第六話 夕食
お茶を飲み終えて立ち上がると、祖母が、
「そのままでいいわよ」
「あ。はい。じゃあ、また部屋に行ってきます。なるべく片付けてしまいたいんで」
頭を軽く下げて食堂を出ると、部屋に向かった。「お邪魔します」と言ってから部屋の中に入ると、また段ボールから物を出して、の作業を開始した。
気が付くと、辺りが暗くなっていて、壁の時計を見ると五時を差していた。窓のカーテンを閉めようとして、外を何気なく見た。あの大きな木も、影絵のようになっていた。枝があっちにもこっちにも伸びていて、まるで何本もの腕を伸ばしている怪物か何かのように見えた。そう考えて、何だか怖くなって、カーテンを勢いよく閉めた。
部屋の電気を急いで点けると明るくなり、恐怖感が和らいだ。
「さ。片付けよう」
あえて声に出して言って、手を動かし始めた。
母が呼びに来たので、食堂に行った。お茶の時間のあの感じが、まだ残っている気がする。母は、祖父と目を合わせない。もちろん、いつも通りの真顔。祖父は、母の態度を気にしていないのか、私に微笑むと、
「片付けは、どう?」
「結構頑張りました。でも、まだまだ」
「そうか」
そう言って、笑った。私も、つられて笑った。そうしている内に祖母が料理を持ってきてくれた。
「薫ちゃん。ちょっと手伝って」
「はい」
一緒に料理を運んだ後、私と祖母も席に着いた。四人揃ったのを確認すると、祖父が手を合わせて、「頂きます」と言った。祖母と母も「頂きます」と手を合わせて復唱したので、私もそれに倣った。
そして、食堂は静まり返った空間になった。誰も口を開かない。こっそり三人の様子を窺ったが、黙々と食べているだけだった。何か言った方がいいだろうか、と思わなくもなかったが、やめた。これが、この家のルールかもしれない、と思ったからだ。私は、まだこの家に来たばかりなんだから、他の三人に合わせるのが筋だと思う。黙ってそのまま食事を続けた。
食事終了の挨拶は、特に一緒にしなかった。祖父が一番に食べ終わり、祖母に向かって、「ごちそうさま。おいしかったです」と声を掛けると、食堂を出て行った。祖母は、祖父に軽く頭を下げると、食事を再開した。母は、祖父の方は見ずに、マイペースに食べている。私は、食べ終わったが、どうしていいのかわからなかった。
困っているのを察したのだろうか。祖母が、私の方を見ると、
「薫ちゃん。食べ終わったら、流しに器を持って行ってくれる? 後でお祖母ちゃんが洗うから」
「いえ。自分で洗います」
「そう。じゃあ、お願いね」
祖母は、笑顔でそう言うと、また食べ始めた。私は洗い物を済ませてから、自分の部屋に戻った。そして、片付けの続きをし始めたが、すぐに手が止まった。
「静かだな、この家」
今までは、アパートに住んでいたので、ドアを開け閉めする音や、人の話し声が微かに聞こえたりしていた。が、ここにはそういったものがないのだと気が付いた。それはそうだ。両隣の家は、この家の敷地が広いだけに、だいぶ離れている。音が聞こえてくるわけがない。が、今までが人の気配を感じながら生活していたので、何だか違和感があった。
「慣れなきゃな」
小さく呟いた。