《五章 フィナーレは盛大に》
公演が終わり扉から出るとそこにはアルスさんが待っていた。無事に終わったのかを尋ねられて、解決したと伝えると、安心した表情を見せたあと、何度もお礼を言われた。
「少しお手洗いに行ってくる。入口の待機場所で待っていてくれ」
ルーグナーがそう言って私とは反対の廊下へ歩き始めた。
「それでしたらご案内いたします。お手数ですがルナ様、お待ちいただけますでしょうか?」
「えぇ、分かったわ」
私がそう言うと、アルスさんは一礼をしたあとルーグナーの方に歩いていった。
ルーグナーの足取りはどこかゆっくりとしていて、いつもと違う気もしたが、お手洗いが影響していると気まずいため、何も言わずその場をあとにした。
***
「なんという傷を、殿下」
アルスは椅子に座ったルーグナーの破れた服の隙間から見える傷を心配そうに見つめながら言った。
「殿下はつけるな。私はもうそれを捨てた」
ルーグナーはアルスの反応に面白くなさそうな顔をする。そしてルーグナーは自ら傷口に包帯を巻いた。
「私も悪魔を倒そうとはしたのですが、雇えたのはどれも三流ばかりでして。貴方様のお手を借りるという愚行の他に傷までつけてしまうとは、なんとお詫びをすればよいでしょうか」
深々と、深々と、頭を下げながら謝罪の言葉を口にするアルス。しかし、ルーグナーはまったく興味がない表情をしている。
「私自らがやると言ったのだ。お主には何の罪もない。それにお主には育ててもらった借りもある。こんなのではまだ足りないくらいにな」
「この件につきましては、必ず何かで埋め合わせをさせていただきます」
「好きにしろ」
ルーグナーはアルスの話をつまらなそうに聞いていた。
***
一人で席に座っていると、入口から一人の男が入ってきた。それなりに良い服装をしている。気になって見ていたからか、向こうと目があった。そうすると男はこちらに近づいてくる。
「座っていいか?」
男は私の目の前の席に目線を向けて座っていいかと訪ねてきた。特に断る理由もなかったので、「えぇ、どうぞ」と言うと、男は席に座った。
ガタイは良い。細身ながらも筋肉はある。というか間近に来て気付いたが、結構場数を踏んでいる者の雰囲気をどこか漂わせている。何者だ、こいつ。目的は?
「俺が誰だか気になってるみたいだな」
私は彼の言葉に席の肘掛けに手を置いてすぐさま立ち上がって動けるように構える。男とまた目があった。近くにいるので瞳がはっきりと見える。瞳の奥には、深淵が広がっていた。どす黒い何かを感じる。悪寒がする。まるで船の悪魔と対峙したときのような気配だ。
「俺はアデル・リッパー。好きに呼べ」
男の言葉と同時に、私は動き出した。私はその名前の意味を知らない。だがこいつがやばいことだけは分かった。
相手はまだ座っている。だというのに、私に悪意を持って接してきているのがなぜだか感じ取れる。カタギじゃない。男は逃げようとする私を見て、少し笑ってこう言った。
「長い付き合いになるぞ」
一瞬にして席を立ち距離を詰めたアデル。私は龍手を取り出す間もなく意識を失った。
***
あら、もうこんな時間だわ。ルーグナー達がそろそろ帰ってくる頃ね。
上を見上げると、夜空には満月が浮かんでいた。彼と話し込んでいてすっかり気づかなかった。
「”アデル”、悪いけどもうそろそろ家に帰るわ」
私がそう言うと、アデルは軽く空を見つめたあとに視線を私に向けた。
「承知いたしました。途中までお送りさせていただきます」
そう言うと、アデルは私の隣に移動する。
「あら、悪いわね。ありがとう」
「いえ、主様」
全部は語れなかったけど、昔のアデルがどんなやつだったかは思い出せた。いつも自分語りなのをして、記憶を整理するのよね、私。
そういえば、あの後はどうなったんだっけ?あんまり覚えてないや。いつかまた時間があるときに、語るとしよう。
こうして私達は夜の街並みへと姿を消していった。
ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。ちゃんとした小説を書いたのはこれで二作目です。まだまだ至らない点は多々あったと思うのですが、これからも精進して執筆活動に励みたいと思います。
投稿中の作品
[声よ、君に届け]
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[ IF:現代に生きる陰陽師は今日も都市伝説や怪異を祓うみたいです]
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