表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
洋館の記憶  作者: ヤン
5/29

第五話 緊迫感

 ドアをノックする音が聞こえて返事をしようとしたが、その前にドアが開かれた。母が、そこに立っていた。


「何?」


 私が訊くと、母は、相変わらず真顔のままで、


「おじいちゃん、帰って来たわよ」

「今行く」


 片付けの手を止めて、立ち上がった。母のそばへ行くと、「行こう」と声を掛けられた。私は頷き、先に歩き出した。さすがに、部屋から居間くらいなら迷わない。


 階段を急いで降りると、居間へ入った。祖父が振り返り、優しく微笑んだ。


「やあ、(かおる)ちゃん」

「おじいちゃん。お久しぶりです。これから、よろしくお願いします」


 私が挨拶を終えた時、母も居間に来た。祖父は、母のそばへ来て、肩を軽く叩いた。


「薫ちゃん。桐江(きりえ)。やっと一緒に暮らせるね。薫ちゃん。今日からは、ここが薫ちゃんの家だから、自由にしていいからね。桐江。おまえの好きなケーキ、買ってきたぞ。薫ちゃんの好みはわからなかったから、お店でおすすめを聞いて買ってきた」


 テーブルに置かれていた物を祖母に渡すと、祖母が台所に持って行った。少ししてお皿に乗せられたケーキと紅茶が運ばれてきた。


「これ、駅前の『アリス』っていう喫茶店のケーキなんだけど、すごくおいしくてね、私、大好きなの。特に、このフルーツケーキ」


 母が、久しぶりに笑顔を見せた。


「あなたのは、イチゴのタルト。それもおいしいわよ。さ。食べなさい」

「いただきます」


 手を合わせてから食べ始めた。甘すぎなくて、食べやすい。いくらでも食べられそうだ。


「ほんとだ。おいしいね、これ」

「そうでしょ。あそこのお店はね、何でもおいしいのよ」

「へえ、そうなんだ」


 感情を押さえて低く言ったが、本当はそのお店に行ってみたいと思っていた。他にどんな物があるのだろうか、と興味が湧いた。


 タルトを次から次へと口に運んでいると、祖父が私をじっと見て、言った。


「それにしても、びっくりしたよ。薫ちゃん、良子(よしこ)に似てきたね」


 祖父の言葉に、私は、「そうか、似ているのか」と思っただけだったが、母と祖母は、何も言わないものの、強い視線を祖父に向けていた。何か変だ。さっきまでと、ここの空気が変わった、と感じた。


 が、祖父はそのことに気が付かないのか、私に笑顔を向けると、


「薫ちゃんには、楽しい人生を送ってほしいな。良子は……」

「お父さん」


 母が祖父の言葉を遮るように、大きな声を出した。怒鳴ったせいで、顔が赤くなっている。唇が震えていて、さっきよりもさらに目つきが鋭くなっていた。


「薫は何も知らないんです」


 母の強い訴えに、祖父は溜息を吐いて、「わかったよ」と言って、それきり話をやめてしまった。


 この緊迫感は何だろう。


 疑問に思ったが、訊かない方がいいと思い、黙ったままでいた。お茶の時間が終わるまで、誰も口を聞かず、静寂に包まれていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ