世界破壊は告白の後で
「『君の運命の人は僕じゃない』って言うんなら、君と僕以外の人類が滅べば、必然的に『君の運命の人は僕』になれると思わないかい」
オレの上司がまたなんか変なことを言い出した。
「思うに、その論理展開は必要な前提条件を排除してるから齟齬しか生まれないと思うぜ、博士。 肝心な相手の気持ちを考えないから、気になるあの子の運命の人になれないんだと思うぜ、博士」
「ということで、これが地球はかいばくだん、だ。 これで、自分自身以外の人類を滅ぼせば、あの子の運命の人に自分自身がなれるっていう寸法さ」
「流れるような世界破壊宣言はやめといた方がいいと思うぜ、博士」
この博士、すさまじく天才なのだが、困ったことに定期的にラスボス的なムーブをしやがるのが玉に傷だ。
「残念だな、もうボタンを押してしまった。 あと、三分でボカンだ」
「こういう時は、普通に躊躇ったりするのが様式美って誰かから習わなかったのか、博士」
「残念ながら、生まれたときから天才だったから、全て独学なんだ」
だから、道徳心もないんだなこいつ。
「因みに、博士の運命の人って誰?」
「おや、我が助手よ。 命乞いとかしなくて良いのかい、あと2分30秒で世界は滅ぶのだが」
「今更あがいてもどうにもならないだろ。 それで?」
博士はまことに本当に遺憾なことに、有言実行の擬人化みたいな存在なのだ。世界が滅ぶといえば、大体滅ぶ。
「覚悟が極っているようだね。 さすが、我が助手。 それでは、これをみてくれ」
タブレットを渡された。写真でも入っているのだろうかと思って、画面をみるとそれはまごうことなくソシャゲのキャラ。ピックアップ中!って文字が書かれてる。
「期間限定のリシア水着スキンだ」
「うんうん、博士。 一応聞くけど、これ画面の向こうの存在だぜ?」
「これ、というんじゃない。 リシア様は画面の向こうで生きているんだ。 けれど、照れ屋だから」
「それで、運命の人じゃない(ガチャで来ない)ってことか。 博士、爆弾の本体はどこ?」
「これだが」
手乗りサイズの爆弾なのか。思った以上にコンパクトだな。
「ちょっと持たせてもらうぜ」
「ん、まあ、別に構わないが」
「ふんっ!」
ベキッ!
「ちょっとさわっただけで壊しちまった、本当にすまない、博士」
「いやいやいやいや! 地球を吹き飛ばせる爆薬入ってるのに、物理的にどうこうできるはずないだろう!?」
「爆弾が壊れたことに気づかない速度で粉砕したから、余裕だぞ」
「余裕じゃないよ!」
ゴタゴタうるさい。そんなんだから、いつも世界を滅ぼそうとしても、オレに阻止されるんだよ。
「大体、君は助手だろう!? 普通に、上司に従って世界を破壊するのがマナーだろうが!」
「いつも言ってるけど、オレと結婚してくれるなら、世界でもなんでも破壊するけど」
オレの運命はこの人なのだ。
「あ、ごめん。 君は、ビックリするくらいタイプじゃないから、無理」
「お巡りさん、いつもお疲れ様です。 捕獲しときましたので、あとはお任せします。 死刑が丁度良いかと」
まあ、死刑執行含めて二日後には帰ってきてるだろうけど。
◆
「ということで、全人類を滅ぼすすげーうぃるす、を開発した」
「出所祝いのパーティー中に何を作ってるんだ、この博士。 あと、オレの血液はそれの血清になるから、全く意味はない」
「どうして、君はいつもそうなんだ!」
「だから、オレと結婚してくれるならいつでも」
「それは無理!」
博士 天才
助手 オレっ娘