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洋館の記憶  作者: ヤン
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第十九話 よっちゃんの声

 夕食の後、部屋に戻ってから、机に置いたままの文庫本を見た。やはり、年季の入った古本だ。中には、さっき見た通り、写真がはさまっている。ありえないことではあるが、これは現実に起きていることらしい。


 買ったばかりの本が古本に変わり、その中に写真が挟まれている。よっちゃんは、いったい何を伝えようとしているのだろう。


 写真を取り出し、じっと見る。よく見ると、後ろの方に学校名と入学おめでとう、の文字が書かれていた。入学式のクラス写真らしいとわかった。


 他に何か手がかりがないかと見ていると、ふと何か引っかかるものがあった。あの時の感情が沸き上がってきた。懐かしい、と思ったその気持ちだ。どこを見てそう思ったのだろう、と見返したが、わからなくなった。諦めて、ベッドに入ることにした。


 明け方、夢を見た。制服を着たよっちゃん。たぶん、写真を見たから、それが残っていたのだろう。よっちゃんの隣には、誰だか知らないが、男子生徒がいた。二人は仲良さそうに寄り添っている。でも、男の顔はぼやけていて、どんな人なのかわからない。よっちゃんは、彼を見つめながら、微笑みを浮べて何か言った。が、何を言ったのかは聞き取れなかった。その人の名前を呼んだのだろうか。それとも、好きだとか愛してるとか、そんな言葉だろうか。


 そこで、目が覚めた。よっちゃんは幸せそうだった。そして、どこか体が悪いという感じでもなかった。いったい、どうして彼女は死んでしまったのだろう。私は、つい声に出して言った。


「よっちゃん。わからない。ごめんね」


 その時、また例のように、机の文庫本が床に落ちた。挟まれていた写真が、本から飛び出した。それを見て、っていうことだろうか。私は、ベッドから下りて写真を拾った。そして、それを隅から隅まで何度も見た。


 男子生徒の所に目をやっていた時、声が頭の中に響いてきた。


(トシヤ……)


 切ない声だった。記憶にはないけれど、たぶんよっちゃんの声だろう。名前もはっきりと聞き取れたが、どこのトシヤさんだろう。ただ、呼び捨てにしていることを考えると、恋人だったのかもしれない、と思った。


(トシヤ……さん。どこかで聞いたような……)


 思い出せない。どうしたんだ。どこかで聞いているのに、何故わからないんだろう。


 仕方ないので、大きく伸びをしてから、窓を開けた。今日も風は冷たい。鳥の声。木々のさやぐ音。いつもの通りだ。頭の中は、まだぼんやりしていたが、学校へ行く準備を始めた。


 家を出る時、思いついて、写真をはさんだ文庫本をカバンに入れた。何の為かはわからない。ただ、そうしなければいけないような気にさせられたのだ。


「よっちゃん。行ってきます」


 どこへともなく挨拶をしてから、部屋を出て行った。

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