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洋館の記憶  作者: ヤン
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第十三話 よっちゃん

 喫茶店アリスを出て、あちこち見て回った後、家に帰った。荷物を置いてから庭に出ると、例の大きな木のそばへ行った。見えない何かの気配を感じて怖い思いをしたものの、私は何故かこの木を気に入っているのだ。


 私は木の前に立つと、「ただいま」と話し掛けた。そっと、自分の立つ反対側を覗き見る。何も気配は感じない。ほっと息をつくと、木に触れた。こうしていると、何となく安心する。


 しばらくそうしてからその場を離れようとした時だった。頭の中に、誰かの声が聞こえた。何を言ったのかはわからなかった。が、その声は、私をせつない気持ちにさせるようなものだった。


(今のは、何だったんだろう)


 心で呟いた。時々木の方に振り向きながら、玄関前に来た。祖母がそこに立っていたので、何気なく顔を見ると、何故か驚いたような表情をしていた。


「おばあちゃん。どうしたの? 顔色悪いけど」


 祖母は、私に声を掛けられて、急に意識を取り戻しでもしたように、私を見た。そして、首を振ると、


「何でもないのよ」

「そうかな」


 いつもならそこでやめるのに、今日はそうしなかった。


「あの木を見てたの?」


 はっとしたようになる祖母を見て、あの木には何かあるのではないか、と思わされた。


「おばあちゃん。あの木、何かあるの?」

「ないわよ。(かおる)ちゃんたら、変なこと言うわね」


 祖母が、無理矢理のように微笑む。やはり何かある。そう思ったが、言わなかった。


「ないならいいんだ」


 私は、部屋に戻った。部屋着に着替えてから、ベッドに横たわった。そして、変だった桜内(さくらうち)先生や祖母のことを考えていた。その内、何故か睡魔が襲ってきて、眠ってしまった。


 夢の中で、私は小さな子供だった。たぶん、幼稚園に行っている頃だろう。そして、私の正面にいるのは、たぶんよっちゃんだ。今の私に似てるな、と思った。そう言えば、祖父もそう言っていた。


 よっちゃんは、私に何かを見せながら、楽しそうに何か言っている。


「これが私の……」


 そこだけ、微かに聞こえた。小さい私は、それに対して、「へー」と言っているが、あまりよくわかっていないみたいだ。


 よっちゃんは、私に微笑み、私の頭を撫でた。何か言っているが、それは聞こえない。


 目が覚めて、今の夢は何だったんだろう、と思った。あれは、生きているよっちゃんに会った最後の日だろうか。十年も前だから、よく覚えていない。


 よっちゃんは、私に何か言いたいのだろうか。とすると、あの木のそばで感じたのは、よっちゃんの気配だったのだろうか。引っ越してきた日の夜中、誰かの音を聞いた、あれもよっちゃんだろうか。


 そう考えれば、確かに辻褄が合うように思う。が、どうして私にアピールしてくるのだろう。祖父母や母ではなく、私。その意味は何だろう。


 考えてもわからず、大きな溜息をついてしまった。

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