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【Case1】2.意外とこじらせるタイプ  (4)

 俺らは、騒ぎを起こして面白がってるわけじゃない。


 どうしても、他に方法がみつからなくて。正攻法では、大切なものを奪われたままで。


 だから。


「……こーちん」


 隣の席から俺のシャツの裾を引っ張るミーコの抑えた声に、椿さんがはっとした顔になった。


「ごめんね。なんかちょっと、熱くなりすぎたかも」


「……いや、俺も」


 椿さんに謝られて、俺は焦って目を伏せる。


「犯罪の話になると、つい熱くなっちゃって。友達にもよく言われるの。そんなに気になるなら、早く司法試験受かって自分が現場に出ろって」


 その場をとりなすように椿さんが笑って、話は終わった。




「あれは大人げなかったよ、こーちん」


「一椀」からの帰り道、ミーコが俺の顔を見上げた。


 人通りのない夜の住宅街で、すべすべのちっこい顔が街灯に照らされる。


「……何が?」


 わかっていて、俺は目をそらした。


「ブルーの話。……あんな、お父さん警官で自分は検事みたいな人、反感持ってるに決まってんじゃん。怪盗なんて」


 わかってんでしょ? とでかい目ににらまれて、


わりい」


 目をそらしたまま俺はつぶやく。


 まーな。わかってるよ。あれは俺の八つ当たりだったって。

 俺らがブルーやってる理由なんて、知るわけねーもんな。あの人が。


「……あーあ」


 俺はぐしゃぐしゃと前髪をかきまわす。

 最近、うまくいかねーな。なんか、いろいろ。


「――なんか俺、苦手かも。あの人」


 妙に、気になっちゃうんだよ。あの人の表情とか、言葉とか。なんかこう、引っかかるっていうか、残るっていうか。


 普通に顔見て世間話するだけのはずが、うまくいかない。変なタイミングで、感情が暴走する。


 おっかしーな。コミュ力まあまあ高いはずなんだけど、俺。


「えー?」


 ミーコがあきれた声を出した。


「なにそれ。こーちん、意識しすぎなんじゃん? きれいだから、椿さん」


「……そーか?」


 俺は驚いてミーコを見返す。


「あんま、かわいいって感じしなくね? あの人」


 アイドル系でも、きれい系ってわけでもなくて。正直、地味っていうか、かわいげなくない? あの人。胸もないし。


 助けを求めるように翠を見ると、


「きれいな人だと思ったよ、俺も」


 おまえが言う? っていうセリフを、整いすぎた顔がしれっとはいた。


「えーマジ? 結構、真逆まぎゃくなんですけど。俺の好みと」


 眉を寄せた俺に、


「知らないしそんなの。てか、こーちんの好みってどんな人?」


 ミーコがたずねる。


「えー」


 俺は、思いつくままこたえた。


「ゆるふわっていうかー。年下で、甘えてくれてー。かわいくて、胸あってー」


「キッモ」


「おまえが訊いたんじゃねーかよ!」


 吐き捨てるようにミーコに言われ、夜道の真ん中でブチ切れる俺。


「とにかく、明日はちゃんと普通にしてよ? こーちん」


「ういーす」


「ちょっとー。態度悪い」


「……うるっせーな、おまえは」


 いつも通りがちゃがちゃし始めた俺らの前を、我関せずって感じで歩いていく翠。


(――そうだよ)


 その細い後ろ姿を眺めながら、俺は思っていた。


 なにが「きれいな人」だよ。


 年上だし、服とかもーちょいなんとかすればよさそうなのに、すっぴんで勉強ばっかして。ブルーのこと、目の敵にしてて。――彼氏持ちで。


 真逆なんだよ。あんな女。




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