、たしかこの音は一度聞いたことがある。前にルーグナーが貸してくれた銃を使う際に火薬を爆発させていた。その時にこのような音が鳴っていた覚えがある。
でもあれはまだ未完成だったはず。まず第一、街中で使って良いものではない。
私が銃声らしき音を聞いて色々考えたが、ノックスが驚く様子はない。さっきのはノックスの関係者の仕業か。いや、今はこんなことを考えている余裕はない。まずはこの状況をなんとかしないと。
事態の改善のために私はノックスにこう質問をした。
「話し合いがしたいのなら、これ、外してもらえる?」
イマイチ効果がわからないが、この手錠は邪魔でしかない。
「それは無理な相談だ。その腕輪は特注品でね。君の力を封じる特殊な物なんだ」
だからさっきから魔法が使えないのか。何回か試そうとしたが不発に終わるため、不思議に思っていたが謎が解けた。この手錠のせいでせっかく使いこなしてきた”力”が使えないのはまずい。ろくな抵抗は出来なくなったと考えていいだろう。
「腕輪にしては随分ゴツいわね。これみたいに、もう少し女性に似合う可愛らしいのが良かったんだけど?」
私は右腕につけている腕輪に視線を向けながらそう呟く。
「次の機会の参考にさせてもらおう」
「そう、残念だわ」
まぁ、外してはくれないわよね。分かっていたことだからいいけど、見逃してもらえたら良かったのに。
「手錠、さしずめあんたが悪魔と契約して手に入れたやつかしら?さっきから禍々しい気配を感じるのよ」
それに、これが悪魔の力によるものだとすれば、私の力でも対抗できないということだ。これは本格的にまずい状況だわ。
「御名答。前回は君の力に…………正直、手も足も出なかったから対策はするさ。さて、お話はここまでにして、そろそろ場所を変えようか」
さて、今も逃げようとしているが、肩を掴む力が尋常ではないほど強く、逃げられそうにない。だが、このまま良い子ちゃんにしていても、良い結果にはならない。八方塞がりだ。
それにしても、さっきからアデルに救難信号を送っているのだが、一向に来る気配がない。もしかして、これ壊れてる?
ルナは手元の腕輪を弄りながらそう考えていた。
「ところで、その場所が紅茶の美味しい喫茶店だといいんだけど?」
「君次第ですかね」
抵抗しなければ手荒な真似はしないということか。だが、このままでは私の自由はないだろう。
「抵抗したら?」
「子どもが犠牲になるだけさ」
こいつ!?今回の作戦は抜かりないってわけか。私が組織潰したのは事実だけど、先に手を出してきたのは向こうなんだから逆恨みもいいとこだわ。
人質……ねぇ?ハッタリの可能性は大いにある。騒ぎを起こせば起こすほどリスクは上がるのだ。
「なら、早く行きましょう?」
だが、万が一本当だった場合、取り返しがつかない。それに、今ノックスの隙がないこの状況で抵抗してもメリットがない。
私は抵抗することを諦め、席を立つ。
「そうですね。でも、その前に一つ聞きたいことがあって。【質問いいかい?】」
こいつから聞きたいことがあるなんて珍しい。てっきり調べ尽くされているものだと思っていたのだが。
「いいわよ。何が聞きた────」
私がノックスに答えた瞬間、心臓が生暖かい何かに包まれた感じがして、意識がボーっとしてくる。これは悪魔の力?こいつ、この手錠以外にも用意していたのね。それもそうか。
正直足が使えるからなんとかなる気がしていたんだけれども、これはまずい。まともな思考が、でき、なくな────らない?
絶体絶命かに思われたが、ルナは悪魔の力をはねのけた。
ルナは外出時、とある物を必ず所持するようにしている。それは神祝と呼ばれ、神からの祝福を受けたそれは規格外の力を有している。神聖力に目覚めてからそれなりに経っている今のルナにとって、少しずつその性能を理解し使いこなしていた。
以前までとは違い、神祝への理解を深めたルナには悪魔からの干渉をはねのけるのは容易なことだったのだ。
「君の神聖力は封じていますから、悪魔の力は抵抗不可能です。一時的に意識は墜ち────」
力を封じる能力がルナに効いていないことなどつゆ知らず、ノックスはルナに背を向けながら一人語りをしていたが、まさにこの瞬間、ルナは拘束された状態で無理やり戦おうとしていた。
こいつの能力は質問に答えたら相手を洗脳状態にするとかかしら?なら、やっぱり人質がいる可能性は高い。でも、たとえ人質を取られていようが一撃で仕留めれば意味無し!さっさとこの手錠を解いてもらいましょうか!
気づかれないように音に最大限気をつけながら立ち上がり、ノックスの位置を確認した私は、手錠で梗塞されている手での攻撃は諦めて、足で戦うことにした。人質の救助を考慮し、威力は気絶する程度に抑えながらノックスの側頭部目がけて足を構える。
ルナは右足をノックスの側頭部に向けて正確に振りかぶっていた。そしてそのことをノックスは気づいていなかった。
────だが、ルナに一つ誤算があったとするならば、それは関係者の有無である。ノックスほどの用心深い男が、一度痛い目を合わされた相手に警戒しないわけがないのだ。
ルナが自身の攻撃がノックスに当たると、そう確信し、
「レディだからってナメてっから痛い目みんのよッ!!」
と言った次の瞬間、少し離れたところで爆発音がした。
また銃声!?!?
ルナがそう考えたときには、すでに事態は動いてしまっていた。とてつもない衝撃とともに、ノックスに当たる寸前まで迫っていた足から血しぶきが飛び、攻撃が外れる。
そして、銃声に気づいたノックスは振り返り、痛みに苦しんで倒れている私と目が合った。
「本当に末恐ろしい人ですね、君は。まさか悪魔力が効かないとは」
ノックスの言葉はルナに耳に届いてはいたが、そんなことを理解する余裕は今のルナにはなかった。父親との特訓の中である程度痛みには慣れていたルナにとっても、銃という科学の武器で受けた傷は初めてであったため、痛みに苦しむ。
だがそれでも諦めず、ただ目の前のノックスを倒すために動こうとしたルナのことをノックスは勢いよく何度も蹴った。
「たしかに!人質はいませんよ!だから!君に!抵抗されると厄介だ!!!それに、死んでもらっては!困るんですよッ!だから、大人しくしておけッ!!」
ノックスはそう叫びながら何度も蹴られてルナは地面にうつ伏せの状態になった。そのルナの目にはまだ闘志が宿っていることに気づいていなかった。
銃の痛みならまだしも、ただ蹴られて苦しむほどやわな女じゃないわよ?どこから銃で狙われているかはさっき食らったから分かる。そして今その死角、すなわちノックスの体の影に隠れているから狙撃はされない。今度こそ、こいつを倒す!
「喰らいやがれッ!!」
地面にうつ伏せになったまま、一瞬だけ顔を動かしてノックスの位置を確認すると、手錠をかけられた手で無理やり地面を押して体勢を整えると、そのまま蹴りを繰り出そうとした。
だが、ルナの予想とは裏腹に体に力が入らず、地面にもう一度倒れてしまう。
「どうです?まったく力が入りませんよね」
地面にうつ伏せになっているので顔は見えないが嫌味ったらしい顔をしているのだろうと簡単に予想できるような嘲笑う様子でそう言ってくるノックス。ムカつく。ムカつく。でも、どうしようもない。
「お前!!この手錠に、いやこの計画はどれだけ準備してるのよ!!」
私はノックスに大声で言う。この手錠、私の魔法を封じるだけでなく、抵抗する力を吸収する能力があるらしく、今は指一本すら動かせそうにない。
「フフフッ、それはそれは入念に準備をしておきましたよ。そのお陰で無事にあれが進みそうだ」
「……あれ?」
一体こいつ、何を企んでいやがる?
「まぁ、いつか話しますよ。いつか、ね」
ノックスはルナにそう言うと、ルナの顔を勢いよく蹴飛ばして意識を奪う。
意識が完全に沈む直前、心の中で呟いた。
(この腕輪、本当に使えるのよね?アデル)
そして意識が切れたルナは一切抵抗できずノックスに敗北したのだった。
【作者の独り言】
年末イベントってわけでもないですが、聞きたいことがあったらぜひ感想欄にどんどん書いていただけると作者が喜びながら返信します。
【ノックスについて】
作中で言及していた通りの人物です。表向きは冷静な人物を演じているが、本性は感情的になりやすく、すぐに手が出る。知能が高い策略家で、王都での悪魔の大量発生を目論んでいたが、ルナやルーグナーによって組織を事実上の壊滅に追い込まれたため、それ以降は復讐のために悪魔と契約。




