僕の彼女は 世界一可愛くて 宇宙一巨大(0417)
今日は巨微ちゃんと三回目のデートだ。
待ち合わせは駅前の噴水。
ウキウキしながら僕がそこへ向かって歩いていると、駅ビルの上から彼女が、腰から上を覗かせて手を振っているのが見えた。
彼女の頭が太陽を隠し、まるで後光射す観音様みたいだ。
「ひろみちゃーん!」
その巨大なかわいい顔を遥か遠くに見つめながら、僕は駆け寄った。
空を突き抜けるようなその笑顔が、僕が近づくにつれ、どんどんとかわいく、小さくなっていく。
「催くん、あたしも今来たとこ。タイミング合うね!」
僕が噴水のところに辿り着くと、彼女は僕よりも小さくなって、今日一番かわいく笑ってくれた。
ほんとうはどれぐらい前から待ってくれていたのかわからない。僕だって15分前なのに。
よっぽど今日のデートを楽しみにしてくれてたんだなと思うと、嬉しくなった。
僕の彼女の巨微ちゃんは、ちっちゃくてかわいい女の子だ。
でも、遠くにいると宇宙一巨大な女の子になる。こんなに巨大な生物は、宇宙広しといえど、他にはいない。
ちっちゃい彼女も巨大な彼女も僕は世界一大好きだ。
付き合い初めて2ヶ月目。今が一番彼女を愛してるのかな? そんなことないと思いたい。
これから僕のこの気持ちも、どんどんどんどん巨きくなっていくんだ。遠くに仰ぎ見る時の彼女のように。
山の上の遊園地は家族連れやカップルで賑わっていた。
カップル……僕らもそのうちのひとつなんだ。
ふふふ……。そのうち僕らの間に、ちっこいのが出来て、僕らも、家族連れに……
「あっ。乗り物券、買ってきてあげるね」
妄想中の僕から手を離し、そう言ってひろみちゃんが駆け出した。
いい娘だ。いい母親にもなることだろう。
運動するとすぐに息が切れる、心臓の弱い僕を気遣って、離れたところにある券売所まで走ってくれるなんて。
走る。ひろみちゃんが、離れていく。
ぐんぐん、ぐんぐん──離れるほどに巨大になっていく。
僕の周りの人たちがざわめいた。山を隠すほどの大きさになったひろみちゃんを指さして、口々に勝手なことを言ってる。
僕の彼女はバケモノじゃないぞ!
でも人の口に戸は立てられなくて、僕は何も出来ずに、しょんぼりするしかなかった。
山より巨きなひろみちゃんが背伸びをした。券売所の窓が高くて、そうしないと背が届かなかったのだろう。
雲みたいに壮大な回数券をヒラヒラなびかせながら、こっちへ帰ってくるにつれて小さくなる。遠くの人から見たら逆にぐんぐん大きくなってるので、遠くの人たちが今度はざわめきはじめた。
ジェットコースターに並んで乗った。
下から眺める人たちからは、ジェットコースターよりも巨きなひろみちゃんが黄色い声をあげているのが見えてることだろう。どんな光景なのだろう。
でも僕の隣にいる彼女はとってもちっちゃくて、かわいい。巨きくてもかわいいのだから、かわいくて当たり前だ。
かわいい。
僕の彼女は宇宙一巨大だけど、世界一かわいい。僕にとって。
遊園地でのデートは、僕にとって忘れられない思い出になった。
そんな思い出の日記を読み返した。
僕は大人になり、彼女とは遠く離れてしまった。
離れすぎた。
彼女の存在が、あの日見た、太陽も山も隠すほどに巨きかった巨微ちゃんよりも、さらに巨きい。
なぜ、僕は彼女の手を離してしまったんだろう。
いつも一緒にいた時にはちっちゃくて可愛かった彼女の存在が、今は宇宙よりも大きい。