王子の勝手な婚約破棄など上手く行きません
結婚してから中々子宝に恵まれなかった国王夫妻は第一王子エリックを甘やかしてはいたが、彼の行いを全て容認していた訳ではなかった。
婚約者でもない令嬢に手を出したと発覚した際には彼を諫め、今更ではあるが再教育を施そうと厳しい態度を取り、謹慎を言い付け第一王子を部屋から出さないよう命令を下したのだったが、国王夫妻は多忙であり、常にエリックを見張っている訳にはいかなかった。
そんな時に、王弟であるシリウス殿下が第一王子エリックの部屋を訪れ、兄上である国王陛下から頼まれたのだと言われてしまえば、見張りに付いていた兵士は王弟殿下を部屋に入れるしかなく、もう十分に反省したようだからと王弟であるシリウスが第一王子エリックを連れて部屋を出て行ってしまっても、第一王子を部屋から出してはならないという国王陛下の命に背いていようとも、王弟殿下がそう言うのであればと、二人が部屋から出て行くのを止める事が出来なかった。
第一王子が傍若無人な色狂いと囁かれ、国王夫妻からも叱咤されるようになってからも、王弟殿下シリウスは第一王子エリックの味方であった。
王弟シリウスと国王は歳が離れており、国王として多忙を極め、普段中々接する事が出来ない国王や王妃よりも頻繁に自分に会いに来て話を聞いてくれ、どんな時にも優しい叔父のシリウスの事がエリックは大好きだった。
「叔父上が本当の父上であったら良かったのに」
「それは嬉しいね。息子のいない私もエリックの事は本当の息子のように思っているよ。けどね、もしエリックが本当に私の息子であったなら、君は第一王子にはなれないんだよ」
「第一王子になど、なりたくてなった訳ではありません!」
エリックは生まれた時から第一王子だった。それ以外の何者にもなった事がない。次期国王として全ての事は国王や王妃に決められていた。
婚約者ですら、国王である父親によって公爵令嬢のレベッカに勝手に決められており、エリックは自身の婚約者についての不満も幼い頃から叔父であるシリウスには話していた。
エリックは第一王子として生まれてからずっと国王になるべく決められた事ばかりで不満が溜まっていたのだった。
「結婚相手ぐらい、自分で決めたいのです」
そう言うエリックに、優しい叔父は目を細めて囁いた。
「そうだね。君は生まれた時から王になると決められていた。婚約者もそうだ。全て国王陛下がお決めになった事ばかりでは窮屈だろう。偶には息抜きも必要だ。大丈夫、少しぐらい決められた事を守らなくたって、大目に見て貰えるよ。何故なら陛下は君の事をとても愛している。愛する我が子を見捨てる親なんているはずがない。優しい国王陛下と王妃殿下なら、きっと君を許してくれるさ」
叔父にそう言われると、エリックは勇気付けられたが、これまで誰かに決められた事しかやってこなかったエリックには、いきなり好きな相手を自分で選んでも良いと言われてもどうすれば良いのか分からなかったが、それについても叔父が手助けしてくれた。
周囲からは婚約者がいながら貴族の令嬢に手あたり次第に手を出している色狂いに見えていたが、エリックは叔父のシリウスが薦める相手にしか手を出していなかった。
そして、第一王子の側近に貴族御用達の遊館を教えたのも王弟シリウスであった。そこで出会った遊女に本気で惚れ込んだエリックが相談を持ち掛けたのも、当然の如く自分の話をいつも親身に聞いてくれる王弟である叔父のシリウスであった。
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