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7 モブを本気にさせたのは誰か

「ってことがあったんだよ」


 翌日、昨日のローズガーデンでの出来事をケイジに話すと彼は「なにそれ、もう告白じゃん……」と若干引いていた。


「はい? なんでそうなるの?」


 小首を傾げる僕に彼は肩をすくめて言う。


「次期王の証であるエクスセンスがほしいってことは、あなたが欲しい、あなたと結婚して自分が王様になりますってことだぞ?」


 ふーん、こいつって意外と乙女チックなんだな、と小馬鹿にしたような息を吐いた僕もケイジを真似して肩をすくめた。


「いやいや、何言ってんだよ。いくらなんでも深読みし過ぎだろ。僕はただ剣が欲しいって言っただけだぞ? やれやれ、大げさだなぁ、ケージは舞台劇の見過ぎだぜ、ふぅ」


「どうなっても知らんぞ」


 ケイジはランチプレートに盛られた鶏肉の香草焼きにフォークを突き刺す。


「はいはい、気を付けますよ。ところでケイジは剣武杖祭にシングルスで出場するんだろ?」


「平民の俺とバディを組みたい酔狂な貴族がいると思うか? ましてやダブルスは男女混合だぞ」


「ま、王女みたいに寛容な人じゃない限り貴族が僕らと絡むメリットはないからね」


「てめぇ……、喧嘩売ってるのか? 買うぞこら? そろそろあの時の決着を付けようぜ?」


「まあまあ、そう怒るなよ。同じ特待生のミネルヴァを誘ってみたら?」


 僕が提案すると「はあ? 冗談じゃねえ!」とケイジは語気を強めて吐き捨てる。


「あいつは色んな意味でイカれているからダメに決まっているだろ。ただでさえ関わり合いたくないのにバディなんて組んだら何されるか分からねえぞ。身体中を魔改造されて改造人間になっちまうかもしれねえだろうが」


「ひどい言われようだけど、まあ……そうだね。なんにせよ、僕としてはお前とやらずに済んでラッキーだよ」


 ケイジと戦うとなれば手加減はできない。

 戦いを好まない僕だけど、だからといって手を抜くのはケイジに対して失礼だし、なにより戦い始めたら負けたくない気持ちが勝ってしまう。

 それは相手がケイジだからだ。男には負けられない戦いがある。


 ケイジは友人であり好敵手ライバルだ。互いに切磋琢磨し実力は拮抗している。


 自慢ではないのだけど、いや、自慢になってしまうけど彼に出会うまで僕は同世代の中で自分が一番強いと思っていたし、実際に負け知らずだった。


 鍛冶師たる者、あらゆる武器を使いこなせなければならないが口癖の父から鍛冶師の修行の傍ら剣術の手ほどきを小さい頃から受けていた僕には剣の才があり、流派は忘れてしまったけど父が通っていたなんちゃら流の道場の師範からも一目置かれるほどだった。


 そんな父に鍛えられてめきめきと上達していった僕が父に初めて勝ったのは、九歳のときだったと記憶している。

 たった九つの子どもに負けた悔しさよりも、その剣才に恐怖すら覚えたとグラベール学園入学前に語っていた父は、今も僕に剣士ではなく鍛冶師になって自分の後を継いで欲しいみたいで、在学中は本気で戦うことを禁じられている。


 なぜなら武官の養成機関であるグラベール学園では、武芸に長けた卒業生が騎士団からスカウトを受ける例も少なくないからだ。


 しかしながら、グラベール学園は勇者を輩出した由緒正しき伝統校だ。ただ単に父が弱いだけで僕と同じレベルの生徒がわんさかいるかもしれない。

 それなら手を抜く必要はないと思っていた入学したばかりの頃、最初の実科の授業でクラスメイトたちのレベルの低さを知った。


 剣術教師すら父の足元に遠く及ばないレベルだったのだ。

 父が本当に強かったと知り、認識を改めた僕はなるべく目立たないように努めた。父の命令を守って剣や槍の実科の授業では適当に手を抜いていた。

 落第せず、騎士団から目を付けらない程度の成績を維持していた。


 そんなときに現れたのが、同じ特待生のケイジ=マクフェイルだった。

 彼の実力は本物だった。


 傍から見ていても明らかだった。あいつは僕と同格かそれ以上の力を持っている。


 僕が適当に手を抜く中で真剣に授業に取り組むケイジは、実技だけでなく筆記の成績も良かった。彼は教師から期待される一方で平民であるが故に目立つため、同級生からは疎まれ、上級生に目を付けられるようになり、次第に貴族との衝突が増えていった。

  

 身分に天と地ほど差がある上級貴族だろうと一切媚びず諂わず、周囲の眼を気にせず真っ直ぐに自分を磨き続けるケイジを羨ましく思い、嫉妬していること気付かされた僕は、父の言いつけを破って彼と本気で剣を交えたことが一度だけある。


 一年生だけで行われる模擬トーナメントの一回戦で僕は、それまで会話すらしたことなかった彼と対峙した。

 

 教師の「始め」の合図で互いの太刀が衝突した瞬間、周囲の雑音は消え去った。

 皮膚が裂けて血が流れ、骨が折れても僕らは互いに剣を止めることはなかった。

 

 負けたくなかった。負けられなかった。

 意地と意地がぶつかり合う僕らの間に他のクラスから駆け付けた教師たちが割って入っていなければ、どちらかが死んでいたかもしれない。

 教師たちは監督責任を避けるために僕らの怪我を治癒魔法で治し、生徒たちに口止めをして何もなかったことにした。

 僕らの戦いを目撃したのは一部の生徒たちだったため、噂が広がることはなかった。


 以来、僕らは一緒に過ごすようになった。元々、同じような境遇の特待生同士、つるむようになるのは必然だったのかもしれない。


 そんな訳で彼と試合するとなると手加減ができないのだ。


 さて、今日の放課後から王女との修行が始まる。

 そういえば、どうして王女は剣武杖祭で優勝したいのだろう?




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