表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
洋館の記憶  作者: ヤン
3/29

第三話 洋館

 祖父母の家は、モダンな洋風建築だ。庭も広く、いろんな木が生えている。今はまだ四月で寒いが、もっと暖かくなれば花もたくさん咲く。


 ここへ最後に来たのが十年前で、小学校に上がる前だったから、かなり前の記憶ではあるが、今もたぶんそうだろう。誰が管理をしているのだろう、とふと思ったが、考えても仕方ないか、と思考するのをすぐにやめた。


 門を開けて入り、玄関でベルを押すとドアが開けられた。あまり記憶にないが、祖母のようだ。


「寒かったでしょう。中に入りなさい」


 背筋の伸びた、しゃんとした女性だ。母とはあまり似ていない。祖母に言葉を掛けられ、母はお辞儀をしてから、


「ただいま、母さん」


 笑顔もなく言った。病気になってから、あまり笑わなくなった。心の病なんだから、それが当然なのかもしれないが。私も、母に倣ってお辞儀をした後、


「えっと、お邪魔します」


 ついそう言うと、祖母が私の肩を軽く叩き、


(かおる)ちゃん。今日からは、ここがあなたの家なんだから、『ただいま』でいいのよ」

「あ、そうか。ここが、家なんだっけ」


 今さらなことを口にした。まだ全然、実感が湧かない。が、「ただいま」と言い直してから上がった。廊下が長い。


 今までほとんど母と二人で暮らしていた。父のことは何も知らないに等しい。母も、父について語らない。離婚なのか死別なのかすら、私は知らない。いないものはいないんだから、訊いても意味がない。そう思って生きてきた。これからもたぶん、同じだろう。


 二人でのアパート暮らしに慣れていたので、この大きな洋風建築の家で暮らすのは、何だか不思議な気がする。


(これからどんな人生を送ることになるんだろう)


 期待と不安がない交ぜになっていた。


 廊下を少し歩いて左側の部屋に通された。玄関は寒かったが、ここはストーブの火が赤々と燃えていて、とても暖かい。体からようやく緊張が抜けて行った。


 中に入ると、母は、「父さんは?」と祖母に訊いた。祖母は、母を見ながら、


「今、駅前に行ってるの。もう少ししたら帰ると思うけど。『桐江(きりえ)が帰って来るんだから、買って来なきゃな』って、何だか嬉しそうに出かけて行ったわよ。それはともかく、さあ、そこに掛けなさい」


 祖母に言われた場所に座った。母も迷わず座った。きっと、昔自分が座っていた場所なんだろう。


 母と祖母はいろいろと話していたが、私は手持無沙汰であちこち見回していた。見れば見るほど、今までいた所とは違う、と思わされた。


 壁には、誰が描いたかわからないが、風景画が一枚掛けられている。下の方にサインが書かれているようだが、当然読めない。


 珍しいのは間違いないが、しばらくすると、そうやっているのも少し飽きてきて、


「おばあちゃん。私の部屋を見てみたいんだけど」


 思い切って声を掛けると、母が、


「あ、そうよね。じゃあ、ちょっと行ってくる」


 祖母に言うと、椅子から立ち上がり私を促した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ