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憐れな第一王子

 貴族御用達の遊館で生まれた子供の中には、様々な事情で貴族の家に引き取られていく子供がいる。

故に妊娠しても遊女は館を追い出される事なく出産にまで至る者もいた。

 アイリーンはそんな風に遊館で生まれた子供であった。生まれた時から将来この子はとんでもない美人に育つだろうと期待された彼女は、周囲の期待通りの美姫に育った。

 自国の貴族だけでなく、時には隣国からも高位の貴族がお忍びで訪れる事がある程の高級遊館では、貴族顔負けの礼儀作法から歌や踊り、他国の言葉まで習得して外国の顧客を得る遊女すらいる。

 アイリーンは美しさだけでなく、知性や気品、教養も兼ね備えていた。第一王子であるエリックは生まれた時から王族に仕える高位貴族に囲まれて育った。その彼から見ても貴族の令嬢達と遜色ない、寧ろアイリーンの方が洗練されているかのようにすら思えた。

所作の美しさは凛とした百合のようでありながら、頬を薔薇色に染めながらエリックに微笑むアイリーンはおとぎ話に出て来る花の妖精のように可憐であった。

 エリックはアイリーンに恋をした。彼女に感じたのは、これまで王宮で接して来たどの令嬢にも感じた事のないような愛おしさであった。

 だが、幾ら貴族並みの教育を受けていると言っても、彼女は平民、その中でも遊女という平民の中でも更に低く扱われる者であり、自分は王族であった。身分の差は天と地ほどの差がある。側仕えとして召し上げようにも、遊女のような者を第一王子の傍に置くなど、国王や王妃が許すはずがない。

 一体どうすれば彼女を傍に置く事が出来るだろうかと、悩んでも答えが出ないエリックが叔父であるシリウスに悩みを打ち明けると、彼はエリックの話を聞いてアイリーンについて調べてくれた。

 その結果、アイリーンはカルス男爵と遊女の間に出来た子であり、貴族の血を引いている事が分かった。

 男爵は下位ではあるが、貴族には違いなかった。平民では結ばれるのが絶望的であったが、貴族の血を引いているのであればまだ望みがある。

 エリックが望むがまま、叔父のシリウスはカルス男爵に連絡を取り、アイリーンを引き取る為の資金まで準備してくれた。

 カルス男爵に引き取られたアイリーンは男爵家の令嬢になったが、それだけでは弱いと叔父がカルロ男爵家の後ろ盾になってくれた事で、アイリーンは遊女から男爵令嬢、そしてエリックの恋人となり、子を宿した。

 正式な婚約前に子を授かってしまったのは些か早急過ぎたかと思ったものの、両親は結婚後も長らく子供が出来ずに辛い目に遭っていたと叔父に言われ、その苦痛をアイリーンが味わう事なく済んで良かったじゃないかと言われてみれば、確かにその通りであった。

 エリックはアイリーンと直ぐにでも結婚してしまいたかったが、両親である国王陛下と王妃は揃って、それだけはならないと頑として認めてくれなかった。それどころか、エリックは国王陛下の命令で捕らえられ、罪人として牢に入れられる事になってしまい、アイリーンとも叔父のエリックとも一切の接触を禁ずると、二人と会えなくなってしまった。

 何故、第一王子である自分が牢に入られる事となってしまったのか、何故アイリーンや叔父と会ってはならないのか、エリックには分からなかった。

 ただ、早くアイリーンと結婚しなければ、彼女から生まれる子供は庶子となってしまう。アイリーンが宿しているのは第一王子である自分の子供に違いないのだから、一刻も早く結婚して正式な王族の子供として大事に扱われなければならないはずなのに、何故、父上と母上は、アイリーンと自分を結婚させてくれないのだろう。

エリックはその意味を理解出来ず、ただ茫然と牢の中で助けを求めるように、叔父の名を呼んだ。


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