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聖女との麺会

「ほぅ、なるほど。これは牛と豚の肉を細かくしたものなのですね」


「はい。二つを混ぜることで牛特有の臭みを緩和する効果があるとのことです。また、脂の融点の低い豚を混ぜることで炒めた料理に使用した場合には冷めても美味しく食べられるという効果がございます」


 何がどうなったのか、コーヘイと助手のカリスは謁見の前に城の調理場で、第一王女『聖女』プラテネム・アールヴからと魔王国の重鎮貴族たちの視察を受けていた。少しピンクがかった銀色の長い髪、強い魔力を帯びてなお白い肌色は稀に生まれる『聖霊』の加護を持つが故の物であるとイデアから聞かされていた。

 ふわっとした印象は想像通りの聖女、しかし長期間眠り続けていたにもかかわらず目覚めた瞬間にまずこの良い香りの物が食べたいと希望するあたり、自分の欲求には正直なようである。さらにそれが許されてしまうのは権限が強いのか、はたまたイデアたちの後押しがあったからか。

 先ほどまで五体投地する勢いでコーヘイに厨房での調理を懇願していたキャロラインが、まるでできる女官のように料理に関する説明を行う姿には思わず笑みがこぼれてしまう。


「コーヘイ殿、そろそろ麺が茹で上がるですよ」


 カリスの声に、


「よーし。盛り付けて持っていくから、みんなテーブルについて準備してくれー」


 数人の料理人と給仕たちを残してゾロゾロと退出していく。

 決して狭くはないが換気が十分でない部屋で大人数が集まり、大量のお湯を沸かしているのだ。それ相応の息苦しさがあった。


「ふぇー、息が詰まるかと思ったぜ」


「この湿気具合は普通の方には苦手でしょうな。自分などは心地よいですが」


 さすがドワーフとうべきセリフだが汗だくなのは一緒である。


「やっぱし、スポットクーラー持ってきたら良かったな」


「とりあえず謁見までは技術の披露は最小限にとオーガスト殿が」


「わーっておりますよ。言ってみただけさ。明日にゃ街にも出られるだろうしな」


「でありますな」


 綺麗な器に麺を盛り付け、数が少なくなった豚バラベーコンの代わりにビニール袋で麺つゆに2時間つけた味付け茹で卵をトッピングする。そして野菜と炒めたヒキニクのスープを流し込んだ。


 用意したのは5食。

 聖女、カリス、ヴィロスに……?


「や、元気そうだね」


「来てたのか」


「今朝、着いたところさ。いいタイミングだったよ」


 テーブルで爽やかに片手をあげそう笑うのは魔王国国王カルブンクルスと、ウェーブした綺麗な金髪の気品あふれるご婦人。


「紹介するよ。僕の母親、ラピス王太后だよ。ずーっと体調を崩していたんだけど、コーヘイ達からもらった『栄養ドリンク』を定期的に飲むようになったら元気になったとかでね」


「コーヘイ殿とおっしゃいましたか。いろいろと皆様方のお話は私の耳にも聞き及んでおります。お手伝いできることがあれば何なりとおっしゃってくださいね」


 病床に伏していたところから一か月ほどで味噌ラーメンが食べられるようになったのだから、大した回復状態である。


 香しいラーメンを目の前に神に祈りを捧げ、カルブンクルスたちは慣れた手つきで割り箸で食べ始める。それを驚きのまなざしで見つめる聖女とその母親。二人にはプラのフォークを添えて出しておいた。

ヴィロスが誇らしげに『箸』について話し始めるのだった。

 久しぶりの家族の食事だったのだろう。先王が亡くなり、拗らせていた弟がまともになり、病弱な母親もこうしてテーブルを囲むことができたのだ。キャロラインがハンカチで涙をぬぐう。


「じゃ、またあとでな」


 と、踵を返してコーヘイは部屋の外に。カリスも続く。


「また準備ができましたら人を寄こします」


 後に続いたキャロラインがそう伝える。


「まー積もる話もあるだろうさ。こっちも疲れたから、明日にしてくれるとありがたいんだけどな」


「お伝えしておきます」


 礼をして二人を見送った。



 翌日、あれほど待たされた謁見はロイヤルファミリー勢揃いの中、華やかに執り行われ、コーヘイ達の新技術の一部を披露する場が設けられたり、とつつがなく終了した。

 

「で、これは何だね?」


 優雅な夕食の時間にキャロラインからビール片手のオーガストに手渡された一通の封書。


「まー、少しなまってきていたところですから、景気よく派手な依頼ならよいですね」


「ホントねー。ドカーンと行きたいわね」


「元の大きさに戻れるような広い場所がありがたいなぁ」


 さて、そんな彼らを待つものは。


 次回、新章突入。


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