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17 女魔導士を凌辱しようとしたのは誰か

 翌日、商業街区の入口交差点でニーナ部長を待つ僕の前に一台の馬車が止まった。

 降りて来た御者が観音開きの扉を開けると、スカートの裾を摘んだニーナ部長が現れた。

 今日は見慣れた制服姿ではなく、フリフリした如何にもお金持ちのお嬢様っぽい服装だ。それにいつもは長い髪を一つに束ねているだけなのに、今日はクルクル巻いている。

 

「どう? 見惚れちゃった?」そう言ってニーナ部長がはにかんだ。


「えっと、すごくカワイイです。なんて言うかすごくカワイイです。もう筆舌に尽くしがたいっていうか尽くしがたいです」


 とにかく思い付いた言葉で褒めちぎる僕に部長は、はぁと息を付く。


「無理に褒めなくてもいいから。あんたが武器にしか興味ないことくらい分かっているわよ。まったく、刀剣を評するときはあんなにいきいきしていて饒舌なのにね、このトウヘンボク」


「あはは……すみません、服とか髪型とかあまり詳しくないので。で、でもカワイイと思ったのは本当ですから」


「次からはカワイイじゃなくて綺麗って言いなさいよね」

 

 ふふんと鼻を鳴らしたニーナ部長が僕に向かってそっと手を伸ばしてきた。

 すんと澄まし顔で何かを待っているようだ。


「?」


 あ、エスコートね。

 紳士よろしく胸に手を当てて会釈してから、くるりと回転して肘を曲げる。


「さあ、行きましょう」と言うと彼女は僕の肘の内側に手を添えた。



 それから僕らはいくつかの商店を回り、レプリカを作るための材料を集めた。金属類は工房にあるから主に購入するのは剣を彩る装飾品だ。


 効率的に買い物できたおかげで予定より早く終わって、現在は部長のショッピングに付き合っている。

 僕の両手は部長が金にモノを言わせて購入した靴や帽子でいっぱいだ。


「悪いわね、個人的な買い物に付き合ってもらっちゃって。思っていたよりも時間が余ったから」


「いえいえ……、とんでもございません」


「それにしてもすごい手際がいいわね。どこに何が置いてあるか知ってるみたいだった」


「ま、まあ、事前に効率良く回れるルートを考えていましたから」


 聖剣の贋作が二本目だからとは口が裂けても言えない。


「ユウリって意外と真面目なのよね、剣のことに関しては」


「意外とは余計ですよ」


 ニーナ部長はくすりと笑って「お腹が減ったわね、昼食にしましょう」と飲食街区に向かって歩き出す。


「あ、え? そ、そうですねぇ……」


 ちょ、ちょっと待ってくれぃ。昼食のことは考えていなかった。財布にいくらあったかな? 

 午前中に終わらせる予定だったから持ち合わせが少ない、というか僕は貴族のお嬢様が入るような品のある高級店なんて知らないぞ。


「もちろんあたしが奢るから安心して。あ、あそこのテラス席がある喫茶店でいい?」


 部長が選んだのは町角にある庶民向けのカジュアルな喫茶店だった。


「はい、いいですよ」


 あのお店なら高級店みたいに堅苦しくないし礼儀作法も必要ない。きっと部長が僕に気を使ってくれたのだろう。




「ねぇ、シルヴィア王女のこと何か知らないの?」


 ウエイターに案内されたテラス席に付くなり、部長はそんなことを言い出した。


「なぜ僕に聞くんですか?」


「だってあんた、王女様と剣武杖祭に出た仲じゃない」


 気のせいだろうか、彼女の言い方にどこか棘がある。

 僕は肩をすくめてみせた。

 

「確かに一時的なバディーでしたけど、僕には何がなにやらさっぱりです。早く学校に出て来られるといいですよね」


「そうもいかないでしょうね。現在進行形で王位継承争いしていることは確実っぽいし、いつ命を狙われるか分からないんだもん。ヴァルツ公爵さえいなくなれば復学できるのにね」


「ちょ……ちょっと部長、発言には注意してください。誰が聞いているか分からないんですから」


「ねぇユウリ、大神官を殺した犯人は誰だろ思う?」


 王族批判もなんのそのと部長が言い放つ。ヒヤヒヤする僕のことなんて彼女はお構い無しだ。


「ゴシップ好きもほどほどにしといた方が身のためですよ」


「何言っているの、今や国中がその話題で持ち切りよ」


「……例の人に口封じで殺されたんじゃないんですか?」


「例の人って? 誰さ?」


「分かっているクセに聞き返さないでくださいよ。部長がさっき言った人です」


 言葉を濁す僕を見ながら彼女は楽しそうにくつくつと笑う。


「まあ、それが最有力だけどさ、件の大神官って色んな人から色々と怨みを買っていたらしーし」


「へー、そんな感じはしますけど」


「そんな感じ? 大神官に会ったことあるの?」


「いえいえ、会ったことなんてありませんよ。ただ僕たち鍛冶師組合の人間からも良く思われていませんでしたから」


「でしょうね。国民や自分の部下からも、さらに前勇者パーティからも嫌われていたみたいだしね」


「前勇者パーティに?」


「そう、勇者パーティがこの国を訪れたときの話なんだけど、試しの祠に入る際にイチャモン付けて、勇者の仲間の女魔導士を異端の罪で捕らえたんだってさ」


「それって……」


 僕は呆れて言葉を失った。


 王女を凌辱しようとしたやり方と一緒じゃないか。昔からそんなことばっかやってたんだな、アイツ……。


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