第八話 入学式
入学式当日になった。母は、体調があまり良くないので、代わりに祖母が来てくれることになった。
まだ祖父母に完全に慣れられていないから、逆に緊張する。しかも、祖母は和服だった。
スーツ姿の親たちが多い中、和服の祖母と一緒に歩いていると注目されたが、祖母は気にしている様子はなかった。私も、祖母の和服姿は、すごくかっこいいと思った。ちょっと誇らしい気持ちにさえなった。
クラス分けを確認すると、私は一年一組の教室に向かった。中にはすでに、半分くらいのクラスメイトがいた。机に名前が貼ってあったので、それに従って座った。と、後ろから突然声を掛けられた。
「ねえ。あなた、名前何て言うの?」
振り向いてその人を見た。日本人形っぽい子だった。声は少し高い。その人は、私に微笑むと、
「私はね、皆川悠花っていうの。仲良くしようね」
「え?」
「え? って何よー。やだな、もう」
そう言って、彼女は笑い出す。私は、ただ彼女をじっと見ていた。彼女はしばらく笑っていたが、ふいにそれをやめると、
「あれ? 名前聞いたっけ?」
「深谷野薫」
つい答えてしまった。彼女は笑顔で、
「薫ちゃんか。よろしくね」
いきなり名前で呼ばれた。が、やめさせるのも面倒くさいので、そのまま放っておくことにした。悠花は、その後も、自分がどこに住んでいて、中学はどこで、得意な科目はこれで、好きな芸能人はあの人で、と、話し続けた。私は、適当に相槌を打っていた。すると、悠花は、
「薫ちゃん。私の話、全然聞いてないでしょ」
「一応聞いてるよ。頭には全然残ってないけど」
「えー。それは残念。もういいや。今度は、薫ちゃんの話を聞かせてよ。薫ちゃんは、どこに住んでるの?」
悠花が質問してきた、ちょうどその時、五十代かと思われる女性が教室に入ってきた。たぶん、担任なのだろう。その人は、教室の端から端まで見てから、微笑み、
「担任の、丸石光江です。一年間、よろしくお願いします。みんな揃っているようなので、これから講堂に行きます。廊下に、名前の順に並んでください」
言われて、教室にいた生徒が移動し始めた。私も、それに倣った。私の後ろは、当然悠花だ。他の生徒が黙って整列しているのに、やたらに話しかけてきた。私は、振り返って彼女をにらむと、
「皆川さん。うるさい」
冷たい感じで言ってやった。彼女は、両手を組み合わせて私を見ると、
「薫ちゃん。かっこいいね」
何言ってるんだろう、と思ったが、何も言わずに前を向いた。悠花は、一応黙った。丸石先生が腕時計を見てから、隣のクラスの先生に頷いた後、私たちに向かって、
「さあ。じゃあ、行きますよ」
丸石先生が先頭に立って歩き出した。私たちもそれに従った。
講堂に入ると、式に参列している父兄から拍手が起こった。何となく、それだけで緊張する。席に着くと、最後のクラスが着席するまで、真面目に前方を見ていた。
それからしばらくして、式は始まった。